(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月21日08時45分半
長崎港第1区
2 船舶の要目
船種船名 |
巡視船りゅうきゅう |
引船ひかり二号 |
総トン数 |
3,335トン |
10トン |
全長 |
105.40メートル |
12.05メートル |
幅 |
14.60メートル |
4.02メートル |
深さ |
7.80メートル |
1.65メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
11,760キロワット |
360キロワット |
3 事実の経過
(1)りゅうきゅうの来歴
りゅうきゅうは、三菱重工業株式会社長崎造船所(以下「長崎造船所」という。)において、平成11年9月10日に進水し、2基2軸可変ピッチプロペラに2舵及びバウスラスターを備えた海上保安庁向け鋼製巡視船で、平成12年1月19日から臨時航行許可を取得して引渡し前の海上試運転に従事していた。
主船体は、下から順に下甲板、上甲板及び船首楼甲板の3層全通甲板からなり、船首楼甲板上には、ミッドシップより前方に最上層を船橋とする3層の甲板室、その後方に機関室囲壁、これに続くヘリコプター格納庫などの上部構造物があり、同格納庫の後方が船首楼甲板を船尾端まで延長した長さ約28メートルの飛行甲板となっていた。
船橋は、船尾端から約70メートル前方に位置し、幅約8.5メートルで、両側にほぼ舷端に達するウイングがあり、船橋前壁には、船体中心線から両舷各2メートルの範囲に、可変ピッチプロペラ翼角操縦レバー、操舵ハンドルなどを組み込んだ操船コンソールが、その後方に航海用レーダー、更に後方に機関等の運転諸元を監視する装置や海図台などがそれぞれ装備されており、船橋両側にウイングに通じる出入り口が設けられていた。
また、上甲板船尾付近には、係船用のボラードが船尾端から約1.8メートル前方に各舷2個、7.5メートル前方に各舷1個それぞれ船横方向に配置されていた。
船橋及びウイング端から後方の見通しは、甲板室後方の上部構造物とその両舷に搭載艇が装備されていることから、飛行甲板とその後方の舷側の延長線内側の海面が視認困難であった。
(2)ひかり二号の来歴
ひかり二号は、昭和62年8月26日に竣工し、2基2軸固定ピッチプロペラと2舵を備えた、全通一層甲板を有する鋼製作業船で、港内の他船の離接岸や浮標係船などにおいて、主として押船作業や綱取り作業のほか、引船としての作業に従事していた。
船体は、上甲板下に、船首から順に空所、倉庫、機関室及び舵取機室が設けられ、上甲板上に、中央に操舵室、その前方にロープウインチ、同室後方船尾端から約4メートル、甲板上高さ0.6メートルのところに曳航フックがあり、操舵室内には、右舷側に機関の操縦レバー、左舷側に操舵輪、両舷に引き戸式の出入り口が備えられ、周囲に角窓が取り付けられていて視界は良好であった。
(3)受審人A
A受審人は、約12年間海運会社に勤務して海上経験を経たのち、昭和61年に長崎造船所に入社して修繕部船渠課に所属し、船渠課長を務めていたころ、小型曳船使用基準(マニュアル)の策定などに携わり、その後操船主査の職に就き、運航の第一責任者として試運転などにおける運転船長を担当することとなり、平成12年1月19日りゅうきゅうの海上試運転に船長として乗船した。
(4)ひかり二号船長E
E船長は、平成元年10月にK興業株式会社に入社し、一級小型船舶操縦士と四級海技士(航海)の免状を受有して、長年にわたり主に小型作業船の船長として他船の離接岸や綱取り等の作業に従事していたほか、ときおり大型引船の船長の職を執り、平成12年1月21日ひかり二号船長として乗船した。
(5)小型曳船使用基準(マニュアル)
長崎造船所修繕部船渠課は、入出渠、係船などの作業を任務とし、これらの作業の実施にあたり安全確保の一環として、平成9年3月に、ひかり二号と同種の作業船であるひかり三号の転覆事故に鑑み、小型曳船使用基準(マニュアル)を作成し、曳航索を連結するときの被引船と小型引船間の相互の連絡方法や被引船が小型引船の至近で機関を使用する際の事前の周知など、その実施要領や手順を取り決めていた。
