日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成14年長審第12号
件名

引船第1あそ丸被引起重機船五十三順進号陸上作業員死傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成14年7月26日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第1あそ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:五十三順進号作業指揮者
Y港湾工業株式会社 業種名:港湾工事業

損害
陸上作業員1人が頸髄損傷により死亡、陸上作業員1人が右肩骨折などの重傷

原因
あそ丸・・・係留作業に対する安全配慮不十分
港湾工事業者・・・作業手順の不適切

主文

 本件陸上作業員死傷は、着桟作業に対する安全配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 港湾工事業者が、作業計画を立てなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月31日09時40分
 熊本県八代港

2 船舶の要目
船種船名 引船第1あそ丸 起重機船五十三順進号
総トン数 19.93トン  
全長  20.01メートル 43.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 625キロワット  

3 事実の経過
 指定海難関係人Y港湾工業株式会社(以下「Y港湾工業」という。)は、昭和58年に設立されて主に港湾工事業を営んでおり、平成13年7月熊本県八代港内の航路浚渫工事に伴って生じる土砂の埋立用排砂管施設を同港内大築島に設置するに当たり、工事用車両や機材などを運搬するため、有限会社木村潜水工業(以下「木村潜水工業」という。)から作業員付きで起重機船五十三順進号(以下「起重機船」という。)を用船し、第1あそ丸(以下「あそ丸」という。)に引航させて同月18日に搬入し、同月31日に搬出作業を行うこととしたが、作業の総轄責任者を選任し、作業手順を確立し、連絡方法を確保するなど事前に着桟作業計画を立てなかった。
 あそ丸は、可変ピッチプロペラを装備した鋼製引船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.6メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、引索50メートルを延出し、船首尾とも1.2メートルの等喫水で、木村潜水工業から派遣されたB指定海難関係人とY港湾工業作業員2人が乗り組んだ非自航鋼製起重機船を船尾に引き、前示機材などを搬出する目的で、A受審人とB指定海難関係人が引航や着桟の作業手順及び連絡方法の確認を行わないまま、同月31日08時20分八代港港町岸壁を発し、大築島南東部の桟橋に向かった。
 ところで大築島桟橋は、以前に石灰石の積出し用に使用されていたもので、同島77メートル島頂から真方位091度650メートルばかりの地点に、前面幅7.2メートル長さ19.2メートルで南南東を向いて海岸の岩場に設置され、桟橋両側の岩場には先端にアイの付いた長さ9メートルの係留用ワイヤーが係止されていた。
 A受審人は、機関を毎分回転数320にかけて翼角を前進14度とし、4.0ノットの引航速力(対地速力、以下同じ。)で八代港内を南下し、09時20分桟橋の南東方200メートルばかりの地点に達し、引索を30メートルに短縮し、機関を毎分回転数300に減じて翼角を前進10度として2.0ノットで続航した。
 09時30分B指定海難関係人は、桟橋の沖合150メートルばかりの地点に達したとき、錨索約50メートルを延出して船尾両舷錨を投入した。
 A受審人は、桟橋前面に起重機船を船首付けするために桟橋に向かって同速力で引航を続け、09時35分桟橋まで70メートルばかりのところで錨が効いて同船が停止したが、右舷側からの微弱な潮流を受けていたことから、係留索を取るまで圧流されないで停止状態が保たれるようそのまま引き続けた。
 B指定海難関係人は、起重機船が停止したので右舷船首係留索を陸岸に取ることとし、径45ミリメートルの合成繊維製係留索の一部を右舷側に付けていた小船に載せて桟橋東側の海岸に向かったが、あそ丸の機関使用状況を確認しなかった。
 先に大築島に上陸して工事用車両や機材などの搬出準備を行っていた有限会社飛石建設陸上作業員U及びTは、他の作業員と共に桟橋で待機していたところ、起重機船の小船が海岸に接近して来るのを認め、気を利かして海岸に下りてB指定海難関係人から係留索先端部とシャックルを受け取り、陸岸の係留用ワイヤーに結止した。
 09時39分少し過ぎB指定海難関係人は、右舷船首係留索を陸岸に取り終えたのを確認して引き返す途中、起重機船を引き続けているあそ丸の推進器翼の排出流を見たとき、同船は機関を停止しているものと思っていたことから、同船の機関使用状況を不審に思って起重機船の船首部にいたクレーン士に引くのを止めさせるよう指示し、同人があそ丸に対し「おーい。」と呼びながら胸の前で右手を左右に振った。
 A受審人はクレーン士の動作を見たとき、動作の意味を確認することなく、左に引けという合図と判断し、どうして左に引くのかと少し不思議に思いながら左舵を取った。
 こうして起重機船は、左舷方に引かれ始めたので右舷船首係留索が緊張し、09時40分桟橋東方至近の海岸にいたU及びT陸上作業員が同索に跳ねられた。
 当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には微弱な南西流があった。
 B指定海難関係人は、起重機船の船尾側を回ってあそ丸に接近したとき、海岸での騒ぎを聞いて現場に赴き、付近にいた漁船で両陸上作業員を病院に搬送させるなど事後の措置に当たった。
 この結果、U陸上作業員(昭和31年4月3日生)が頚髄損傷により死亡し、T陸上作業員が右肩骨折などの重傷を負った。

(原因)
 本件陸上作業員死傷は、あそ丸により引航された非自航の起重機船を熊本県八代港内大築島桟橋に船首付けする際、作業に対する安全配慮が不十分で、桟橋前面で停止した起重機船の右舷船首から陸岸に取った係留索が緊張して陸上作業員が跳ねられたことによって発生したものである。
 作業が適切でなかったのは、あそ丸船長が、起重機船の作業員から出された指示を確認しなかったことと、起重機船作業指揮者が、あそ丸の機関使用状況を確認しなかったこととによるものである。
 港湾工事業者が、事前に作業計画を立てなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、起重機船を引航して熊本県八代港内大築島桟橋に船首付けするに当たり、起重機船作業員から右手を左右に振る動作によって作業の指示を受けた場合、作業開始前に連絡方法を確認していなかったのであるから、指示の意味を取り違えないよう、その動作の意味を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、その動作の意味を確認しなかった職務上の過失により、左に引けという指示と思って起重機船を左方に引き、同船右舷船首から陸岸に取った係留索を緊張させて陸上作業員を跳ね、1人を死亡、 もう1人に重傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、あそ丸に引航された起重機船を熊本県八代港内大築島桟橋に船首付けするに当たり、船尾左右舷から投入した錨が効いて桟橋前面で停止した同船の右舷船首係留索を陸岸に取る際、同船が潮流に圧流されないで停止状態を保つために引き続けているあそ丸の機関使用状況を確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、再発防止に努めていること及び当時Y港湾工業が着桟作業計画を立てていなかったこととにより、勧告しない。
 Y港湾工業が、作業の総轄責任者を選任し、作業手順や連絡方法を確立するなど事前に着桟作業計画を立てなかったことは、本件発生の原因となる。
 Y港湾工業に対しては、作業計画書及び再発防止教育資料を作成し、各船にトランシーバーを備え付けるなど積極的に再発防止に取り組んでいることにより、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION