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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成14年那審第24号(第1)
平成14年那審第2号(第2)
件名

(第1) 引船第二福丸引船列乗組員負傷事件
(第2) 引船第二福丸乗揚事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年9月3日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(金城隆支、坂爪 靖、平井 透)

理事官
濱本 宏

(第1)
受審人

A 職名:第二福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第二福丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(旧就業範囲)
指定海難関係人
C 職名:ポセイドン作業長
(第2)
受審人

A 職名:第二福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
(第1)機関長が右手人差し指及び小指の付け根を骨折、神経が切断
(第2)船底全般に多数の擦過傷

原因
甲板・荷役等作業の不適切

主文

(第1)
 本件乗組員負傷は、切断された曳航索の取り直し作業中、安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
(第2)
 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成13年3月20日21時20分
 沖縄県糸満漁港南西方沖
(第2)
 平成13年3月20日21時55分
 沖縄県糸満漁港南西方沖

2 船舶の要目
(第1)
船種船名 引船第二福丸 台船ポセイドン
総トン数 98トン  
全長 28.80メートル 60.00メートル
  20.00メートル
深さ   3.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  

(第2)
船種船名 引船第二福丸
総トン数 98トン
全長 28.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
(第1)
 第二福丸(以下「福丸」という。)は、主に台船曳航に従事する鋼製引船で、A受審人、B受審人の2人が乗り組み、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、C指定海難関係人ほか作業員3人が乗った台船ポセイドン(以下「台船」という。)を曳航し、平成13年3月20日18時20分沖縄県糸満漁港を発し、同県久米島兼城港に向かった。
 福丸の曳航索は、直径100ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ100メートルの合成繊維製で、台船の曳航索は、Y字状で台船船首左右のビットに固縛してある直径110ミリ長さ40メートルの索の中間部に、直径110ミリ長さ40メートルの索を差し込んであり、両索の先端のアイに、直径50ミリ長さ3メートルの両端アイ付きの合成繊維製索を通して、シャックルを介して繋いであった。
 A受審人は、20時20分曳航索が切断していることに気付き、曳航索を取り込んだところ、福丸と台船の両曳航索を繋(つな)いであった直径50ミリ長さ3メートルの合成繊維製索が切断していた。
 C指定海難関係人は、曳航索が切断していることに気付き、作業員とともに、直径20ミリ長さ10メートルの合成繊維製引き出し索を用意し、右舷側前部の水面に浮いていた曳航索の一部に引き出し索をバイトに取った。
 A受審人は、21時10分トコマサリ礁灯標から232度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点で台船と回合し、台船から2メートルばかりに近づいたとき行きあしを止め、B受審人がボートフックを使用してC指定海難関係人から引き出し索を受け取った。
 A受審人は、引き出し索が細いので不安を感じたが、B受審人が同索を船首ビットに固縛したのち安全な場所に移動するのを待つなど、安全措置を十分に行うことなく、B受審人の合図で機関を極微速力後進にかけ、すぐに停止した。
 B受審人は、安全な場所に移動したのちに機関を極微速力後進にかける合図をするなど、安全措置を十分に行わないで、引き出し索を受け取った直後、A受審人に機関を極微速力後進にかけるよう合図し、同索を船首ビットに固縛し終えるころ同索が張ってきたことに気付き、急いでその場から離れようとしたが、21時20分トコマサリ礁灯標から232度5.8海里の地点において、引き出し索が切断し、B受審人が右手をはねられた。
 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、波高は1.5メートルであった。
 その結果、B受審人は、右手人差し指及び小指の付け根を骨折し、神経が切断されるなどの重傷を負った。
(第2)
 第1の事件後、A受審人は、引き返してB受審人を病院に搬送することとし、台船を錨泊させ、21時23分トコマサリ礁灯標から232度5.8海里の地点を発進し、糸満漁港へ向かった。
 発進直後、A受審人は、針路を048度に定め、機関を全速力前進にかけて10.8ノットの対地速力で、GPSとレーダーを作動させ、手動操舵により進行した。
 A受審人は、糸満漁港から兼城港に向かう途中、針路228度でトコマサリ礁北西端を約50メートル離して航過したことから、トコマサリ礁に近づいたらGPSに表示させていた航跡線を逆行することとして続航し、21時46分航跡線に乗ったので048度の針路のまま進行した。
 21時49分A受審人は、トコマサリ礁灯標から241度1.1海里の地点に達したとき、B受審人の家族から同人の負傷の状況についての問い合わせの電話がかかったので、自動操舵に切り替えないまま舵輪から離れて対応したところ、福丸の船首が右方に回頭して051度の針路となった。
 A受審人は、21時52分電話を終えたとき、船首が3度右方に向いていたので048度に戻したところ、船位が右偏していて、トコマサリ礁北西端に著しく接近する状況になったが、このことに気付かず、その後、B受審人の負傷に気を取られ、3海里レンジとしたレーダーによって船位の確認を行うことなく進行した。
 福丸は、原針路、原速力のまま続航中、21時55分トコマサリ礁灯標から336度460メートルの地点において、乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船底全般に多数の擦過傷を生じ、他船によって引き下ろされた。

(原因)
(第1)
 本件乗組員負傷は、夜間、糸満漁港南西方沖において、切断された曳航索の取り直し作業を行う際、安全措置が不十分で、船首で同作業を行っていた機関長が、引き出し索に右手をはねられたことによって発生したものである。
 安全措置が十分でなかったのは、船長が、機関長が安全な場所に移動するのを待たなかったことと、機関長が、安全な場所に移動する前に機関を後進にかける合図をしたこととによるものである。
(第2)
 本件乗揚は、夜間、糸満漁港南西方沖において、同漁港に向けて航行する際、船位の確認が不十分で、トコマサリ礁に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
(第1)
 A受審人は、夜間、糸満漁港南西方沖において、切断された曳航索の取り直し作業を行う場合、船首で同作業を行っていたB受審人が安全な場所に移動するのを待つなど、安全措置を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、B受審人が安全な場所に移動する前に機関を極微速力後進にかけ、安全措置を十分に行わなかった職務上の過失により、引き出し索を切断せしめ、B受審人の右手人差し指及び小指の付け根を骨折させ、神経が切断されるなどの重傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、糸満漁港南西方沖において、切断された曳航索の取り直し作業を行う場合、安全な場所に移動したのちに機関を極微速力後進にかける合図をするなど、安全措置を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、安全な場所に移動する前に機関を極微速力後進にかける合図をし、安全措置を十分に行わなかった職務上の過失により、引き出し索を切断せしめ、自身が前示の負傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
(第2)
 A受審人は、夜間、沖縄県糸満漁港南西方沖において、同漁港に向けて航行する場合、トコマサリ礁の存在を知っていたのであるから、トコマサリ礁北西端を替わせるよう、作動中のレーダーを活用して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B受審人の負傷に気を取られ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、トコマサリ礁北西端に著しく接近して乗揚を招き、船底全般に多数の擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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