(6)係船作業支援船の選定
A受審人は、りゅうきゅうを、海上試運転終了後に長崎港内の係船浮標に係船することとし、係船作業を支援させるため、前もってK興業株式会社所属の小型作業船のうち、ひかり二号、ひかり三号、いそなみ及びあさなみの4隻を選定し、ひかり二号にはりゅうきゅうの船尾引きの作業にも当たらせることにしていた。
ひかり二号は、押船作業や綱取り作業を主任務とする小型作業船で、りゅうきゅうの引船としては不適切であった。
(7)入港部署配置及び連絡体制
りゅうきゅうでは、長崎港の入港部署として、A受審人のほか、操舵、プロペラ翼角操作、機関の諸元監視等の要員が船橋に5人、浮標係船作業要員が船首に5人、船尾に6人それぞれ配置され、船橋と船首及び船尾要員責任者、各作業船との間の連絡をトランシーバーで行い、周波数を同一にして全トランシーバーで同時受信可能としていた。
また、浮標係船作業において、曳航索を使用してりゅうきゅうを移動させるときは、同索がりゅうきゅうのボラードに係止された時点で、速やかに引船側からりゅうきゅうの船橋に報告すること、船首及び船尾要員責任者は対象の係船浮標までの距離を適宜船橋に報告することなどがあらかじめ取り決められていた。
(8)係船浮標
係船浮標は、長崎港第1区の中央付近に、港口から港奥方向に南北にほぼ一直線上に3個設置され、南側から順に、長崎港旭町防波堤灯台から、194度(真方位、以下同じ。)1,140メートルに1号係船浮標、191度780メートルに2号係船浮標及び188度560メートルに3号係船浮標がそれぞれ位置しており、1号と2号係船浮標間が360メートル、2号と3号係船浮標間が220メートルであった。
(9)転覆に至った経緯
りゅうきゅうは、平成12年1月19日09時15分A受審人ほか107人が乗り組み、海上保安庁職員6人を乗せ、海上試運転の目的で、船首4.97メートル、船尾4.95メートルの喫水をもって、長崎港を発し、野母埼東方沖合の水域に向かった。
A受審人は、目的の水域に至って終日試運転を行い、翌20日20時50分一旦帰港して作業員62人を下船させたのち、21時10分出航して再び試運転を行い、翌々21日06時50分試運転を終了し、係船浮標に係船するため長崎港第1区に向け帰途に就いた。
A受審人は、選定しておいたひかり二号を含む計4隻の作業船を港内に待機させ、08時21分1号係船浮標の西方約100メートルの地点に至り、係船作業要員8人を乗せ、港奥に向かって進行した。
A受審人は、船首を2号係船浮標、船尾を3号係船浮標に結ぶ出船係船とすることとし、08時30分2号と3号各係船浮標を結ぶ方位線の西側約100メートルに至り、船首が017度を向き、船体が同線とほぼ並行となったとき停止し、船首尾の要員と待機させていた4隻の作業船に、180度回頭して係船浮標に接近する旨トランシーバーで周知したのち、バウスラスター、舵及び機関を種々に使用してゆっくりと右回頭を始めた。
08時37分A受審人は、船首がほぼ南西方を向いて右回頭が止まったとき、北風で船尾が左舷方に落とされることに備え、3号係船浮標付近に待機していたひかり二号に対し左舷船尾押船用意を令し、プロペラ翼角を後進としてバウスラスターを使用しながら左回頭とともに後進し、その後プロペラ翼角を前進と後進に交互に使用して後進行きあしを徐々に減じ、2号と3号各係船浮標を結ぶ線上に船体が並行になるように操船した。
08時41分少し前A受審人は、船尾要員責任者からりゅうきゅうの船尾が3号係船浮標まで30メートルである旨の報告を受け、08時41分船首が197度に向き、船体中心線が2号と3号各係船浮標を結ぶ線に並行で、同線から約7メートル西側に外れて占位したとき、プロペラ翼角を0度とした。
