(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月2日05時25分
三重県安乗埼東南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
引船春日丸 |
台船D-305 |
総トン数 |
97.17トン |
全長 |
|
60.00メートル |
登録長 |
23.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
船種船名 |
漁船光太郎丸 |
総トン数 |
6.0トン |
登録長 |
11.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
80 |
3 事実の経過
春日丸は、鋼製引船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉で船首尾とも0.3メートルの喫水となった無人の鋼製台船D-305(以下「台船」という。)を船尾に引き、春日丸の船尾から台船の後端までの長さが約380メートルの引船列とし、船首1.10メートル船尾3.10メートルの喫水をもって、平成12年3月1日15時40分ひし形の形象物1個を掲げて静岡県御前崎港を発し、大阪港に向かい、日没とともに、マスト灯3個を連掲したほか、舷灯、船尾灯及び引き船灯を点灯し、台船には舷灯及び船尾灯のほか、両舷側各3個及び船尾灯上部に1個の点滅灯を点灯して西行した。
A受審人は、船橋当直を機関員と2人による6時間交代2直制とし、23時から当直に就いたところ、北西風が強かったため、沿岸に沿って航行し、翌2日03時45分ごろ瀬木寄瀬(せぎよせ)東方灯標の東南東2海里付近を通過したのち、針路を徐々に南寄りに向け、04時55分鎧(よろい)埼灯台から108度(真方位、以下同じ。)4.4海里の地点に達したとき、針路を172度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵として進行した。
05時00分A受審人は、昇橋した機関員と当直を交代しようとしたところ、右舷船首40度から60度ばかりのところに、沖に向け航行する数隻の漁船の灯火を認めたことから、操舵を機関員に行わせ、そのまま在橋して操船の指揮を執ることとした。
05時10分A受審人は、安乗埼灯台から090度5.4海里の地点に至り、前示漁船群の灯火が船首方を左方に替わったとき、ふと、右舷後方を振り返ったところ、右舷船尾20度から30度にかけての距離1海里から2海里のところに光太郎丸を含む3隻の漁船の灯火を認め、それらが速力の速い追い越し船であったことから、台船を曳(えい)航中であることを示すため、船尾方に向けて設置した後部マストの300ワットの探照灯2個を点灯し、その点滅を繰り返したところ、まもなく光太郎丸を除く2隻の漁船が台船の左舷船尾方に替わったため、探照灯を消灯して続航した。
05時22分A受審人は、安乗埼灯台から102度5.7海里の地点に達したとき、光太郎丸の白、紅2灯を右舷船尾29度800メートルに認め、なおも接近してきたことから、衝突のおそれがあると認め、同時23分探照灯2個を再び点灯してその点滅を再開するとともに、電気ホーンによる警告信号を開始し、機関を4.0ノットの微速力前進に減じて進行した。
05時24分A受審人は、右舷船尾25度300メートルまで接近し、台船の船首に距離100メートルでほぼ並んだ光太郎丸が、突然、左回頭を開始して台船の前路に進出したのを認め、機関を停止したが及ばず、05時25分安乗埼灯台から103度5.7海里の地点において、原針路のまま2.0ノットとなった台船の右舷船首に、光太郎丸の左舷側中央部がほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、光太郎丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.45メートルの喫水をもって、同月2日04時28分数隻の僚船とともに三重県菅島漁港を発し、大王埼東方の漁場に向かった。
B受審人は、漁場着が日出となるよう、機関を全速力よりわずかに下げ、04時34分菅島灯台から049度1,300メートルの地点に達したとき、針路を153度に定め、13.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
05時10分B受審人は、安乗埼灯台から070度4.4海里の地点に達したとき、左舷船首14度2.0海里に春日丸の掲げる白、黄各1灯のほか後部マストから船尾方を照らした2個の探照灯を認めたが、同探照灯をいちべつしただけで、平素見かける操業中のトロール漁船が船尾方の網を照らすために掲げる作業灯と似ていたため、春日丸を同航する速力の遅い操業中のトロール漁船と判断し、同船の掲げる灯火を十分に確認せず、漁網にさえ注意しておけば大丈夫と思い、その後見張りを十分に行わなかったため、同船が引く台船の船尾灯にも、探照灯がまもなく消灯したことにも気付かず、春日丸の船尾300メートルばかりに接近したら漁網に接触しないよう、同船の船尾を直角に横切るつもりで続航した。
05時22分B受審人は、安乗埼灯台から099度5.4海里の地点に至り、春日丸の灯火を左舷船首10度800メートルに認めたとき、その20度左方となる左舷船首30度500メートル付近に台船の船尾灯のほか、台船周囲に設置された7個の点滅灯をも認めることができる状況となったが、なおも台船の存在に気付かず、同時23分春日丸の灯火を左舷船首8度600メートルに認めるようになり、左舷船首40度となった台船に300メートルまで接近したとき、春日丸の船尾の探照灯が再び点灯してその点滅が開始されるとともに、警告信号が発せられたが、そのいずれにも気付かないまま進行した。
05時24分B受審人は、春日丸の灯火を左舷船首6度300メートルに認めるようになったとき、台船の船首が左舷正横100メートルに並んだが、依然、見張り不十分で、このことに気付かず、春日丸の船尾を直角に横切るべく、機関を5.0ノットの微速力前進に減じ、左転を開始して台船の前路に進出し、光太郎丸は、082度を向首したとき前示のとおり衝突した。
衝突の結果、台船は、損傷がなく、光太郎丸は、上甲板構造物及び船首端から1メートルのところから船尾端から2メートルにかけての左舷側ブルワークがそれぞれ破損したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、三重県安乗埼東南東方沖合において、光太郎丸が、船首方を同航する春日丸引船列の表示する灯火の確認が十分でなかったばかりか、同引船列に接近した際、春日丸の船尾方に対する見張りが不十分で、被引台船の前路に進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、三重県安乗埼東南東方沖合を漁場に向け南下中、船尾に白、黄各灯1灯を掲げたうえ、探照灯により船尾方を照射し、低速力で同航する春日丸を船首方に認めて接近し、同船の船尾方を横切ろうとする場合、同船の被引台船を見落とさないよう、同船の船尾方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、春日丸が船尾方を照射していたことから、平素見かける操業中のトロール漁船で、漁網さえ注意していれば大丈夫と思い、春日丸の船尾方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、被引台船に気付かず、春日丸の船尾方を直角に横切ろうと左転して被引台船の前路に進出し、被引台船との衝突を招き、自船の上甲板構造物及び左舷側ブルワークにそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。