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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成14年門審第66号
件名

貨物船八徳丸養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成14年9月2日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:八徳丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
八徳丸・・・損傷ない
かき養殖施設・・・15台損傷

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件養殖施設損傷は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月20日05時00分
 岩手県大船渡港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船八徳丸
総トン数 749トン
全長 83.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット

3 事実の経過
 八徳丸は、可変ピッチプロペラとシリングラダーを備え、前部甲板にガントリクレーンを設置した船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか6人が乗り組み、スラグ1,600トンを積載し、船首3.60メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、平成13年1月19日00時40分千葉県木更津港を発し、岩手県大船渡港に向かった。
 翌20日04時20分A受審人は、大船渡湾口の碁石鼻沖合で船橋当直を交替し、自ら手動操舵に就き、機関長を機関遠隔操縦装置に就け、操舵装置の右舷側にあるレーダーを作動して同湾口に向かい、04時43分大船渡湾口北防波堤灯台から195度(真方位、以下同じ。)100メートルの、南・北両防波堤間を通過して大船渡港内に入り、針路を309度に定め、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、大船渡港導灯の針路線に乗って進行した。
 ところで、大船渡港は、L字形に屈曲した大船渡湾内にあって静穏であることから、かき・わかめなどの養殖漁業が盛んで、各所に養殖施設が設置され、特に、同港中央部の珊琥島周辺及び同島南西方にあたる大船渡市下船渡沖には、それぞれかき養殖施設が広範囲に設置されていた。
 これらのかき養殖施設は、延縄式と呼称されるもので、長さ50メートルの桁ロープ2本を約1メートルの間隔で平行に張り、この間に直径約0.5メートル長さ約1メートルの浮き樽を25ないし30個取り付けて浮かせ、桁ロープの両端に付けた重量約5トンの沈錘により固定されており、 同ロープに約0.5メートル間隔で垂下ロープが吊り下げられ、これにかきを育成する養殖棚が取り付けられていた。さらに、同養殖施設区域外周の主要箇所には、灯高が海面上約3メートル、灯質が黄光及び毎4秒に1閃光で、光達距離が約10キロメートルの簡易標識灯が設置され、同区域が示されていた。
 また、珊琥島西側の水道(以下「西水道」という。)は、港奥に出入りする船舶の通航路となっており、同島西岸から50ないし60メートル沖に桁ロープが南北方向に1ないし2列、更に同島北側には南北方向に十数列(以下「珊琥島北側養殖施設」という。)にわたって設置されていて、可航幅が約200メートルとなっていた。
 A受審人は、これまで10回程度大船渡港に夜間入港した経験があり、いずれも西水道を航行していたので、珊琥島周辺における養殖施設の設置状況など、西水道の水路事情を知っていたことから、港外で時間調整せずにそのまま夜間入港することにし、これまでと同様に西水道を航行して港奥の錨地に向かうことにした。
 04時48分少し過ぎA受審人は、大船渡港珊琥島南灯台(以下、航路標識の名称については「大船渡港」を省略する。)から198度1,240メートルの地点において、針路を359度に転じて西水道に向け、同水道通過に備えて3.5ノットの速力に減じた。
 A受審人は、時折レーダーで周囲の状況を確認しながら北上し、下船渡沖の養殖施設(以下「下船渡沖養殖施設」という。)に向首していたので、04時51分珊琥島南灯台から216度690メートルの地点において、針路を013度に転じたが、それでもなお左舷側の同養殖施設に接近していたことから、同時54分同灯台から238度390メートルの地点に達したとき、更に針路を025度に転じ、同養殖施設北東端に設置された簡易標識灯(以下「下船渡沖標識灯」という。)を左舷船首に見て続航した。
 A受審人は、このままの針路では珊琥島北側養殖施設に接近することになるので、下船渡沖養殖施設北東端を替わした後、珊琥島北側養殖施設に沿って少し左転し、珊琥島北灯台から317度180メートルの地点に設置された珊琥島北側養殖施設西端を示す簡易標識灯(以下「珊琥島北標識灯」という。)を右舷船首に見る針路とするつもりで進行した。
 04時57分少し前A受審人は、珊琥島北灯台から227度400メートルの地点において、下船渡沖標識灯を左舷正横約40メートルに見て通過したとき、左舷船首3度450メートルのところに珊琥島北標識灯を視認し得る状況であり、その後、同標識灯を左舷船首方に見る態勢で続航したが、左舷前方の下船渡地区の岸壁や漁船だまりからの出航船の確認に気を取られて同標識灯を見落とし、同標識灯との位置関係などにより、船位の確認を十分に行わなかったので、珊琥島北側養殖施設に向首していることに気付かず、 左転して同養殖施設に沿った針路に転じることなく進行した。
 こうして、A受審人は、珊琥島北側養殖施設に向首して続航中、04時58分珊琥島北灯台から236度280メートルの地点に達したとき、珊琥島北標識灯が左舷船首4度300メートルのところとなり、正船首方の同養殖施設まで215メートルとなったが、依然として、同標識灯を見落としたまま、船位の確認を十分に行わずに進行し、05時00分少し前ようやく同養殖施設に接近していることに気付き、機関を全速力後進としたが、効なく、05時00分珊琥島北灯台から286度150メートルの地点において、八徳丸は、原針路、原速力のまま、珊琥島北側養殖施設に乗り入れた。
 当時、天候は曇で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
 その結果、八徳丸は、損傷がなかったが、かき養殖施設15台などを損傷した。

(原因)
 本件養殖施設損傷は、夜間、岩手県大船渡港において、かき養殖施設が設置された珊琥島西水道を北上する際、船位の確認が不十分で、珊琥島北側養殖施設に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、岩手県大船渡港において、かき養殖施設が設置された珊琥島西水道を北上して港奥に向かう場合、珊琥島北側養殖施設に著しく接近することのないよう、同養殖施設設置区域の西端を示す簡易標識灯との位置関係などにより、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、左舷前方の岸壁や漁船だまりからの出航船の確認に気を取られて同簡易標識灯を見落とし、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、珊琥島北側養殖施設に向首したまま進行してこれに乗り入れ、かき養殖施設15台などに損傷を生じさせるに至った。





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