A受審人は、船橋左舷出入り口の外側に立って指揮に当たり、りゅうきゅうの船尾が風で落とされる様子がなかったことから、左舷船尾付近で指示を待っていたひかり二号に対し、「押船よろし、右舷船尾に曳航索を取れ。」と指令を発したところ、同船から「左舷船尾でよいか。」との問い合わせがあったので、再び「右舷船尾に取れ。」と指示した。
その後、A受審人は、ひかり二号から曳航索連結の報告を待っていたところ、同船から報告がなく、りゅうきゅうになおわずかな後進行きあしが残っており、08時44分半少し過ぎ船尾要員責任者から3号係船浮標まで25メートルに接近している旨の報告を受けた。
A受審人は、りゅうきゅうが停止しているものと思っていたので、更に3号係船浮標に接近することに不安を感じ、左舷方の市街地を観察して後進気味であることを認め、機関を用いて同係船浮標から離れることとした。
A受審人は、ひかり二号が船尾至近に存在したまま機関を使用すると、推進器による放出流の影響を強く受ける状況にあったが、3号係船浮標から離れることにのみ気を奪われ、既に曳航索が連結されていたものの、同索の連結の有無をトランシーバーにより確かめることなく、08時45分わずか前トランシーバーで、機関を使用する旨発信した。
その際A受審人は、機関使用の連絡と併せて、ひかり二号や船尾要員責任者から機関使用に対する支障の有無を確かめず、また、両者からの応答もないまま、08時45分プロペラ翼角の操作を指示し、まもなく同翼角を前進3度とした。
りゅうきゅうは、前進翼角がとられたことにより、わずかに残存していた後進行きあしがなくなり、やがて前進行きあしが生じるとともに、プロペラの放出流によりひかり二号を船尾方に押し流した。
また、ひかり二号は、平成12年1月21日08時20分E船長と甲板員1人が乗り組み、りゅうきゅうの浮標係船作業支援の目的で、船首1.5メートル、船尾1.8メートルの喫水をもって、長崎造船所向島岸壁を発し、3号係船浮標の北北西方50メートル付近に至って待機した。
E船長は、操舵室両舷の引き戸を閉め切ったまま操船に当たり、08時37分りゅうきゅうからの指令を受けて同船の左舷船尾につき、押船構えの態勢に入ったが、その後、08時41分「押船よろし、右舷船尾に曳航索を取れ。」との指令があったので、このことを再度確認し、甲板員に曳航索の準備を指示して同船の右舷船尾に向かった。
E船長は、りゅうきゅうの右舷船尾端から約4メートル後方に至り、197度に向首した同船に対し、ひかり二号の船首を332度に向け、りゅうきゅうの船首尾線とひかり二号の船首尾線が45度交差した状態で、機関を中立として船体を停止した。
その後甲板員は、両端にアイを設けた直径40ミリメートル長さ30メートルの合成繊維製曳航索の一端を曳航フックにかけ、りゅうきゅうから投げられたヒーブラインの受け取りに少し手間取ったが、これを曳航索の他端に結び、りゅうきゅうの船尾要員が手繰るヒーブラインを介して曳航索を送出した。
08時45分少し前曳航索がりゅうきゅうの後列右舷内側のボラードに連結され、E船長は、甲板員から曳航索が連結された旨合図を受けたが、そのことを速やかにA受審人に報告しなかった。
08時45分わずか過ぎひかり二号は、りゅうきゅうの船尾から生じたプロペラの放出流により、停止したときの態勢で、機関が中立のまま同船の正船尾方に流され始め、同船から約25メートル後方に達したところで、曳航索が緊張し、船体がりゅうきゅうとT字型となる横引き態勢となった。
E船長は、態勢を立て直すため、左舷機を中立のまま右舷機を後進として、ひかり二号の船尾をりゅうきゅうの方に向けようとしたが、効なく、ひかり二号は、曳航索に作用したりゅうきゅうの前進方向の約9トンの推進力により、08時45分半長崎港旭町防波堤灯台から189度580メートルの地点において、船首を287度に向けたまま左舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆した。
当時、天気は晴で、風力4の北風が吹き、潮候はほぼ高潮時にあたり、港内はほとんど波がなかった。
転覆の結果、ひかり二号は、主機関等に濡損等を生じたが、引き揚げられたのち修理された。
