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平成14年横審第32号
件名

漁船第五福徳丸運航阻害事件

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成14年9月20日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗、森田秀彦、小須田 敏)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:第五福徳丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機の負荷運転が継続できず、運航不能

原因
燃料油サービスタンクのドレン排出不十分

主文

 本件運航阻害は、燃料油サービスタンクのドレン排出が不十分で、同タンクの底に堆積したスラッジ等が燃料油に混入し、主機燃料油管系が閉塞したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月30日19時30分
 アメリカ合衆国グアム島東南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五福徳丸
総トン数 119トン
登録長 30.11メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 294キロワット
回転数 毎分420

3 事実の経過
 第五福徳丸(以下「福徳丸」という。)は、昭和59年10月に進水した、まぐろ延縄漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてマツエディゼル株式会社製造のMF24−T1型と称するディーゼル機関を装備し、A重油が燃料油に使用されていた。
 主機の燃料油系統は、船底の燃料油タンクから燃料油移送ポンプで燃料油サービスタンクに送られた燃料油が、油水分離と濾過(ろか)機能を有する燃料油沈殿槽、こし網が120メッシュの単式こし器(以下「1次こし器」という。)、燃料油流量計及びこし網が200メッシュの複式こし器(以下「2次こし器」という。)を順に経て、燃料油入口主管に入り、各シリンダに設けられたボッシュ式燃料噴射ポンプ(以下「燃料噴射ポンプ」という。)に供給されていた。
 燃料油サービスタンクは、容量が880リットルで、内部が堰(せき)で2区画に仕切られていて、燃料油移送ポンプで送られた燃料油が堰を越えて同タンク取出し弁に接続する区画に流れ込むようになっていて、両区画の下方にドレン弁が取り付けられていた。
 また、燃料油沈殿槽は、容量が42リットルで、内部に油水分離用エレメント及び濾過精度が約15ミクロンの金網式のエレメントが内蔵され、下方にドレン弁が取り付けられていた。
 ところで、燃料油サービスタンク及び燃料油沈殿槽は、油中のスラッジ、水分及びごみなどを含むドレンが底部に沈殿することから、ドレン弁を開けて滞留したドレンを適宜排出するなど、水分を除去し、また、スラッジ等の堆積(たいせき)を防止する必要があった。
 福徳丸は、和歌山県勝浦港を基地として1航海が約半年の期間とし、マーシャル諸島周辺の漁場での操業に従事していたところ、燃料油サービスタンクにドレンが滞留していたものの、長期間ドレンが排出されないまま主機の運転が繰り返されていた。
 A受審人は、平成11年8月から機関長として乗り組み、主機の運転及び保守管理に当たり、燃料油の性状管理について、1次及び2次こし器の掃除を2ないし3箇月ごとに行い、一方、3ないし4日ごとに燃料油沈殿槽のドレン弁を開けてドレンを排出していたことから、燃料油のドレンは適切に排出されているものと思い、燃料油サービスタンクのドレン弁を開けて滞留したドレンを適宜排出することなく、長年の間にスラッジ等が同タンク底に多量に堆積していた状態に気付かず、運転を続けていた。
 福徳丸は、燃料油サービスタンクに滞留していたドレンが徐々に増加し、スラッジ等が燃料油に混入して主機燃料油管系に流れ出すようになり、1次及び2次こし器が著しく汚損され、更に微細なスラッジが2次こし器から燃料噴射ポンプに至る燃料油管の内壁に付着して流路が次第に狭められるようになった。
 こうして、福徳丸は、A受審人ほか邦人3人及びインドネシア人10人が乗り組み、操業の目的で、平成12年3月30日10時55分グアム島アプラ港を発し、マーシャル諸島近海の漁場に向け、主機を回転数毎分350の全速力前進にかけて航行中、燃料油サービスタンクに堆積していたスラッジ等が多量に燃料油に混入するようになり、1次及び2次こし器が目づまりを起こすとともに、前示燃料油管の内壁の汚れも進行し、主機燃料油管系が閉塞(へいそく)して燃料油の供給が著しく阻害され、燃料噴射ポンプが空気を吸引するようになり、主機が燃焼不良となって回転数が低下するとともに主機直結潤滑油ポンプの吐出圧力が低下し、19時30分北緯13度05分東経145度18分の地点において、主機潤滑油圧力の異常低下を知らせる警報が発せられるとともに主機が自停した。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、海上には白波があった。
 A受審人は、自室で就寝中、前示警報に気付いて機関室に赴き、1次及び2次こし器の掃除を行ったのち、主機を始動したが、燃料油サービスタンクから引き続きスラッジが流れ込んで両こし器が再び目づまりし、無負荷で運転できたものの、クラッチを入れると主機が停止することから、主機の負荷運転が継続できず、運航不能と判断してその旨を船長に報告した。
 福徳丸は、その後来援の引船によりアプラ港に引き付けられたのち、燃料油サービスタンクを含む主機燃料油管系の掃除が行われた。

(原因)
 本件運航阻害は、燃料油の性状管理に当たる際、燃料油サービスタンクのドレン排出が不十分で、同タンクの底に堆積したスラッジ等が同油に混入し、主機燃料油管系が閉塞して同油の供給が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、燃料油の性状管理に当たる場合、燃料油サービスタンクに滞留したドレンを長期間放置すると、同タンクの底に多量のスラッジ等が堆積するおそれがあるから、燃料油に混入したスラッジ等で燃料油管系が閉塞し、同油の供給が阻害されることのないよう、同タンクのドレン弁を開けて滞留したドレンを適宜排出すべき注意義務があった。しかるに、同人は、燃料油こし器の掃除及び燃料油沈殿槽のドレン排出を定期的に行っていたことから、燃料油のドレンは適切に排出されているものと思い、燃料油サービスタンクのドレン弁を開けて滞留したドレンを適宜排出しなかった職務上の過失により、同タンクに多量のスラッジ等を堆積させ、同油に混入したスラッジが主機燃料油管系を閉塞させ、主機への同油の供給を著しく阻害させる事態を招き、主機の負荷運転が継続できないまま、来援した引船に曳航されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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