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平成13年横審第68号
件名

油送船三帝丸貨物船プロシオン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月1日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、原 清澄、甲斐賢一郎)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:三帝丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:三帝丸甲板長
C 職名:プロシオン船長 

損害
三帝丸・・・船首部、船首端を圧壊
プロシオン・・・右舷後部外板に破口

原因
三帝丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
プロシオン・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、三帝丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、プロシオンが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月26日02時13分
 三重県大王埼南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 油送船三帝丸 貨物船プロシオン
総トン数 699トン 9,083トン
全長 67.28メートル 144.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 9,627キロワット

3 事実の経過
 三帝丸は、船尾船橋型の液化ガスばら積船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、塩化ビニールモノマー900トンを載せ、船首3.7メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成12年10月25日12時10分兵庫県東播磨港を発し、茨城県鹿島港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を、同受審人が07時30分から11時30分までと19時30分から23時30分までの時間帯に、次いでB指定海難関係人、一等航海士の順にそれぞれ単独による4時間3直制で行うことに決め、同日23時30分梶取埼灯台から068度(真方位、以下同じ。)12.7海里の地点で、針路を050度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、B指定海難関係人に同当直を引き継いだ。
 このときA受審人は、B指定海難関係人が初めて単独の船橋当直に就くことを知っていたが、それまでに同指定海難関係人と何度か乗り合わせたことがあり、相当直の折りに基本的な航法などを指導していたことや同指定海難関係人が甲種甲板部航海当直部員の認定を受けていることなどから、視界制限状態となれば報告があるものと思い、何かあれば報告するようにと指示しただけで、報告すべき視界の程度を具体的に示し、その状態となったときには速やかに報告するよう指示することなく降橋した。
 こうしてB指定海難関係人は、航行中の動力船の灯火を表示して熊野灘を北上中、翌26日02時00分大王埼灯台から217度22.1海里の地点に差し掛かったとき、それまで見えていた左舷前方約5海里のところを航行する船舶の灯火を視認することができなくなり、その後霧のため急速に視界が制限される状態となったことを知ったものの、接近するおそれのある他船を認めていなかったので、報告するまでもないものと考え、視界制限状態となったことをA受審人に報告せず、同受審人が操船の指揮を執って霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもできないまま進行した。
 B指定海難関係人は、6マイルレンジとしたレーダーで見張りに当たり、02時07分大王埼灯台から216度20.8海里の地点に達したとき、左舷船首7度3.1海里のところにプロシオンの映像を初めて探知し、その後3マイルレンジに切り替えてその動静を見守るうち、同時09分プロシオンの方位に明らかな変化がないまま2.0海里に接近したことを認めたものの、その映像を監視することに気をとられ、依然としてA受審人に報告しないまま続航した。
 このためA受審人は、視界制限状態において、プロシオンと著しく接近することを避けることができない状況となったが、直ちに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもできなかった。
 02時11分B指定海難関係人は、大王埼灯台から215.5度20.0海里の地点に至ったとき、レーダー映像でプロシオンの方位が変わらないまま0.9海里に接近したことを知り、手動操舵に切り替え、同船と左舷を対して航過するつもりで055度に針路を転じ、同時12分更に060度に転じて進行した。
 02時13分少し前B指定海難関係人は、左舷船首30度230メートルのところに迫ったプロシオンの白、白、緑3灯を初めて視認し、直ちに左舵一杯としたが及ばず、02時13分三帝丸は、大王埼灯台から215度19.7海里の地点において、船首が040度に向いたとき、原速力のまま、その船首がプロシオンの右舷後部に前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の北東風が吹き、視程は700メートルであった。
 A受審人は、自室で休息中、衝撃を感じて目覚め、急いで昇橋して事後の措置に当たった。