E船長(昭和23年3月31日生)は、転覆によって操舵室内に閉じ込められ、両舷の引き戸が閉め切られていたことから脱出できないまま溺死し、甲板員は、海中に投げ出されたが、僚船に救助された。
本件後K興業株式会社は、これまで押船作業や綱取り作業のほか引船作業を行っていた小型作業船については、綱取り作業を含め、押船作業と横抱きによる引船作業を主とし、曳航フックを使用する船尾引き引船作業を取り止めることとしたほか、作業中は操舵室の出入り口を常時開放しておくことなどを取り決めた。
(原因に対する考察)
1 A受審人の引船作業確認について
(1)A受審人が、船橋からりゅうきゅうの船尾が直接視認できない状況下、同船の船尾に曳航索を連結するようひかり二号に命じたのち、残存する後進行きあしをなくすためりゅうきゅうの機関を使用することとした際、ひかり二号から、あらかじめ取り決めておいたとおり同索連結の報告がなかったとはいえ、同索の連結の有無は機関使用の可否を決める重要な条件であり、船橋側からトランシーバーにより、同索の連結の有無を事前に確認する手段があったのであるから、この措置をとらなかったことは原因となる。
(2)A受審人が、機関を使用する旨ひかり二号と船尾要員責任者を対象にトランシーバーで発信した際、その少し前に曳航索が連結されており、A受審人の当廷における、「曳航索が連結されていることが分っていたら機関を使用しなかった。」旨の供述からして、機関使用の連絡と併せて、両者から機関使用に対する支障の有無を確認しておれば、本件の発生を予防できたと認められ、これを行わなかったことは原因となる。
2 A受審人の引船選定について
A受審人は、りゅうきゅうの引船作業を行わせる目的でひかり二号を選定したが、同船が本来押船作業や綱取り作業などを主とする目的で建造された小型作業船で、同規模の専用の引船に比べると復原力が劣り、船尾付近高位置にある曳航フックを使用する船尾引きの引船作業の途中で、大出力の機関を備えるりゅうきゅうが何らかの目的で機関を使用するようなときには、例えわずかなプロペラ翼角であっても、ひかり二号にとっては強大な外力であり、横引き態勢になるようなことがあれば、大傾斜を生じる蓋然性が極めて高かったから、りゅうきゅうに使用する引船としては不適切であり、このような用途にひかり二号を選定したことは原因となる。
3 E船長の引船作業の進捗状況報告について
E船長が、甲板員から曳航索がりゅうきゅうに連結された旨の合図を受けた際、速やかにA受審人に報告しなかったことは、同索がりゅうきゅうのボラードに連結された時点で、引船側からりゅうきゅうの船橋に報告することが手順として取り決められており、このことを遵守しなかったもので、原因となる。
(主張に対する判断)
村上補佐人は、曳航索が連結されたのち、ひかり二号が、独断でりゅうきゅうの船尾方に航走したことによって曳航索が緊張し、同索の張力とひかり二号の推進力との合力が船首尾線に直角に作用して転覆したものであり、りゅうきゅう側に責任はなかった旨主張するので、この点について検討する。
1 ひかり二号の機関使用模様
ひかり二号が、りゅうきゅうの船尾後方約4メートルの位置から正船尾方約25メートルまで移動したのち転覆しているが、この間の移動はひかり二号が機関を使用したものでなく、りゅうきゅうがプロペラ翼角を前進3度としたことで生じた放出流により圧流されたものであることは、以下のことから明らかである。
(1)M船尾要員責任者に対する質問調書添付のひかり二号の移動模様を記載した図中、同船がりゅうきゅうとT字型の態勢となる直前までひかり二号の船首尾線がりゅうきゅうの船首尾線と45度の交角を保ったまま同船の正船尾方に移動している旨の記載
(2)C甲板員提出の災害発生時の配置図写中、(1)項と同旨の記載
(3)浦川海上保安官作成の実況見分調書謄本中、停止中のりゅうきゅうの後方30メートルにひかり三号をT字型の態勢で待機させてりゅうきゅうのプロペラ翼角を3度としたところ、生じた放出流がひかり三号に達し、同船がそのままの態勢で圧流され、りゅうきゅうから約50メートル後方で停止した旨の記載
