(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月4日19時00分
兵庫県家島港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第35明力丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
65.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第35明力丸(以下「明力丸」という。)は、昭和58年に進水した全通二層甲板船尾機関室型の鋼製砂利運搬船で、上甲板下には、最船尾に舵機室が、その船首方右舷側に食堂を兼ねた厨房が、同左舷側に居住区画が、更にその船首方に機関室がそれぞれ配置されていた。
浴室は居住区画の左舷側に配置されており、同室には、洗い場左舷外板寄りに洗い水や洗濯機の排水等を一時溜め置く縦横各約40センチメートル(以下「センチ」という。)、高さ約50センチの排水タンクが設けられていた。また、同タンクには、底面から25センチ上方に排水弁が、同排水弁から15センチ上方にオーバーフロー管がそれぞれ取り付けられており、同タンクの水は、排水弁から船外へ排出されるとともに、オーバーフローした水は、オーバーフロー管を経て機関室内のビルジ溜まりに落ちるようになっていた。
一方、機関室には、中央部に主機が据え付けられ、右舷床面に交流発電機、主機冷却海水ポンプ及び油水分離器用ビルジポンプ等が、左舷床面に補機駆動交流発電機及び清水ポンプ等がそれぞれ設置されており、船尾側の中間軸下方にビルジ溜まりが設けられていた。
ところで、明力丸は、満船時には海面が浴室の排水タンク用排水弁とほぼ同じ高さになることから、満船時に同弁が開いていると、船体が動揺した時に海水が逆流し、逆流した海水がオーバーフロー管を経て機関室内に浸入するおそれがあった。
明力丸は、兵庫県家島港を基地とし、同県男鹿島及び西島で積み込んだ砂利を阪神一円の各港及び高知県の各港へ輸送しており、多くの乗組員の自宅が家島にあることから、時間的余裕がある場合には、家島港外に錨泊して、乗組員全員が帰宅するようにしていた。
A受審人は、平成2年6月から船長として乗り組んでいたもので、浴室の排水弁については、満船時に同弁が開いていると、船体が動揺した時に海水が逆流して機関室内に浸入するおそれがあることを知っていたので、自らが同弁の管理を行い、満船時には乗組員に対しても入浴や洗濯を禁止したりして、同弁の開放後は確実に閉弁していた。
同13年4月2日A受審人は、空倉で和歌山港から家島港に帰航中、船内巡視時に浴漕の残り湯を見つけ、これを排水するため排水弁を開放したが、排水中に鳴門海峡の通過時刻が迫っていることに気付き、急いで昇橋して操船指揮を行ったので、同弁を閉止するのを失念した。
翌3日明力丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、07時30分家島港を発し、男鹿島で砂利をほぼ満船状態まで積み込んだのち、船首3.4メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、10時15分に同島を発し、同時30分家島港外に至り、尾崎鼻灯台から真方位099度1,050メートルの地点に投錨した。
A受審人は、揚荷予定が2日間延期になったことから乗組員を帰宅させることにしたが、前日排水タンクの水を排出したときに排水弁を閉めたものと思い、同弁を確認しなかったので、同弁が開放したままになっていることに気付かず、10時40分乗組員全員と共に離船した。
こうして明力丸は、満船状態で錨泊中、船体が動揺した時に開いていた排水弁から海水が逆流し、オーバーフロー管を経て多量の海水が機関室内に浸入していたところ、翌4日19時00分前示錨泊地点において、早めに帰船した乗組員が、機関室床面上約30センチまで浸水しているのを発見した。
当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、海上には少し白波があった。
浸水の報告を受けたA受審人は、地元の消防団等に救助を依頼するとともに、19時15分に帰船してボートデッキにある非常用発電機で電源を確保し、機関室の船底弁及び船外弁等を点検したものの、異常が認められなかったことから、浴室の排水弁を閉止していないことに思い当たって浴室に赴いたところ、排水弁から逆流した海水が通路などに滞留しているのを発見したので、開放されていた同弁を閉止し、ビルジ兼バラストポンプを使用して、20時前に救援に来た消防団等とともに排水に努め、22時ごろ排水を終えた。
浸水の結果、主機、補機、両発電機、主機冷却海水ポンプ、油水分離器用ビルジポンプ及び清水ポンプ等に濡れ損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件浸水は、錨泊後に満船状態の明力丸を無人にする際、浴室の排水タンク用排水弁の閉止確認が不十分で、船体の動揺で同弁から逆流した多量の海水が、排水タンクのオーバーフロー管を経て機関室内に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、錨泊後に満船状態の明力丸を無人にする場合、浴室の排水タンク用排水弁が開いていると、船体の動揺で同弁から逆流した海水が、排水タンクのオーバーフロー管を経て機関室内に浸入するおそれがあることを知っていたのであるから、同排水弁の閉止確認を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、排水タンクの水を排出したときに排水弁を閉めたものと思い、排水弁の閉止確認を行わなかった職務上の過失により、開放されていた排水弁から逆流した多量の海水が機関室内に浸入する事態を招き、主機、補機、両発電機、主機冷却海水ポンプ、油水分離器用ビルジポンプ及び清水ポンプ等に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。