(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月21日10時50分
根室海峡
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十一京光丸 |
漁船第二十三廣運丸 |
総トン数 |
9.7トン |
4.9トン |
全長 |
19.74メートル |
登録長 |
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11.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット |
漁船法馬力数 |
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90 |
3 事実の経過
第三十一京光丸(以下「京光丸」という。)は、ほっけ刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.48メートル船尾1.86メートルの喫水をもって、平成13年11月21日01時00分北海道羅臼港を発し、同港東北東方14海里の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、9月16日に同漁の漁期が到来した後、第2、第4日曜日の休漁日を除いて02時ごろ出港して夜間操業を行い、12時ごろ羅臼港に帰港する日帰りの操業を繰り返し、航行中及び漁場で休息がとれない操業が2箇月ばかり続いていて、疲労が蓄積していたうえ睡眠不足の状態になっていた。
A受審人は、02時30分前示漁場に至り、操業を開始してほっけ約1.2トンを漁獲したところで操業を打ち切り、10時10分羅臼灯台から079.5度(真方位、以下同じ。)12.6海里の地点を発進し、針路を231度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で自動操舵により、ロシア連邦との協定により通過を義務づけられている地点(以下「チェックポイント」という。)に向け進行した。
A受審人は、発進時から単独で船橋当直に就き、レーダーによりチェックポイントに漂泊している多数の同業船を認め、操舵室右舷側の椅子に腰を掛けて見張りに当たっていたところ、10時20分ごろ羅臼灯台から084度11.0海里付近で、疲労の蓄積と睡眠不足により眠気を催したが、まもなくチェックポイントに到着するから大丈夫と思い、甲板で作業中の甲板員を呼んで見張りに当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、そのまま腰を掛けて見張りを続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
10時44分少し過ぎA受審人は、羅臼灯台から101度7.9海里の地点に達したとき、正船首1.0海里に漂泊中の第二十三廣運丸(以下「廣運丸」という。)を認めることができる状況で、その後同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りしていてこれに気付かず、同船を避けないまま続航中、10時50分羅臼灯台から107度7.4海里の地点において、京光丸は、原針路、原速力のまま、その船首が廣運丸の右舷中央部に後方から69度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、廣運丸は、ほっけ刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日01時00分羅臼港を発し、02時30分同港東南東方12海里の漁場に至って操業を行い、ほっけ約1.6トンを漁獲して操業を打ち切り、10時00分同漁場を発進してチェックポイントに向かった。
B受審人は、発進時から単独で船橋当直に当たり、10時25分チェックポイントに至り、機関を停止回転にかけて漂泊を開始したのち船橋当直を続け、出漁した同業船の全船で帰港するため、周囲の8隻ばかりの同業船とともに待機した。
B受審人は、10時33分船首が西北西方に向いているとき、右舷正横付近3海里に京光丸を初めて認め、同時44分少し過ぎ羅臼灯台から107度7.4海里の地点で、船首が300度に向いているとき、同船が右舷船尾69度1.0海里となり、その後同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していたが、チェックポイントで漂泊待機するものと思い、操業日誌の記入をしていて京光丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、これに気付かず、警告信号を行わないまま、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、10時50分わずか前右舷正横至近に迫った京光丸を認め、驚いて機関を前進にかけたが間に合わず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、京光丸は、球状船首部に擦過傷及び左舷船首部に小破口を伴う凹損を生じ、廣運丸は、右舷中央部外板に破口を生じて浸水し、羅臼港に引き付けられ、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、根室海峡において、京光丸が、多数の同業船が漂泊待機している地点に向け航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の廣運丸を避けなかったことによって発生したが、廣運丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、根室海峡において、単独で船橋当直に就いて多数の同業船が漂泊待機している地点に向け航行中、眠気を催した場合、疲労が蓄積していたうえ睡眠不足となっていたから、居眠り運航とならないよう、甲板で作業中の甲板員を呼んで見張りに当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、まもなくチェックポイントに到着するから大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、漂泊中の廣運丸を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の右舷中央部外板に破口を生じて浸水させ、京光丸の球状船首部に擦過傷及び左舷船首部に小破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、根室海峡において、多数の同業船とともに漂泊中、右舷正横付近に京光丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、京光丸がチェックポイントで漂泊待機するものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わないまま、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。