2 ひかり二号が機関を使用した場合の転覆との因果関係
長崎海上保安部が、ひかり三号(総トン数6.6トン、機関出力280キロワット)を使用して実況見分しており、浦川海上保安官作成の実況見分調書謄本中、りゅうきゅうが停止した状態で、ひかり三号の曳航フックに結んだ曳航索をりゅうきゅうの船尾ボラードに連結し、同索が緊張するまでひかり三号をりゅうきゅうの正船尾方に走らせ、その後全速力前進に増速して左旋回させたところ、曳航索が左舷正横方向となっても船体傾斜は生じなかった旨の記載から、T字型の態勢となったときは、引船の前進力は曳航索にほとんど作用しないことを示しており、ひかり二号に左舷大傾斜が現れたのは、りゅうきゅうに対して同態勢となったときであることからして、本件時、例えひかり二号が機関を使用したとしても、490馬力(360キロワット)の全速力前進で、ボラードプル状態において発生する推進力約5トンは、同船の船首尾線の方向に作用するのみで、転覆には関与しないことになる。
3 ひかり二号に作用した前進翼角3度におけるりゅうきゅうの推進力
海上試運転試験成績書写中のてい増速力試験成績(回転速度一定)において、1/4、2/4、3/4及び4/4の各出力のプロペラ翼角における制動馬力と速力の実測値から、各速力に対する全抵抗(推進力)を算定し、プロペラ翼角と推進力の相関曲線を得てプロペラ翼角3度の推進力を求めると約9トンとなる。
4 ひかり二号に作用したその他の外力
ひかり二号が、りゅうきゅうの放出流により圧流されて曳航索が緊張するまで移動し、同船とT字型の態勢となったとき、ひかり二号の水線下には抵抗力が作用するが、その大きさは、浦川海上保安官作成の実況見分調書謄本中の、放出流の流速と移動距離に関する記載から算定したひかり二号が受ける流速と同船の水中側面積とにより求めると1トン余りである。
また、北風がりゅうきゅうの前進方向に作用する風圧力は、同船が係船浮標間に占位したとき、A受審人が予測した風による船尾の移動がみられなかったことからして、曳航索に対する影響はほとんど無視し得るものである。
以上のことから、ひかり二号の転覆に関与した外力の大部分はりゅうきゅうの推進力であり、村上補佐人の主張は採用できない。
(原因)
本件転覆は、長崎港において、りゅうきゅうが、係船浮標に船尾係船するにあたり、引船の選定が適切でなかったばかりか、ひかり二号に対し、曳航索の連結の有無及び機関使用に対する支障の有無のいずれの確認も不十分で、同船を横引きしたことによって発生したが、ひかり二号が、曳航索を連結した際、りゅうきゅうに対し、速やかな報告措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎港において、りゅうきゅうの船橋ウイングにあって係船作業の指揮に当たり、船尾付近を視認できない状況下、船尾を3号係船浮標に係船する際、ひかり二号に、自船の船尾に曳航索を連結するよう指示したのち、後進行きあしのあるりゅうきゅうを同係船浮標から遠ざけるため機関を使用する場合、ひかり二号からあらかじめ決められた手順どおり同索の連結の報告がなかったとはいえ、機関使用の可否を決める重要な条件であるから、トランシーバーによりひかり二号や船尾要員責任者などに、同索の連結の有無を確認すべき注意義務があった。しかるに同人は、同係船浮標から遠ざかることにのみ気を奪われ、同索の連結の有無を確認しなかった職務上の過失により、同索が連結されたことに気付かないまま機関を使用してひかり二号を横引きする事態を招き、同船が転覆して機関等が濡損し、E船長が溺死するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成13年10月24日長審言渡
本件転覆は、りゅうきゅうが、引船の曳航状況の確認が不十分で、ひかり二号を横引きしたことによって発生したものである。
受審人Aの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。