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平成14年神審第20号
件名

プレジャーボートポセイドン遊泳者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年8月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、阿部能正、前久保勝己)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:ポセイドン船長 海技免状:五級小型船舶操縦士

損害
遊上遊泳者が腹部及び仙骨部に打撲等

原因
針路選定不適切

主文

 本件遊泳者負傷は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月5日18時00分
 兵庫県尼崎西宮芦屋港第2区

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートポセイドン
全長 2.54メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 69キロワット

3 事実の経過
 ポセイドンは、カナダのボンバルディエ社が製造した、ウォータージェット推進装置を有するFRP製2人乗り水上オートバイで、A受審人が単独で乗り組み、遊走の目的で、船首尾0.15メートルの等喫水をもって、平成13年8月5日17時45分兵庫県西宮市の大関酒造今津灯台(以下「今津灯台」という。)から168度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点(以下「発航地」という。)を発し、沖合に向かった。
 ところで、ポセイドンは、ステアリングハンドル(以下「ハンドル」という。)の右グリップに備えられたスロットルレバーの引き具合で速力を調整するようになっており、ハンドルを右、または左に切ると、船体後部にあるジェットノズルから出るジェット噴流の向きが変わることにより旋回し、高速走航からスロットルレバーを放してハンドルを切ったときには、噴流が少なくなるうえに、水中に舵面の役割を担うものがないため、行きあしがあってもほとんど旋回しないものであった。
 A受審人は、西宮市浜甲子園と同市甲子園浜との間の海域で遊走を続け、17時59分わずか過ぎ今津灯台から151度860メートルの地点で、針路を136度に定め、50キロメートル毎時(以下「キロメートル毎時」を「キロ」という。)の速力(対地速力、以下同じ。)で進行したのち発航地に戻ることとし、同時59分少し過ぎ同灯台から150度960メートルの地点に達したとき、速力を30キロに減じて右転を始め、このとき発航地付近の波打ち際に、自船に背を向けて立っている遊泳者遊上知恵を認めた。
 18時00分少し前A受審人は、今津灯台から159度1,040メートルの地点に達し、270度の針路としたとき、右前方の遊上遊泳者に著しく接近することとなったが、このままでも同遊泳者の左側をわずかに替わるので大丈夫と思い、同人から十分に離すなど、針路の選定を適切に行うことなく進行した。
 18時00分わずか前A受審人は、遊上遊泳者の左後方至近に近づいたところでスロットルレバーを放してエンジンを停止したところ、波打ち際の波で船体が右方に寄せられて同遊泳者に向かったので、ハンドルを切ったが旋回せず、右側に飛び降りてポセイドンを手で押し止めようとしたが効なく、18時00分今津灯台から166度1,020メートルの地点において、ほぼ原針路のまま7キロの速力となったポセイドンの左舷船首が遊上遊泳者に接触した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 その結果、遊上遊泳者は、腹部及び仙骨部に約2週間の通院加療を要する打撲等を負った。

(原因)
 本件遊泳者負傷は、尼崎西宮芦屋港第2区において、発航地に向かって遊走する際、針路の選定が不適切で、遊泳者の至近に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、尼崎西宮芦屋港第2区において、発航地に向かって遊走する場合、自船に背を向けて立っている遊泳者が右前方にいたのであるから、同人に接触して負傷させることのないよう、遊泳者から十分に離すなど、針路を適切に選定すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、このままでも遊泳者の左側をわずかに替わるので大丈夫と思い、針路を適切に選定しなかった職務上の過失により、同人に著しく近づく態勢のまま進行し、波打ち際の波で船体が右方に寄せられて遊泳者に接触する事態を招き、同人に腹部及び仙骨部の打撲等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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