 また、プロシオンは、船尾船橋型の冷凍貨物船で、パナマ共和国の海技免状を受有するC指定海難関係人及び同海技免状を受有するフィリピン人の二等航海士Kほか日本人1人及びフィリピン人17人が乗り組み、果物1,580トンを載せ、船首4.25メートル船尾7.10メートルの喫水をもって、同月25日21時50分名古屋港を発し、大韓民国鎮海港に向かった。
 C指定海難関係人は、船橋当直を、K二等航海士が00時から04時までと12時から16時までの時間帯に、次いで一等航海士、三等航海士の順にそれぞれ担当させ、各直に甲板手1人をつけた4時間3直制で行うことに決め、出航操船に引き続き操船指揮をとって伊勢湾を南下し、翌26日00時13分伊良湖水道航路南口を通過したのち、大王埼沖合に向けて進行した。
 00時40分C指定海難関係人は、鎧埼の東北東方約4海里の地点で、K二等航海士に船橋当直を委ねて降橋することとしたものの、視界制限状態となったときには霧中信号を励行し、かつ、遅滞なく船長に報告することなど、船橋当直中の注意事項について英文で記載した文書を各航海士に回覧していたので、視界制限状態などの状況となれば報告があるものと考え、改めて同注意事項に従って同当直業務を行うよう指示しないまま降橋した。
 K二等航海士は、航行中の動力船の灯火を表示して熊野灘を南下中、02時00分大王埼灯台から213.5度15.3海里の地点で、針路を220度に定め、機関を全速力前進にかけて21.2ノットの速力で自動操舵により続航した。そのころ同航海士は、霧のため急速に視界が制限される状態となったことを知ったが、このことをC指定海難関係人に報告しなかったばかりか、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしなかった。
 02時07分K二等航海士は、大王埼灯台から214.5度17.8海里の地点に達したとき、6マイルレンジとしたレーダーにより右舷船首3度3.1海里のところに三帝丸の映像を探知していたが、折から右舷船首20度約4海里のところに探知していた右舷を対して近距離のところを航過する態勢の第三船に気をとられ、三帝丸の動静監視を十分に行っていなかったので、三帝丸の方位に明らかな変化がないまま互いに接近していることに気付くことなく進行した。
 02時09分K二等航海士は、大王埼灯台から214.5度18.5海里の地点に至ったとき、三帝丸の映像を2.0海里のところに探知し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然として第三船に気をとられていてこのことに気付かず、直ちに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
 02時12分K二等航海士は、ほぼ正船首700メートルのところに三帝丸の紅灯を初めて視認し、手動操舵に切り替えて左舵一杯としたが及ばず、02時13分プロシオンは、船首が150度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C指定海難関係人は、自室で休息中、衝撃を感じて昇橋し、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、三帝丸は、船首部を船首端から約4メートルにわたって圧壊し、プロシオンは、右舷後部外板に破口4箇所を伴う凹損及びプロペラ羽根折損などを生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧で視界制限状態となった三重県大王埼南西方沖合において、北上中の三帝丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしなかったばかりか、レーダーにより前路に探知したプロシオンと著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南下中のプロシオンが、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしなかったばかりか、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した三帝丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 三帝丸の運航が適切でなかったのは、船長が甲種甲板部航海当直部員の認定を受けた船橋当直者に対して視界制限状態となったときの報告についての指示を十分に行わなかったことと、同当直者が視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、熊野灘を北上中、甲種甲板部航海当直部員の認定を受けた甲板長に船橋当直を単独で行わせる場合、視界制限状態となったときに自ら操船の指揮が執れるよう、報告すべき視界の程度を具体的に示し、その状態となったときには速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、視界制限状態となれば報告があるものと思い、速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、霧のため視界制限状態となったときの報告が得られず、自ら操船の指揮を執ることができないまま進行してプロシオンとの衝突を招き、三帝丸の船首部を圧壊させ、プロシオンの右舷後部外板に破口を伴う凹損及びプロペラ羽根折損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、熊野灘を北上中、霧のため視界制限状態となった際、速やかに船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 C指定海難関係人が、夜間、熊野灘に向けて南下中、二等航海士に船橋当直を委ねる際、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図(1)

参考図(2)





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