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平成13年第二審第39号
件名

プレジャーボートファンタジアケーエイチケーワイ
プレジャーボートマユミ衝突事件〔原審横浜〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月29日

審判庁区分
高等海難審判庁(東 晴二、宮田義憲、山崎重勝、吉澤和彦、山本哲也)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:ファンタジアケーエイチケーワイ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:マユミ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
フ 号・・・船首左舷外板に亀裂
マ 号・・・船首部バックミラーに損傷等
船長が頭部打撲等

原因
フ 号・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
マ 号・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

二審請求者
理事官古川隆一

主文

 本件衝突は、ファンタジアケーエイチケーワイが、マユミを追走中、動静監視不十分で、前路で停留した同船を避けなかったことによって発生したが、マユミが、停留する際、後方の確認が不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月25日10時30分
 千葉県富津岬北側水域

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートファンタジア プレジャーボートマユミ
  ケーエイチケーワイ  
全長   2.89メートル
登録長 4.43メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 66キロワット 106キロワット

3 事実の経過
(1)船舶
ア ファンタジアケーエイチケーワイ
 ファンタジア ケーエイチケーワイ(以下「フ号」という。)は、航行区域を限定沿海区域とする最大搭載人員旅客4人、船員1人、幅2.02メートル、深さ0.89メートルのFRP製プレジャーボートで、操縦席が船体中央部右舷寄りに設置され、その前面にプラスチック製風防が取り付けられていた。
 船体は米国のシュガーサンドマリン社製であるが、機関は米国のマーキュリー社製のウォータージェット推進方式で、最大回転数が毎分4,500となっており、最高速力が約42ノット(毎時約78キロメートル)であった。船首方向の変更は、舵輪によりジェットノズルの方向を変える方式で行われ、操縦席に腰掛けた状態での航走時における船首方の死角距離は約10メートルであった。
イ マユミ
 マユミ(以下「マ号」という。)は、川崎重工業株式会社製、ウォータージェット推進方式、幅1.01メートル、深さ0.37メートルの2人乗りFRP製水上オートバイで、最高速力が約43ノット(毎時約80キロメートル)であった。
 同船は、航走時においては、機関冷却水が船尾の排出口から排出され、機関回転数の多寡に応じてほぼ数メートルの高さに垂直の水柱となって噴出する構造となっており、航走状況が容易に判断できるようになっていた。
(2)受審人
ア A
 A受審人は、平成9年1月9日に四級小型船舶操縦士免状を取得し、全長6.1メートル、最高速力約32ノット(毎時約59キロメートル)のプレジャーボートを所有し、その遊走を楽しんでいた。
 A受審人は、自らが所有するプレジャーボートの定係場所においてプレジャーボートひかるを所有するIと知己となり、本件発生の1週間ほど前同人から、友人数人と富津岬付近で水上オートバイを操縦するので、その際ひかるに乗船して水上オートバイを操縦する者の落水、周囲の見張りなどの監視役を依頼され、当日はひかるを富津岬北側まで回航し、水上オートバイの到着を待つこととなっていた。
 ところで、A受審人は、フ号船舶所有者Fとは面識がなく、同船の操縦は初めてで、取扱説明書を読んだこともなく、このときフ号も富津岬に来ることについては聞かされておらず、またIの友人とはだれとも面識がなかった。
イ B
 B受審人は、平成11年4月15日四級小型船舶操縦士免状を取得し、同年6月10日千葉県市川市の業者からマ号を購入し、利根川、館山湾などの水域で遊走を楽しんでいた。
(3)発生地点付近の地理的状況
 発生地点は、東京湾の富津岬北側であるが、付近の水深が1メートル前後で浅く、一般船舶は航行しないものの、プレジャーボート、水上オートバイなどが多数集まって遊走する水域となっており、富津岬西端にはプレジャーボート等からの格好の目標となる明治百年記念展望台(以下「記念展望台」という。)が存在していた。
 また、同岬西端から西方約1,300メートルの地点に第1海堡があった。
(4)事件発生に至った経緯
 フ号は、本件発生日の平成11年7月25日朝Iによりトレーラーで運ばれ、09時過ぎ記念展望台北側で降ろされた。
 その後、ひかるを回航したA受審人は、付近水域にはプレジャーボート、水上オートバイなどが多数遊走あるいは停留しているなか、マ号を運んだB受審人、I及び同人の友人とともにフ号及びマ号の操縦を交代しながら遊走していたところ、両船で第1海堡付近まで航走することとなり、10時26分フ号は、A受審人ほか3人が乗船し、船首0.3メートル、船尾0.5メートルの喫水をもって、記念展望台北側の海浜を発し、第1海堡付近に向かった。
 A受審人は、第1海堡付近に向かって航走中、同乗者の勧めにより操縦を交代し、操縦席に腰掛け、マ号に先行して進行した。
 A受審人は、第1海堡に接近するにしたがって波が高くなり、航走し難くなったことから、10時28分少し前第1海堡に差し掛かったところで反転し、そのころ反転して記念展望台沖に向かっているマ号を認め、同船を追走することとした。
 10時28分A受審人は、記念展望台から288度(真方位、以下同じ。)1,450メートルの地点で、針路をマ号を正船首に見る089度に定め、同船とは300メートルの距離を維持することとし、波の状況に応じて機関を半速力程度で適宜調整しながら、20.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で続航した。
 A受審人は、マ号を追走中、10時29分半マ号が停留し、その機関冷却水の噴出が止まった状態となり、その後マ号への接近模様から同船が停留し、衝突のおそれが生じたことが分かる状況であったが、同船が航走を続けており、300メートルの距離があるので大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行した。
 10時29分半少し過ぎA受審人は、マ号が正船首約170メートルとなったとき、同船を見失い、同時30分わずか前正船首30メートルのところにマ号を再び認め、右舵一杯とし、機関を中立としたが及ばず、10時30分記念展望台から340度500メートルの地点において、フ号は、135度に向いたとき、その船首左舷側がマ号の船首右舷側に後方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で、風力3の南南西風が吹き、同方向から高さ0.5メートルの波があり、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、マ号は、B受審人により富津岬北側まで運ばれ、09時ごろから同受審人が友人と交代しながら遊走していたところ、フ号と共に第1海堡付近まで航走することとなり、10時26分B受審人が操縦し、後部座席に友人1人を乗せ、最大0.3メートルの喫水をもって、記念展望台北側の海浜を発し、4人が乗船したフ号に続いて第1海堡付近に向かった。
 10時28分少し前B受審人は、第1海堡に接近するにしたがって波が高くなってきたので、途中で引き返すこととして反転し、同時28分記念展望台から292度1,180メートルの地点で、針路を089度に定め、機関をほぼ半速力にかけ、20.0ノットの速力で進行した。
 B受審人は、反転したころフ号も反転し、その後フ号が正船尾300メートルのところを同じ針路及び速力で追走していたが、同船の動静については注意を払わなかった。
 B受審人は、波の影響が大きくなったので、いったん航走を中止して停留することとしたが、その際フ号が自船を追走していることに思い至らず、後方を確認しなかったので、フ号に気付かず、10時29分半記念展望台から340度500メートルの地点に達したとき、機関をアイドリング状態として行きあしを止め、停留し、その後フ号が衝突のおそれがある態勢で接近したが、機関の回転を上げてフ号の前路から退避するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま停留を続けた。
 10時30分わずか前B受審人は、145度に向首しているとき、フ号乗船者の大声で振り向き、至近に同船を認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、フ号は船首左舷外板に亀裂を、マ号は船首部バックミラーに損傷、ハンドル右握り部に曲損及び船底に擦過傷をそれぞれ生じ、のちいずれも修理された。
 B受審人は、衝突により海中に跳ね飛ばされ、意識を失い、頭部打撲、頚椎捻挫などを負った。

