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平成14年神審第32号
件名

漁船開進丸乗組員行方不明事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年9月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、小金沢重充、村松雅史)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:開進丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
甲板員1人が行方不明、のち死亡認定

原因
漁労作業の不適切

主文

 本件乗組員行方不明は、揚網作業時、作業用救命衣が着用されなかったばかりか、安全確保の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月15日22時52分
 隠岐諸島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船開進丸
総トン数 80トン
登録長 26.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 507キロワット

3 事実の経過
 開進丸は、船体中央部に船橋を設けた、一層甲板の船尾トロール型鋼製漁船で、A受審人ほか10人が乗り組み、かけ回し式沖合底びき網漁業の目的で、船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成12年11月13日10時00分兵庫県香住港を発し、22時00分隠岐諸島北方沖合の漁場に至り、移動しながら投網と揚網を繰り返し行った。
 翌々15日19時20分A受審人は、出雲日御碕灯台(以下「日御碕灯台」という。)から330度(真方位、以下同じ。)28.5海里付近において、投網を終了したのち、針路を225度に定め、機関を前進にかけ、1.0ノットの対地速力で曳網を開始した。
 ところで、曳網は、長さ約80メートルの漁網の入り口両端に、それぞれ長さ300メートル直径50ミリメートル(以下「ミリ」という。)の合成繊維製ロープを付し、これに長さ1,200メートル直径50ミリの芯にワイヤが入ったコンパウンドロープを繋いだ引き綱を両舷の船尾ガイドリールに導いたのち、船橋直下の側壁にある容量3.5トンの油圧式ウインチ2基のドラムを介し、船尾両舷甲板上のロープリールに巻き止めて、微速力で引くものであった。
 A受審人は、19時25分僚船からこの水域に沈船がある旨の電話連絡を受けたので、漁網を引き上げることとし、同時30分機関を停止し、引き綱の巻き上げを始めたところ、同時40分1,000メートル巻いたところで漁網が根がかりして巻き上げが困難となった。
 A受審人は、根がかりをはずす作業を試みたものの、はずすことができなかったので、僚船に応援を頼み、左舷側の引き綱を同船に渡し巻き上げ作業を行わせ、自船は右舷側の引き綱の巻き上げ作業を行ったが、ウインチによる巻き上げが不能であったため、引き綱を右舷船尾端にあるビットに止め、機関を前進にかけて引き、根がかりをはずすこととした。
 ところで、引き綱をビットに止める作業(以下「係止作業」という。)は、同綱を直接右舷側ロープリール船尾側の鋼製アングルにシャックル止めした直径40ミリの合成繊維製ストッパーロープで仮止めしたのち、既にロープリールに巻き取った同綱を巻き戻して、右舷船尾端のビットに巻き付けるものであった。
 こうして、A受審人は、船首を225度に向けたまま、船尾から風浪を受ける状態としたのち、自らは船橋で指揮を執り、甲板員Mほか3人を係止作業に当たらせることとしたが、同人らに対し作業用救命衣着用を指示せず、また、同作業が危険な作業であったのに、作業経験が豊富であるから大丈夫と思い、係止作業に当たるM甲板員に対し、引き綱に跳ねられて海中に転落することがないよう、同綱をビットとストッパーロープで仮止めしたところとの船尾側(以下「引き綱の内側」という。)で作業を行わないなどの十分な指示をすることなく同作業を行わせた。
 一方、M甲板員は、作業用救命衣を着用せず、引き綱の外側で作業を行うことなく、その内側に立ち入り、安全確保の措置が不十分となった状況で、ビットに引き綱を4ないし5回巻き付け、細索で固縛するなど、係止作業を行っていたところ、折からの風浪で船体が動揺して、急激な張力が引き綱に加わってストッパーロープが切断し、ビットに係止した引き綱が船尾側に強く張り、22時52分日御碕灯台から329度28.5海里の地点において、同綱に跳ねられて海中に転落した。
 当時、天候は曇で風力7の北東風が吹き、海上は北東よりの風浪が高く、舞鶴海洋気象台から海上強風警報が発表されていた。
 A受審人は、僚船5隻、浜田海上保安部の巡視船2隻及びヘリコプターと共同で捜索を行ったが、M甲板員(昭和13年11月26日生)は行方不明となり、のち死亡と認定された。

(原因)
 本件乗組員行方不明は、隠岐諸島西方沖合において、揚網作業時、作業用救命衣が着用されなかったばかりか、安全確保の措置が不十分で、根がかりした漁網をはずすため引き綱の内側で係止作業をしていた乗組員が同綱に跳ねられて海中に転落したことによって発生したものである。
 安全確保の措置が不十分であったのは、船長が、引き綱の内側で作業を行わないなどの十分な指示をしなかったことと、乗組員が、引き綱の外側で作業を行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、隠岐諸島西方沖合において、揚網作業時、根がかりした漁網をはずすため引き綱の係止作業を行う場合、同作業に当たる乗組員が、引き綱に跳ねられて海中に転落することがないよう、同綱の内側で作業を行わないなどの十分な指示をすべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、同乗組員が作業経験が豊富であるから大丈夫と思い、引き綱の内側で作業を行わないなどの十分な指示をしなかった職務上の過失により、乗組員が引き綱に跳ねられて海中に転落し行方不明となる事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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