日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成11年門審第143号
件名

旅客船トッピー3機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年9月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、島 友二郎、千手末年)

理事官
中井 勤

指定海難関係人
I株式会社船舶運航部高速船課 業種名:海運業
K株式会社技術部 業種名:機器製造業

損害
4段ブレード24枚及びタービンケーシングの打痕、軸封部の摩耗等

原因
主機パワータービンの4段ブレードの点検不十分

主文

 本件機関損傷は、保守・整備担当者が、主機パワータービンの中間点検にあたり、4段ブレードの点検が不十分であったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年11月21日12時20分
 種子島西方

2 船舶の要目
船種船名 旅客船トッピー3
総トン数 164トン
登録長 23.99メートル
機関の種類 ガスタービン機関
出力 5,589キロワット
回転数 毎分13,820

3 事実の経過
 トッピー3は、川崎重工業株式会社が建造し、平成7年2月に進水した、鹿児島港及び鹿児島県指宿港と種子島及び屋久島間の旅客輸送に従事する軽合金製のジェットフォイルと称する高速旅客船で、高速走行時は船首及び船尾の船体下部に装備された水中翼の揚力により、船底が海面から浮上して航行(以下「翼走」という。)するようになっており、主機として、米国のアリソン・エンジン・カンパニーが製造した出力2,794.5キロワットの501−KF型ガスタービン機関を2基装備し、両機はそれぞれ減速機を介して両舷のウォータージェット推進機に接続されていた。
 主機は、コンプレッサー、燃焼器、タービンなどから構成されるガスジェネレーターと、ウォータージェットポンプを駆動するパワータービンとが組み合わされたものであった。
 ガスジェネレーターのタービン及びパワータービンは、ベーンと称する固定羽根とブレードと称する回転羽根の組み合わせを1段として、それぞれ2段づつ合計4段からなり、燃焼ガスの流れる順にガスジェネレーター側を1段ベーン及び1段ブレード、2段ベーン及び2段ブレード、パワータービン側を3段ベーン及び3段ブレード、4段ベーン及び4段ブレードと呼んでおり、ベーン及びブレードは全てニッケル基耐熱合金製であったが、最終段の4段ブレードは他段のブレードと比較して厚みが薄く、材料硬度が若干低いものが用いられていた。
 主機の作動行程は、始動時は14段の風車からなるコンプレッサーを始動用モーターにより回転させ、吸入した空気を圧縮して6個の燃焼器へ送り込み、燃焼器では高圧で霧状に噴射された燃料の軽油を、2番及び5番燃焼器に設置された点火栓のスパークにより燃焼させたのち、連続燃焼で高温高圧の燃焼ガスを発生させ、同燃焼ガスをタービンに吹きつけてガスジェネレーターの回転力を発生させるとともに、ガスジェネレーターのタービンを通過した燃焼ガスを引き続きパワータービンにも吹きつけてパワータービンに回転力を与え、この回転力を歯車によって減速してウォータージェットポンプを駆動させるもので、一定回転数以上に上昇すると始動用モーターは自動的に外されるようになっていた。
 トッピー3は、翼走の積算時間によって主機の検査時期が定められ、主機メーカーが作成した保守整備要領書等に基づいて実施されるが、同検査には、主機を取り外して工場に陸揚げし、各部を分解して詳細に検査する開放検査と、船内に据えつけたままの状態で、主として目視により点検する中間点検とがあり、ガスジェネレーターは6箇月ごとに開放検査が、パワータービンは1年ごとに開放検査及びその中間でガスジェネレーターが開放検査されるときに中間点検が実施されていた。
 I株式会社(平成13年4月社名をE商船株式会社から変更した。)は、平成元年にトッピーを就航させ、その後同型の姉妹船であるトッピー2及びトッピー3の合計3隻を配し、指定海難関係人である同社船舶運航部高速船課(以下「高速船課」という。)が、予備6基を含めた合計12基の主機の保守・整備を担当していた。
 指定海難関係人K株式会社技術部(以下「KJPS」という。)は、川崎重工業株式会社が建造するジェットフォイルのメンテナンス計画、部品供給、修理など全般にわたる支援業務を行なっていた。
 高速船課は、主機の保守・整備作業を乗組員が実施する作業、同課のメンテナンスチームが実施する作業及びKJPSに委託する作業の分担を定め、乗組員には専ら運転監視業務を、メンテナンスチームには乗組員からの報告に基づいて停泊中に燃焼ノズルや点火栓の点検及び取替え、開放検査時のガスジェネレーター及びパワータービンの取外し及び取付け、パワータービンの中間点検を、それぞれ実施させていた。
