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平成14年第二審第16号
件名

漁船第二十八輝吉丸機関損傷事件〔原審長崎〕

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年10月30日

審判庁区分
高等海難審判庁(東 晴二、宮田義憲、佐和 明、山本哲也、山田豊三郎)

理事官
根岸秀幸

受審人
A 職名:第二十八輝吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
シリンダライナ、クランク軸、主軸受等を焼損、吸排気弁等損傷等

原因
主機過給機空気吸入フィルタの目詰まり防止措置不十分

二審請求者
理事官弓田邦雄

主文

 本件機関損傷は、主機過給機空気吸入フィルタの目詰まり防止措置が不十分で、燃焼不良となって燃焼ガスがクランク室に吹き抜けたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月22日16時00分
 長崎県長崎港内

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八輝吉丸
総トン数 19トン
登録長 16.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル12シリンダ・ディーゼル機関
出力 485キロワット
回転数 毎分2,100

3 事実の経過
 第二十八輝吉丸(以下「輝吉丸」という。)は、昭和56年6月に進水し、長崎県西彼杵半島の沿岸海域において、中型まき網漁業に従事するFRP製の網船で、月間平均17ないし18回夕方出漁して翌朝帰港する操業を周年繰り返しており、機関室に主機及びディーゼル原動機駆動の発電機1台を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び警報盤を備え、同室から発停を含む全ての運転操作ができるようになっていた。
 主機は、アメリカ合衆国キャタピラー社製の3412型と称するV型機関で、A重油を燃料とし、操業時も動力取出軸で甲板機器用の油圧ポンプを駆動するため、出漁中は発電機とともに連続運転となり、月間の運転時間が250時間ばかりで、全速力時の回転数を毎分1,800として使用されていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室油受の同油(標準循環油量136リットル)が、直結ポンプで吸引加圧され、同油冷却器及びこし器を経て両舷側に設けた入口主管に至り、分岐して主軸受、カム軸受、動弁装置、燃料噴射ポンプ、タイミングギヤ等に注油され、また、噴油ノズルから各ピストンの内側に噴射されるほか、過給機の軸受に注油されて各部を潤滑及び冷却し、いずれも油受に戻って循環するようになっていた。
 ところで、主機は、主軸受が架構に懸垂される構造で、クランク室の点検窓は油受からの位置が高く、機関室に据え付けたままの状態では、主軸受の点検や油受の拭き掃除は実質的に不可能に近く、取扱説明書には、潤滑油の性状管理について、運転時間を基準に500時間毎に同油及びこし器エレメントを新替するとともに専門業者に性状分析させ、取り替えたエレメント内側の付着物を点検するよう記載されていたが、開放整備時期については、運転時間ではなく、メーカー独自の潤滑油分析結果から、性状のほかに金属粒子の含有量で各軸受やピストンリングなどが異常摩耗していないか判断し、また、各部が経年摩耗して同油の消費量が新造時の3倍になったときには、開放時期になったものと判断するよう記載されていた。
 主機は、進水以来12年近く無開放で使用されたのち、平成5年4月に、ピストン抽出、吸排気弁摺合わせ、燃料噴射弁新替、過給機開放などの全般整備が施行された。
 A受審人は、同年主機の開放整備後に船長として乗り組み、漁労長を兼務し、また、自ら機関の保守管理にあたっていたもので、主機の取扱について、整備業者の説明を参考に始動前には必ず潤滑油量及び冷却清水量を確認し、ほぼ3箇月毎に潤滑油、同油こし器エレメント及び過給機空気吸入フィルタのエレメント(以下「過給機フィルタ」という。)を新替し、各冷却器海水側の保護亜鉛を適宜新替するなど日常の整備を行っていたが、船内に取扱説明書を備えておらず、また、潤滑油の性状分析依頼やこし器エレメントの付着物点検は行っていなかった。
 主機は、その後8年間近く無開放で運転が繰り返されて各部の自然摩耗が進行するのに伴い、運転音が少しずつ大きくなるとともに、前回開放整備直後は30ないし40リットルであった月間潤滑油消費量も徐々に増加し、月間80ないし100リットル消費する状況となっていた。
 A受審人は、主機運転音の変化がわずかずつであったのでこれに気付かず、また、潤滑油消費量が主機開放時期の判断基準となることを知らなかったが、乗船以来開放していないので、開放時期が近づいていると考えていた。しかし、運転状況に特に不安はなく、また、不漁が続いていたこともあって、費用が掛かる開放整備のことを会社に相談できないまま運転を続けていた。
 同じころ、主機過給機上方約2メートルの位置にある主機及び発電機共通の排気消音器において、底部の発電機排気管取付け部に亀裂破口が生じ、機関室内に漏洩した排気ガスを吸引して過給機フィルタが汚損し始めた。
