(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月24日16時00分
沖縄県渡嘉敷島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第三つね丸 |
総トン数 |
4.8トン |
全長 |
15.05メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
220キロワット |
3 事実の経過
第三つね丸(以下「つね丸」という。)は、昭和61年4月に進水した最大とう載人員が17人のFRP製遊漁船で、主機としてヤマハ発動機株式会社が製造したNO2(MD858KUH)型と称するディーゼル機関を備え、同機をセルモータで始動するようになっていた。
電気系統は、直流電圧12ボルトの蓄電池2個を直列に接続した2組の電源から、それぞれ主機始動用と電気機器用として別々に給電されるようになっていたが、いずれかの組が過放電となった場合に備えて2組の蓄電池を並列に接続する配線が設けられ、同配線に蓄電池切替えスイッチが付設されていた。
蓄電池は、松下電池工業株式会社が製造した130F51型と称するもので、平成11年の夏に新替えされ、主機で駆動される充電器で充電されるようになっていた。
電気機器は、航海灯、室内灯、衛星航法装置、レーダー、機関室送風機などのほか、株式会社光電製作所が製造したCVS―8821型と称する消費電力が約80ワットの魚群探知機が備えられていた。
A受審人は、釣客を乗せて沖縄県都屋漁港を平素07時00分ごろに出港して18時30分ごろに帰港する遊漁業を営み、1回の遊漁で主機を約4時間運転し、蓄電池切替えスイッチを2組の蓄電池から別々に給電する位置とし、遊漁中に主機を停止したとき、衛星航法装置の電源は切らないものの魚群探知機の電源は切るようにし、離船するときには電源の各主スイッチを切るようにしていた。
ところで、つね丸は、A受審人が遊漁を繰り返すうち、いつしか蓄電池切替えスイッチが2組の蓄電池を並列に接続する位置に切替えられ、そのことを同受審人が失念したことから、主機を停止したときの電力消費量が多いと全蓄電池が過放電するおそれのある状況となっていた。
こうして、つね丸は、A受審人が単独で乗り組み、釣客9人を乗せ、平成13年9月24日08時30分都屋漁港を発し、遊漁の目的で沖縄県渡嘉敷島北方沖合の釣り場に向い、09時25分魚群探知機の電源を入れたのち、同時30分釣り場に到着して主機を停止し、投錨して遊漁を開始した。
A受審人は、魚群探知機の電源を切ろうとしたものの、釣客から同探知機を継続使用する要望を受けたことから、電気機器用の蓄電池が過放電しても蓄電池切替えスイッチを2組の蓄電池を並列に接続する位置に切替えれば大丈夫と思い、蓄電池切替えスイッチの投入状態の確認を十分に行うことなく、同探知機の継続使用を容認した。
つね丸は、釣客が釣果を得て、帰港のためA受審人が主機の始動を試みたとき、蓄電池が充電されないまま魚群探知機が長時間使用されたことから全蓄電池が過放電し、16時00分牛ノ島灯台から真方位080度1.5海里の地点において、主機が始動できず、航行不能となった。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹いていた。
その結果、つね丸は、16時30分海の緊急電話に救助を求め、来援した巡視船に曳航されて19時00分沖縄県座間味港に引き付けられ、自動車から給電して主機を始動し、都屋漁港に帰着した。
(原因)
本件運航阻害は、沖縄県渡嘉敷島北方沖合において遊漁を行う際、蓄電池切替えスイッチの投入状態の確認が不十分で、同スイッチが2組の蓄電池を並列に接続する位置のまま主機を停止し、蓄電池が充電されないまま魚群探知機が長時間使用され、全蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能になったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県渡嘉敷島北方沖合において遊漁を行う場合、蓄電池切替えスイッチが主機始動用及び電気機器用の各蓄電池を並列に接続する位置のまま主機を停止し、蓄電池が充電されないまま魚群探知機を長時間使用すると、全蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能になるおそれがあったから、同スイッチが2組の蓄電池から別々に給電される位置になっているか、同スイッチの投入状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、電気機器用の蓄電池が過放電しても同スイッチを2組の蓄電池を並列に接続する位置に切替えれば大丈夫と思い、蓄電池切替えスイッチの投入状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、蓄電池を充電しないまま魚群探知機を長時間使用し続け、全蓄電池の過放電を生じさせ、主機が始動不能となる運航阻害を招き、救援を求めた巡視船に救助されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。