(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月21日17時00分
沖縄県辺野古漁港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートさざなみ号 |
登録長 |
4.50メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
40キロワット |
3 事実の経過
さざなみ号は、平成5年3月に購入されたFRP製プレジャーボートで、主機としてヤマハ発動機株式会社が製造した663型と称する船外機を備えていた。
船外機の始動電気系統は、直流電圧12ボルトの蓄電池1個からメインスイッチ、キルスイッチ、ニュートラルスイッチ、スタータースイッチを順に経てセルモータに給電される始動系電気回路とイグニッションコイルを経て点火プラグに給電される点火系電気回路などで構成されていた。また、両電気回路はそれぞれが独立しており、始動系電気回路が断線しても点火系電気回路は影響されず、セルモータが故障した場合などには手動での始動が可能となっていた。
メインスイッチは、鍵を用いて停止、運転、始動の3位置に切替えができるキースイッチであった。
船外機の手動始動の方法は、メインスイッチを運転位置とし、トップカウリングを取り外し、フラマグカバーのボルトを取り外して同カバーを取り外し、フライホィールロータの切り込みにロープをかけて数回巻き付け、一度ゆっくりと引っ張り、ピストンが移動して圧力がかかって力を入れないとそれ以上ロープを引っ張ることができない状態としたのち、ロープを一気に引くものであった。
ところで、船外機の電気配線は、平成11年9月船外機が換装されたとき、業者によって点検が行われ異状のないことが確認されていたものの、いつしか経年劣化などで電線被覆が損傷するなどして潮風などの塩害で電線が腐食して断線するおそれがある状況となっていた。
A受審人は、さざなみ号を購入したのち毎年9月から3月の間、必ず2人以上で1週間に2回程度遊漁を行い、同13年8月船外機の開放整備を業者に行わせたものの、電気配線の点検を依頼しなかったことから、電線に断線のおそれがあることに気付かないまま、船外機の開放整備を行ったので大丈夫と思い、同機を手動で始動する練習を行うなど、手動始動に対する配慮を十分に行うことなく、同機の運転を続けていた。
こうして、さざなみ号は、A受審人が単独で乗り組み、友人2人を乗せ、同年10月21日10時30分沖縄県辺野古漁港を発し、11時00分同漁港東方沖合に所在する長島灯台付近の釣り場に到着したのち、錨泊して遊漁を始めた。
さざなみ号は、A受審人が15時00分遊漁を終了して帰途に就くこととし、船外機の始動を試みたとき、いつしか始動系電気回路のスタータースイッチとセルモータとの間の電線が断線し、セルモータでの始動ができない状況となった。
A受審人は、蓄電池及び点火プラグの予備品との取替えなどを行っても船外機の始動ができないことから、同機の手動始動を約1時間試みたものの、同始動に不慣れであったことから、同機を始動することができなかった。
さざなみ号は、漂流して米軍基地に接近し、A受審人が発砲の危険を感じたことから、船外機の始動を断念し、17時00分長島灯台から真方位326度250メートルの地点において、海上保安庁に救助を求め、航行不能となった。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
この結果、さざなみ号は、20時00分来援した巡視艇に曳航されて同県汀間漁港に引き付けられ、のち断線した電気配線が修理された。
(原因)
本件運航阻害は、手動での始動が可能な船外機を運転する際、同機を手動で始動する練習を行うなど、手動始動に対する配慮が不十分で、同機が手動で始動されなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、手動での始動が可能な船外機を運転する場合、セルモータで船外機が始動できなくなることがあるから、同機を手動で始動する練習を行うなど、手動始動に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船外機の開放整備を行ったので大丈夫と思い、手動始動に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、セルモータで船外機の始動ができなくなったとき、手動始動に不慣れであったことから、同機を手動で始動できない事態を招き、航行不能となって救援を求めた巡視艇に救助されるに至った。