(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月7日09時00分
兵庫県尼崎西宮芦屋港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八実穂丸 |
総トン数 |
470トン |
全長 |
63.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第八実穂丸(以下「実穂丸」という。)は、船首部に全旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)を備えた船尾船橋型の砂利運搬船で、A受審人、一等航海士Hほか3人が乗り組み、海砂約1,500トンを積載し、船首3.8メートル船尾5.6メートルの喫水をもって、平成13年10月7日04時00分兵庫県家島を発し、同県尼崎西宮芦屋港に向かい、08時40分尼崎西防波堤灯台から真方位039度1.3海里で、末広大橋東方の岸壁に右舷係留した。
ところで、実穂丸は、上甲板中央部に長さ17.6メートル幅9.2メートルの倉口を有する船倉1個を備え、倉口の周囲にハッチコーミングが設けられ、その高さは、両舷で30センチメートル(以下「センチ」という。)船首側で90センチ、船尾側で1.2メートルとなっていた。
クレーン機械室は、長さ6.9メートル幅4.2メートルで、ジブブームが取り付けられた前面の右側に操縦室があり、船体中心線上で船首側ハッチコーミングの前方2.8メートルの位置を中心とする上甲板の台座上に据え付けられていて、その最大旋回半径は4.8メートルで、ジブブームを船首方に旋回させると機械室後部が船首側ハッチコーミングを越えて船倉上に2.2メートルはみ出すようになっており、機械室下端と船首側ハッチコーミング上縁との間隔が5センチであった。
また、操縦室からの見通しについては、前方及び右方は良いものの、左方は小窓があるだけで見通しが悪く、また、後方は構造物で遮られていて全く見通すことができなかった。
上甲板上には、クレーン台座を囲んでクレーン機械室の旋回区域の外周に沿って、高さ約1メートルのハンドレール式防護柵(以下「防護柵」という。)がほぼ円弧状に設けられていたが、船首側ハッチコーミングから前方約1メートルの範囲は、防護柵に代えて着脱式の立入禁止用チェーンが設置されていた。
A受審人は、平成12年3月安全担当者を兼ねて実穂丸に乗り組み、船内における安全管理を担当していたところ、翌13年8月H一等航海士が乗船したが、クレーン機械室の旋回区域に立ち入らないよう指示を徹底していなかった。
こうして、A受審人は、08時45分自らクレーンを運転して海砂の陸揚げ作業を行うこととしたが、乗組員は熟練者なので、クレーン機械室の旋回区域に立ち入ることはないものと思い、立入禁止用チェーンを施すなど、クレーン運転時の安全措置を十分にとることなく、H一等航海士が倉口の左舷前部で甲板作業に従事している姿を確認して陸揚げ作業を開始した。
実穂丸は、ジブブームを船尾方に向けて船倉内の海砂をバケットでつかみ、左旋回させて右舷船首方に向け、岸壁に海砂を降ろす作業を繰り返していたところ、H一等航海士が、海砂の塩分除去に使用したビニールシートを取り除くためか、船首側ハッチコーミングの前方に移動してクレーン機械室の旋回区域に立ち入り、09時00分左旋回したクレーン機械室と船首側ハッチコーミングとの間に挟まれた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、船橋で事態を目撃した一等機関士から事故の発生を知らされ、船首側ハッチコーミング付近に倒れているH一等航海士(昭和23年5月7日生)を認め、病院に搬送したが、11時00分同人は、両側血気胸などによる窒息死と診断された。
(原因)
本件乗組員死亡は、兵庫県尼崎西宮芦屋港において、クレーンを使用して海砂の陸揚げ作業を行う際、クレーン運転時の安全措置が不十分で、乗組員がクレーン機械室の旋回区域に立ち入り、同機械室と船首側ハッチコーミングとの間に挟まれたことによって発生したものである。
安全措置が十分でなかったのは、安全担当者である船長が、クレーン機械室の旋回区域に立ち入らないよう指示を徹底していなかったうえ、立入禁止用チェーンを施さなかったことと、乗組員が、クレーン機械室の旋回区域に立ち入ったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、安全担当者として船内の安全管理に当たり、自らクレーンを運転して海砂の陸揚げ作業を行う場合、乗組員がクレーン機械室の旋回区域に立ち入らないよう、立入禁止用チェーンを施すなど、クレーン運転時の安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、乗組員は熟練者なので、クレーン機械室の旋回区域に立ち入ることはないものと思い、クレーン運転時の安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、乗組員がクレーン機械室の旋回区域に立ち入り、同機械室と船首側ハッチコーミングとの間に挟まれる事態を招き、両側血気胸などにより窒息死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。