(航法の適用)
 マ号が停留した10時29分半まではフ号はマ号を300メートルの距離を維持しながら追走する状態で、両船はほぼ同じ速力であったことから、衝突のおそれはなかったが、マ号が停留した時点において、衝突のおそれが発生したものである。停留状態のマ号に航走するフ号が衝突のおそれがある態勢で接近したので、海上衝突予防法の定型的航法を適用することはできず、船員の常務により律するのが相当である。

(原因の考察)
1 A受審人のマ号に対する動静監視及び衝突の回避可能性
 A受審人の見張り模様により、同受審人は視認していたマ号が停留したのち、約170メートルまで接近したころ同船を見失ったと認められる。それまでの間常時注意深く動静監視をしていれば、接近模様によるほか、マ号の機関冷却水の噴出が止まったこと、停留したことによって船首方向が変わったことなどからも、同船が停留したことを認識できる状況であった。
 また、その後A受審人が、マ号を見失ったのは、航走時におけるフ号の船首方の死角距離は約10メートルで、見張りの妨げとなる状況ではなかったこと、波がやや高かったとはいえ停留したマ号の船体及び同乗者の身体が波間に没しても、その状態が長く続くことはあり得ないことなどにより、マ号に対する注意が十分でなかったものと考えられる。
 以上のことから、A受審人は、マ号に対する動静監視を十分に行っていなかったとするのが相当である。
 そして、A受審人がマ号を追走していたこと、追走距離300メートルを維持していたこと、見合い関係が始まったのは衝突の約30秒前であったことなどに加え、フ号の大きさ、回頭性能などから、同受審人が動静監視を十分に行っていれば、マ号が停留したとしてもこれを避けることは十分に可能であったものであり、同受審人がマ号に対する動静監視を十分に行わず、停留した同船を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
2 マ号の停留
 A受審人は、マ号を300メートルの距離を維持しながら追走していたものであるが、同船が停留したのち、これを避けるための十分な距離的、時間的余裕があり、同船が状況によっては停留するということを容易に想定できたから、マ号が停留したことをもって新たな衝突のおそれを生じさせたとするのは相当ではない。
3 B受審人が停留する際の後方確認
 航走状態から停留する際には、周囲、特に後方を確認することは安全上必要である。B受審人が停留する際、後方を確認しなかったことは、本件発生の原因となる。

(原因)
 本件衝突は、東京湾富津岬北側水域において、フ号が、マ号を正船尾から追走中、動静監視不十分で、前路で停留したマ号を避けなかったことによって発生したが、マ号が、停留する際、後方の確認が不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、東京湾富津岬北側水域において、東行するマ号を追走する場合、同船に著しく接近することのないよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、マ号が航走を続けており、300メートルの距離があるので大丈夫と思い、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、マ号が停留したことに気付かず、同船を避けないまま接近して衝突を招き、フ号の船首左舷外板に亀裂を、マ号の船首部バックミラーに損傷、ハンドル右握り部に曲損及び船底に擦過傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に頭部打撲、頚椎捻挫などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、東京湾富津岬北側水域において、東方に向かって航走中、停留する場合、自船を追走するフ号を見落とさないよう、後方を確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、フ号が自船を追走していることに思い至らず、後方を確認しなかった職務上の過失により、フ号に気付かず、同船との衝突を招き、前示の損傷等及び自身が負傷する事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成13年11月1日横審言渡
 本件衝突は、マユミが、見張り不十分で、ファンタジア ケーエイチケーワイの前路で停留し、同船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかっことによって発生したが、ファンタジア ケーエイチケーワイが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。


参考図
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