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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 安全・運航阻害事件一覧 >  事件





平成14年長審第31号
件名

漁船文丸運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成14年8月7日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(寺戸和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:文丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
始動電動機電線端子ナットの著しい緩み

原因
主機始動用電気配線の点検不十分

裁決主文

 本件運航阻害は、主機始動用電気配線の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月7日15時20分
 長崎県野母埼沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船文丸
総トン数 2.1トン
登録長 8.92メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 128キロワット
回転数 毎分2,700

3 事実の経過
 文丸は、平成7年3月に進水したFRP製漁船で、主機として、日産ディーゼル工業株式会社製のFD6TA06型機関を備え、同13年7月A受審人が購入以来船長として単独で乗り組み、朝出漁して沿岸から10海里ばかり沖合の漁場に赴き、一本釣り漁を終えて夕刻帰港する操業を周年繰り返していた。
 機関室には船内電源用として直流12ボルトの蓄電池2個が右舷前方にあり、同蓄電池は、主機によるベルト駆動の発電機で充電され、直列接続された電源電圧24ボルトで主機の始動用電動機、船内の照明及び魚群探知機などに給電し、また同電動機の周りは点検が容易であった。
 主機の始動電動機への電源は、蓄電池から主スイッチと操舵室の始動スイッチを経て供給され、その電気系統には蓄電池及び同電動機のプラス・マイナス両端子や始動スイッチ配線などに圧着端子が使用され、同端子がボルトに回り止め座金のないナットで締付けられていたところ、高速船で船体及び機関の振動や衝撃が大きかったことから、このうち、ねじの呼びM5の始動スイッチ配線の電動機側端子ナットがいつしか緩み始めていた。
 文丸は、平成13年11月7日07時00分A受審人が単独で乗り組み、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって長崎県野母港を発し、同時30分野母埼南西方沖合の漁場に至り、主機停止後シーアンカーを投じて操業を開始したのち、1キロメートルばかり流されると潮のぼりすることを5ないし6度繰り返し、その後同日15時過ぎ帰途に就くこととし、主機を始動したところ始動電動機が回転しなかった。
 A受審人は、始動電気系統が不具合と思い、蓄電池の端子、電源電圧や電気配線及び主スイッチを点検していずれも緩みや焼損などの異状がないことを確認したが、始動電動機周りの電気配線を十分に点検しなかったので、始動スイッチ配線の電動機側端子ナットの緩みが進行して電気配線の接続部が外れかかっていることに気付かず、15時20分野母北浦灯台から真方位228度9.4海里の地点において運航が不能となった。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 文丸は、15時50分海上保安部に救助を要請し、巡視船によって発航地に引き付けられたのち、整備業者の点検で始動電動機電線端子ナットの著しい緩みが見つかり同ナットを増締め修理した。

(原因)
 本件運航阻害は、主機が始動しなかった際、始動用電気配線の点検が不十分で、同配線の端子が著しく緩んで接続不良となっていることに気付かなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、帰航に備えて主機を始動したものの機関が始動しなかった場合、始動用電気配線の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、始動用電気配線上にある蓄電池及び主電源スイッチについては異状の有無を確かめたものの、始動用電動機については、同電動機の電線端子が緩んだりすることはないものと思い、始動用電気配線の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同配線の端子を締め付けているナットが著しく緩んで接続不良となっていることに気付かず、始動電動機への電源が供給されず、主機の運転が不能となって運航阻害を招き、巡視船によって引き付けられるに至った。





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