 同13年1月下旬A受審人は、消音器の亀裂から排気ガスが漏洩していることに気付き、また2月下旬、主機潤滑油及び同油こし器エレメントとともに過給機フィルタを取り替えた際、同フィルタが排気ガスで汚損しているのを認めたが、定期的に取り替えるので問題はあるまいと思い、早期に同亀裂箇所を修理して過給機フィルタの目詰まり防止措置をとることなく、そのまま操業を続けていた。
 主機は、各部軸受やピストンリングなどの経年摩耗が進行していたところ、再び過給機フィルタが汚損してやがて著しく目詰まりし、給気量が減少したことから、燃焼不良となって燃焼ガスがクランク室に吹き抜け始め、ピストンが過熱気味になるとともに、排気温度が異常に上昇し、シリンダヘッドや過給機タービン側などに過大な熱負荷が作用し、左バンク用の一体型シリンダヘッド燃焼室側に微少亀裂が生じ、いつしか、吹き抜けガスや金属摩耗粉に加え、同亀裂から漏洩した冷却清水が混入して潤滑油が急速に劣化する状況となった。
 こうして、輝吉丸は、同年4月19日長崎県高島沖において、主機の回転数を毎分1,500として魚群探索中、シリンダライナに発生したかき傷や主機及び過給機各軸受の摩耗が進行して焼付き気味となったところ、17時00分過給機フィルタの目詰まりとタービン側熱負荷上昇の影響で軸受荷重が増大し、過給機軸受が異常摩耗してロータ軸が低下したことから、インペラとケーシングが接触して異音を発し、これに気付いたA受審人が主機を停止したところ再始動不能となり、僚船に救援を求めて曳航され、長崎港第4区土井首浦の岸壁に係留された。
 A受審人は、過給機のみが損傷したものと思い、翌20日修理業者に同機の修理と原因調査を依頼し、損傷部品、排気ガス消音器及び過給機フィルタを新替したものの、主機が焼付き寸前の状態であることに気付かないまま、荒天のため出漁を見合わせ、同月22日出漁準備のため、主機の潤滑油量及び冷却清水量などを点検したうえ、15時00分主機を始動し、毎分600の停止回転として操舵室で待機した。
 輝吉丸は、A受審人ほか乗組員11人が乗り組んで出漁準備中、同日16時00分長崎港三菱重工蔭ノ尾岸壁灯台から真方位141度1,750メートルの前示係留地点において、潤滑阻害及び燃焼ガスの吹き抜けにより、クランク軸、ピストン等が焼損して主機が停止した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、港内は穏やかだった。
 A受審人は、低速で運転していた主機が突然停止したことに驚き、点検したが原因が分からず、出漁を断念して修理業者に連絡した。
 主機は修理工場に搬入されて精査の結果、全ピストン及びシリンダライナ、クランク軸、主軸受、シリンダブロック軸受部等が焼損し、クランク軸及び主軸受の異常摩耗によりピストン行程が増大したことから、ピストンスカートと接触したピストン冷却用噴油ノズルが、また、ピストンヘッドと接触した吸排気弁がそれぞれ損傷し、連接棒が曲損したほか、過大な熱負荷により、左バンク用一体型シリンダヘッド及び排気集合管に焼割れが生じていることなどが判明し、のち、主機は、シリンダブロックを肉盛り修理し、左バンク用シリンダヘッドを中古品と取り替え、その他の損傷部品をすべて新替して修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機が長期間無開放で使用され、軸受やピストンリングなど各部の経年摩耗が進行した状況のもと、排気管に亀裂が生じ、漏洩した排気ガスで過給機フィルタが汚損していることを認めた際、早期に同亀裂を修理するなど、同フィルタの目詰まり防止措置が不十分で、同フィルタが著しく目詰まりしたことから、給気不足によって燃焼不良となり、燃焼ガスがクランク室に吹き抜けてピストンが過熱するとともに、潤滑油が急速に劣化するまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理にあたり、過給機フィルタ取替の際、同フィルタが排気管の亀裂から漏洩した排気ガスで汚損していることを認めた場合、燃焼不良となってピストンリングや過給機が損傷することのないよう、早期に排気管の亀裂を修理して同フィルタの目詰まり防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、同フィルタを3箇月毎に取り替えるので大丈夫と思い、早期に排気管の亀裂を修理して同フィルタの目詰まり防止措置をとらなかった職務上の過失により、取り替えた同フィルタが再び汚損して目詰まりし、給気量の不足から燃焼不良となって燃焼ガスがクランク室に吹き抜け、ピストンが過熱するとともに潤滑油が著しく劣化する事態を招き、主機各部を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成14年3月28日長審言渡
 本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、各部の摩耗が進行するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。


参考図
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