(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月27日21時20分
宮崎県細島港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート卓恵丸 |
プレジャーボート幸健丸 |
総トン数 |
4.0トン |
|
登録長 |
9.52メートル |
7.36メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
183キロワット |
84キロワット |
3 事実の経過
卓恵丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、同人の妻を乗せ、宮崎県門川漁港北方の鳴子海浜総合運動公園で行われる港祭りの花火大会を知人とともに見物する目的で、船首0.1メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成12年8月27日18時00分同漁港内の船だまりを発し、細島港の庄手川右岸にある梶木地区船だまりに立ち寄り、知人5人を乗せ、同時30分ごろ同船だまりを発進して門川漁港に向かった。
A受審人は、18時45分ごろ同漁港に到着し、乙島防波堤の北側約300メートルのところに設置された養殖いかだに係留して花火大会を見物した。
20時50分A受審人は、花火が終了するとともに、白色の全周灯及び両舷灯をそれぞれ点灯し、養殖いかだを発進して細島港に向かい、21時10分ごろ梶木地区船だまりにおいて、知人5人を下船させ、同時15分同船だまりを発し、門川漁港に向けて帰路に就いた。
ところで、細島港は、牧島南側の商業港、同島北西方の工業港、同島北側の木材港及び外港に分かれており、工業港には、北東方から南西方にかけて全長1,770メートルの航路が設定され、同航路のうち、航路南西口と竹島西方400メートルばかりに設置されている細島工業港第6号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「細島工業港」の冠称を省略する。)との間は、長さ1,350メートル、航路幅200メートルで045度(真方位、以下同じ。)の直線航路となっており、その両岸に日向精錬所のほか各種工場が存在した。
A受審人は、操舵室右舷側にある高さ65センチメートルのいすの上に立ち、同室天井に設けた見張り用の開口部(以下「開口部」という。)から顔を出して見張りを行いながら操船に当たり、手動操舵によって進行した。
21時18分A受審人は、細島港余島防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から237度3,000メートルばかりの地点に達して、第6号灯浮標の北東方500メートルばかりに設置されている第3号灯浮標の緑光などが視認できるようになり、航路内に他船を認めなかったことから、開口部からの見張りを止めていすに腰をかけ、両岸の陸上の灯火などを確認して小刻みに左転しながら航路入口に向かって続航した。
A受審人は、21時19分防波堤灯台から235.5度2,820メートルの地点において、針路を航路入口に向く058度に定め、機関を回転数毎分1,100の半速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、同時19分わずか過ぎ防波堤灯台から235.5度2,810メートルの地点に達したとき、左舷船首13度670メートルのところに、航路を航行する幸健丸の白1灯を視認することができる状況となったものの、見張りを十分に行わず、これに気付かないで続航した。
A受審人は、21時19分半防波堤灯台から235度2,680メートルの地点において、航路のほぼ中央部に向けて針路を044度に転じ、間もなく正船首に幸健丸の白、紅、緑3灯を視認し得る状況となり、同時19分半わずか過ぎ防波堤灯台から235度2,660メートルの地点において、航路入口のほぼ中央部から航路に進入したとき、同船がほぼ正船首300メートルとなり、航路内で行き会う態勢となったが、花火見物に行った船は既に帰港し、航路に入ってくる船はもういないものと思い、依然として見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、右転して航路の右側を航行することなく、同針路、同速力のまま北上した。
21時20分わずか前A受審人は、船首至近に迫った幸健丸の船体を視認したが、どうすることもできず、21時20分防波堤灯台から236度2,560メートルの地点において、卓恵丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が、幸健丸の右舷船尾部に前方から31度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
また、幸健丸は、FRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、家族4人を乗せ、前示の花火大会を見物する目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日18時30分庄手川右岸の定係地を発し、門川漁港に向かった。
18時45分ごろB受審人は、同漁港に至り、乙島防波堤先端の北側に係留して同防波堤上で花火見物をしたのち、防波堤上の見物客を送迎する瀬渡し船やプレジャーボートなどが帰り終えるのを待ち、21時10分乙島防波堤を発進し、定係地に向けて帰途に就いた。
B受審人は、白色全周灯及び両舷灯をそれぞれ表示し、操舵室右側で立って操船に当たり、乙島防波堤西端を通過したところ、東寄りのうねりがあったので、機関を半速力前進にかけ、9.5ノットの速力で細島港の航路入口に向けて南下した。
B受審人は、第6号灯浮標の北方から航路に入り、同灯浮標の東側至近において、機関を回転数毎分3,000の全速力前進にかけ、14.3ノットに増速し、手動操舵によって航路の右側をこれに沿って進行した。
B受審人は、右舷船首方の日向精錬所岸壁に多数の照明灯を点灯して着岸している大型船を認め、同船に接近しないよう、針路を左に転じて航路中央部に寄り、同大型船からの距離を十分に隔てたところで、21時18分少し過ぎ防波堤灯台から242度1,810メートルの地点において、針路を222度に定め、そのまま航路中央部を続航した。
21時19分わずか過ぎB受審人は、防波堤灯台から239度2,150メートルの地点に達したとき、右舷船首3度670メートルのところに、航路入口に向かって進行する卓恵丸の白1灯を視認できる状況となったものの、見張りを十分に行わず、これに気付かないで、同針路、同速力のまま進行した。
B受審人は、21時19分半卓恵丸が針路を転じて間もなく、ほぼ正船首に同船の白、紅、緑3灯を認め得る状況となり、同時19分半わずか過ぎ防波堤灯台から237度2,380メートルの地点に達したとき、卓恵丸が航路のほぼ中央部から航路に入航してほぼ正船首300メートルとなり、航路内で行き会う態勢となったが、このような遅い時刻に航路を航行する船はいないものと思い、依然として見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、右転して航路の右側を航行することなく、同針路、同速力のまま続航した。
21時20分わずか前B受審人は、正船首至近に迫った卓恵丸の船体を初めて視認し、左舵10度をとり、機関を中立としたが及ばず、幸健丸は、その船首が193度を向いたとき、約11ノットの速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、卓恵丸は、右舷船首部に擦過傷及び同船尾部に亀裂を生じ、幸健丸は、右舷船尾部に亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、卓恵丸及び幸健丸の両船が、細島港の航路を航行中、同航路内において行き会うとき、北上する卓恵丸が、見張り不十分で、航路の右側を航行しなかったことと、南下する幸健丸が、見張り不十分で、航路の右側を航行しなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、細島港において、航路を航行する場合、接近する他船の灯火を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、花火見物に行った船は既に帰港し、航路に入ってくる船はもういないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航路内で行き会う態勢となった幸健丸に気付かず、航路の右側を航行しないで衝突を招き、卓恵丸の右舷船首部に擦過傷及び同船尾部に亀裂を、また、幸健丸の右舷船尾部に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
B受審人は、夜間、細島港において、航路を航行する場合、接近する他船の灯火を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、このような遅い時刻に航路を航行する船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航路内で行き会う態勢となった卓恵丸に気付かず、航路の右側を航行しないで衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成14年2月13日門審言渡
本件衝突は、航路外から航路に入る卓恵丸が、見張り不十分で、航路を航行する幸健丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸健丸が、見張り不十分で、航路を航路の右側を航行せず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。