 KJPSは、高速船課からトッピー3を含めた同型船3隻の主機開放検査をその都度請け負っており、姉妹船のトッピー就航にあわせて乗組員やメンテナンスチームに対し、パワータービンの点検方法について座学による教育のほか、平成元年12月トッピーにおける初めてのパワータービン中間点検の際、高速船課からの要請で技術員を派遣し、ベーンケーシングを取外しのうえ3段及び4段ブレードを点検する要領を指導した。
 ところで、主機は、燃焼不良などで異常な高温になると、ガスジェネレーター構成部品のうち、燃焼器の内壁に取り付けられているバッフルと称するニッケル基耐熱合金製の空気整流板、点火栓中央部のセラミック製の部分、及び各燃焼器に2個づつ設置されている排ガス温度測定用の熱電対のニッケル・クロム合金及びニッケル・アルミ合金製の測温エレメントが、消耗あるいは損傷してときには小破片となって飛び散ることがあり、これら小破片が数グラム程度でも高速回転のタービンのブレードに衝突したときブレードに打痕を生じ、さらに同打痕を起点として亀裂(きれつ)が生じるおそれがあり、3段ブレードの奥にある4段ブレードを詳細に目視点検するにはベーンケーシングの取外しが不可欠であった。
 高速船課は、パワータービンの中間点検を行なう際、最初は前示のとおりKJPS技術員立会いのもとで行い、ベーンケーシングを取り外して4段ブレードを詳細に目視点検したが、その後はKJPS技術員立会いなしで実施し、さらに、いつしかその経緯が不明のまま、ベーンケーシングを取り外さず、4段ブレードに対してはボアスコープによる点検のみを行なうようになった。
 そして、平成8年姉妹船のトッピーにおいてパワータービン4段ブレード折損事故が発生した際、高速船課は、川崎重工業株式会社が作成した、「4段ブレード折損の推定原因は、異物の衝突あるいは前回開放組立て時の他物への接触による打痕に高応力が集中して疲労破壊に至ったもので、今後の対策としてブレードをより慎重に点検すべきである。」旨が記載された調査書を受け取ったものの、その後もパワータービンの中間点検時にベーンケーシングを取り外さずに、4段ブレードの詳細な目視点検を行わなかった。
 トッピー3は、平成10年1月23日主機の開放検査が実施され、整備済みのガスジェネレーター及びパワータービンが取り付けられ、その後の運転中、左舷主機のガスジェネレーターの燃焼器、点火栓及び熱電対で小破片が生じ、いずれかの小破片でパワータービンの4段ブレードの1枚に打痕を生じ、さらに同打痕を起点として亀裂が生じて進展していた。
 高速船課は、同年6月30日パワータービンの中間検査では、4段ブレードをボアスコープで点検したのみで、ベーンケーシングを取り外して詳細に目視点検しなかったので、4段ブレードの1枚に生じていた亀裂に気付かなかった。
 トッピー3は、船長ほか4人が乗り組み、旅客112人を乗せ、船首1.25メートル船尾1.50メートルの喫水で、同年10月21日11時50分屋久島の宮之浦港を発し、両舷主機の回転数を毎分約13,400にかけて全速力前進で種子島の西之表港に向けて種子島西方を翼走中、前示の亀裂が進展していたブレードが折損し、同日12時20分西之表港南防波堤灯台から真方位227度9海里の地点において、左舷主機が異常振動の警報を発した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、海上には小さな波浪があった。
 損傷の結果、トッピー3は、左舷主機が運転不能となり、右舷主機の単独運転で西之表港に入港し、その後同機を工場に陸揚げして精査したところ、4段ブレード24枚及びタービンケーシングの打痕などの2次損傷、異常振動によるガスジェネレーターコンプレッサのブレードとケーシング及び軸封部の摩耗などが認められ、のち修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、保守・整備担当者が、主機パワータービンの中間点検を実施する際、4段ブレードの点検が不十分で、4段ブレードの1枚に生じていた亀裂が見逃されて継続使用され、主機運転中同亀裂が進展したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 高速船課は、トッピー3の姉妹船において主機パワータービン4段ブレードの折損事故があり、その対策として同ブレードをより慎重に点検すべき旨の調査報告書をKJPSから受け取ったが、トッピー3の主機パワータービンの中間点検を実施する際、ベーンケーシングを取り外さず、4段ブレードを詳細に点検しなかったことは本件発生の原因となる。
 高速船課に対しては、ベーンケーシングを取り外して中間点検を行なうよう改善したことに徴し、勧告しない。
 KJPSの所為は、本件発生の原因とならない。しかしながら、ガスタービン機関は一般船舶用主機としては特殊な機関であり、事故防止の観点から、製造者側の立場として使用者に対してより積極的に技術的助言を行なうよう要望する。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION