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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 安全・運航阻害事件一覧 >  事件





平成14年長審第38号
件名

プレジャーボート漁栄丸運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成14年8月28日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(寺戸和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:漁栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
蓄電池が過放電、運航不能

原因
発航準備(主機始動用蓄電池の容量の確認)不良

裁決主文

 本件運航阻害は、主機始動用蓄電池の容量の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月15日16時00分
 長崎県平戸島南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート漁栄丸
全長 6.93メートル
機関の種類 4サイクル2シリンダ・ディーゼル機関
出力 20キロワット
回転数 毎分3,100

3 事実の経過
 漁栄丸は、昭和58年に進水したFRP製プレジャーボートで、主機として、過給機及び空気冷却器を付設しないヤマハ発動機株式会社製の70V(MD130Y)型機関を備え、平成3年1月A受審人が購入以来船長として単独で乗り組み、年間2ないし3回ほどの釣りに使用されていた。
 漁栄丸の蓄電池は、直流電圧12ボルト容量130アンペア時のものが1個あり、主機によるベルト駆動の発電機及び操舵席天井外に設置された太陽電池によって充電され、主機始動用電動機、船内の照明、魚群探知器、ウインチ用電磁クラッチなどに給電していたが、漁栄丸は、春と秋に年間2度ほど上架しており、また使用頻度も少なく運航時間も短かったので蓄電池の充電量が放電量に追従できず、蓄電池が過放電となって主機の始動が不能となったことから、平成10年に前示蓄電池に新替え及び太陽電池を設置した。
 A受審人は、平成13年9月蓄電池の電解液が減少していたので蒸留水を補充したものの、太陽電池を設置したことから平素蓄電池の電圧や電解液の比重を測定しておらず、その後平成14年6月15日早朝、漁協の船揚げ場に上架していた漁栄丸を降ろして釣りに行く準備を行ったが、同測定を実施するなどして蓄電池の容量を十分に確認しなかったので、蓄電池がほとんど過放電の状態になっていたことに気付かなかった。
 こうして漁栄丸は、同日08時00分A受審人が単独で乗り組み、知人2人を同乗させて長崎県江迎港を発し、09時50分同県平戸島南東方の米瀬付近の釣り場に至り、主機の運転時間が短く蓄電池への充電が不足したままとなっていたが、主機を停止して投錨後釣りを開始した。
 15時50分A受審人は、帰航することとして主機を始動したところ、蓄電池が過放電となって容量が著しく低下していたことから、始動電動機が主機の始動に必要な回転数まで上昇せず、16時00分下枯木島灯台から真方位226度1.4海里の地点において、主機の始動ができずに航行不能となった。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 漁栄丸は、海上保安部に救助を要請し、巡視艇に曳航されて最寄りの港に引き付けられ、その後充電済みの蓄電池を使用して主機を始動し、自力で発航地に帰航した。

(原因)
 本件運航阻害は、主機始動電動機用蓄電池の容量の確認が不十分で、同蓄電池の容量が発航前の上架中に放電して著しく低下していたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、上架を終えて久しぶりに漁栄丸を運航しようとした場合、上架中に蓄電池が過放電して容量が低下している可能性が高いから、電圧や電解液の比重を測定して蓄電池の容量を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、設置した太陽電池で充電されているから大丈夫と思い、主機始動電動機に給電する蓄電池の容量を十分に確認しなかった職務上の過失により、蓄電池が過放電して容量が著しく低下していることに気付かないまま発航し、航行中の主機運転による充電が不足して同電池の容量が回復しないまま、帰航に備えて主機を始動したところ、始動電動機が主機の始動に必要な回転数まで上昇せずに主機の運転が不能となって運航阻害を招き、巡視艇によって最寄りの港に引き付けられるに至った。





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