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平成14年函審第29号
件名

漁船第十一勝清丸漁船第三十八亀宝丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月29日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(工藤民雄)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第十一勝清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第三十八亀宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
勝清丸・・・左舷船尾角に損傷
亀宝丸・・・右舷船首部に破口を伴う亀裂

原因
亀宝丸・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
勝清丸・・・見張り不十分、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第十一勝清丸を追い越す第三十八亀宝丸が、見張り不十分で、第十一勝清丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第十一勝清丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月12日05時30分
 北海道苫小牧港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一勝清丸 漁船第三十八亀宝丸
総トン数 4.9トン 4.7トン
全長 15.05メートル 14.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 422キロワット 279キロワット

3 事実の経過
 第十一勝清丸(以下「勝清丸」という。)は、小型底びき網漁業に従事する、船体のほぼ中央に操舵室を配置したFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、ほっき貝の稚貝採取及び放流の目的で、船首1.15メートル船尾2.14メートルの喫水をもって、平成14年4月12日02時45分北海道苫小牧港漁港区を発し、同港沖合の採取地に向かった。
 A受審人は、03時00分ごろ苫小牧港港域内の、苫小牧港東外防波堤灯台(以下「東外防波堤灯台」という。)北東方500メートル付近に到着し、桁網を引いてほっき貝の稚貝約1トンを採取したのち放流のため、05時06分同地点を発進し、東外防波堤灯台東方3海里付近の稚貝放流海域に向け航行した。
 05時20分A受審人は、東外防波堤灯台から080度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点に到着したとき、針路を270度に定めて自動操舵とし、機関を極微速力前進にかけて1.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、苫小牧港港域内を西行した。
 間もなく、A受審人は、後方が見渡せる前部甲板上でほっき貝の放流を開始し、05時24分東外防波堤灯台から079.5度2.8海里の地点に達したとき、左舷船尾27度1,050メートルのところに第三十八亀宝丸(以下「亀宝丸」という。)を視認でき、その後同船の方位が変わらず、自船を追い越す態勢で接近していたが、後方から接近する他船が自船をかわしていくものと思い、稚貝の放流に気をとられ、後方の見張りを行っていなかったので、これに気付かず、避航の気配のないまま接近する亀宝丸に対し、警告信号を行わず、更に間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく同一針路、速力で進行中、05時30分東外防波堤灯台から078度2.6海里の地点において、亀宝丸の船首が、原針路、原速力のままの勝清丸の左舷船尾角に後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
 また、亀宝丸は、小型底びき網漁業に従事する、船体のほぼ中央に操舵室を配置したFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、ほっき貝の稚貝採取及び放流の目的で、船首0.40メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同日02時00分苫小牧港漁港区を発し、同港沖合の採取地に向かった。
 B受審人は、02時40分ごろ苫小牧港港域内の、東外防波堤灯台東方4.5海里付近に到着し、桁網を引いてほっき貝の稚貝約320キログラムを採取したのち放流のため、05時12分同地点を発進し、東外防波堤灯台東方3.5海里付近の稚貝放流海域に向け航行した。
 05時19分B受審人は、東外防波堤灯台から089度3.75海里の地点に到着したとき、針路を290度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,400にかけて7.2ノットの速力で、苫小牧港港域内を西行した。
 間もなく、B受審人は、前方の見通しが効く前部甲板上でほっき貝の放流を開始し、05時24分東外防波堤灯台から085度3.25海里の地点に達したとき、右舷船首7度1,050メートルのところに西行する勝清丸を視認でき、その後同船の方位が変わらず、勝清丸を追い越す態勢で接近していたが、稚貝の放流に気をとられ、前方の見張りを行っていなかったので、これに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく同一針路、速力で進行中、亀宝丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、勝清丸は、左舷船尾角に損傷を生じ、亀宝丸は、右舷船首部に破口を伴う亀裂を生じ、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、苫小牧港港域内において、勝清丸を追い越す亀宝丸が、見張り不十分で、勝清丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、勝清丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、苫小牧港港域内において、ほっき貝の稚貝を放流しながら西行する場合、右舷前方を先航する勝清丸を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、稚貝の放流に気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、勝清丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、勝清丸の左舷船尾角に損傷を、亀宝丸の右舷船首部に破口を伴う亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 A受審人は、苫小牧港港域内において、ほっき貝の稚貝を放流しながら西行する場合、低速力で航行していたから、左舷後方から接近する亀宝丸を見落とすことのないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方から接近する他船が自船をかわしていくものと思い、稚貝の放流に気をとられ、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、亀宝丸が自船を追い越す態勢で接近していることに気付かず、亀宝丸に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。 


参考図
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