(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月12日02時30分
長崎県宇久島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船拓漁 |
総トン数 |
15トン |
登録長 |
16.35メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
拓漁は、中型まき網漁船団に付属する軽合金製灯船で、主機のほか集魚灯用交流発電機2基をベルト駆動する発電機原動機(以下「補機」という。)として、ヤンマーディーゼル株式会社製の6CHL−HTN型と称する定格出力88キロワット同回転数毎分1,800のディーゼル機関を備え、長崎県北部海域を漁場として夕刻出漁し翌朝帰港する操業を周年繰り返し、月間15回ほど出漁していた。
補機は、漁場に至ったのち一回の出漁で4ないし5時間運転され、冷却海水系統については、直結の冷却水ポンプ(以下「ポンプ」という。)で吸引加圧された海水が清水、空気及び潤滑油の各冷却器を順次経由して船外に排出されるもので、ポンプ及び潤滑油冷却器の出入口側4箇所の曲管部にはゴム継手が使用されていた。
このうちポンプ出口側のゴム継手は、内径38ミリメートル(以下「ミリ」という。)、厚さ6ミリ、曲管のR部半径40ミリ、直管部長さ95ミリ及び55ミリのL字形で、外面に耐油・耐熱・耐候性配合のゴムが、内面に耐熱性配合のゴムがそれぞれ巻かれており、両面間は、外面ゴム側にガラス繊維の、内面ゴム側に合成繊維のそれぞれ補強層が施されていたが、材料の経年劣化で曲管R部外側の補強層やゴムが弾力性を失い、表面から内部にかけて小さな線状の割損を生じて徐々に拡大しつつあった。
A受審人は、平成10年現所有者が拓漁を中古で購入以来船長として乗り組み、機関の管理を含めて運航の実務に携わり、平素から発航準備として主機と補機の潤滑油と冷却清水及び機関室ビルジ量を確認し、その5分後に操舵室から主機を遠隔で始動したのちには同室に立ち入ることなく、漁場に至って操業開始後に補機を始動していたが、その際にも補機周りの点検などを行っていなかったので、前示ゴム継手に破口損傷の兆しが生じていることに気付かないまま運転を続けていた。
こうして拓漁は、平成13年10月11日16時00分、A受審人が単独で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、僚船とともに長崎県鹿町町太郎ヶ浦漁港を発し、同日18時00分五島列島宇久島北方に至って魚群の探索を行ったのち19時00分操舵室から補機を始動して集魚を開始したところ、ポンプ出口側のゴム継手の損傷が進行して破口が継手の断面を貫通し、破口部から海水が噴出して機関室に流入し始め、運転中の補機が増量した海水をかき揚げるまでに浸水し、翌12日02時30分対馬瀬鼻灯台から真方位354度2.6海里の地点において、集魚灯が点滅するようになり、A受審人が機関室を点検して補機の前部右舷側から海水が噴出して同室前部の床上まで浸水しているのを認めた。
当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹いていた。
その結果、拓漁は、集魚灯用発電機や同用安定器及びソナーなどがぬれ損したので補機を停止したのち網船に連絡して救援を要請し、僚船によって付近の島陰に曳航され、僚船の補助も受けながら機関室に浸水した海水を排出し、同日08時30分自力で発航地に帰航してぬれ損した機器を新替え修理するとともに機関室ビルジの高位警報装置を設置した。
(原因)
本件浸水は、補機の冷却海水系統にあるゴム継手について、平素から損傷の有無の確認が不十分で、経年劣化による損傷に気付かないまま運転が続けられ、操業中、同継手が著しく破損して海水が機関室に噴出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、船長として単独で乗り組み、機関室各機器の管理にあたる場合、補機の冷却海水系統に配管されているゴム継手について、平素から経年劣化などによる損傷の有無の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、乗船以来補機の運転に支障が生じたことがないので大丈夫と思い、冷却海水系統に配管されているゴム継手の損傷の有無を十分に確認しなかった職務上の過失により、経年劣化による損傷に気付かないまま運転を続け、操業中、損傷の拡大によって同継手が著しく破損する事態を招き、機関室に浸水して集魚灯用発電機、集魚灯用安定器及びソナーなどがぬれ損するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。