(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年11月20日10時00分
対馬上島棹埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八金比羅丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
18.42メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット(定格出力) |
回転数 |
毎分1,800 |
3 事実の経過
第十八金比羅丸(以下「金比羅丸」という。)は、昭和62年7月に進水したFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LAAK−UT型と称するディーゼル機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置、警報装置及び監視盤を備えていた。
主機の監視盤には、回転計、潤滑油圧力計、警報表示灯、始動スイッチ、警報装置のブザースイッチなどが装備されており、ブザースイッチを始動前に入れておくと、主機始動の瞬間にブザーが吹鳴し、潤滑油圧力が上昇するとブザーが止まり、監視状態となるようになっていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だまりに入れられた約80リットルの潤滑油が、直結駆動の潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の各機器については「潤滑油」を省略する。)で吸引・加圧され、こし器、冷却器を通り、圧力調整弁で約5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)となって主管に至り、主軸受、カム軸受、ピストンなどに分岐して各部を潤滑及び冷却して油だまりに戻り、主管の圧力が2キロ以下に低下すると警報装置が作動するようになっていた。
こし器は、定格通油量が毎分約223リットルの、複筒型のケースの中に紙製エレメントが挿入されたもので、ケース下部にねじの直径が10ミリメートルのドレンプラグが装着されていた。
A受審人は、平成10年12月金比羅丸を購入し、漁業許可証が発給されるまでの間、1ヶ月に1回ほど係留したまま主機を約2時間運転して蓄電池を充電していたところ、警報装置が誤作動したことから、これを嫌い、そののちは警報装置のブザースイッチを入れることなく、主機を運転するようになった。
ところで、A受審人は、主機の始動前及び始動後の点検を初め、潤滑油の取替えなど機関管理の全てを、無資格ではあるが鉄工所での機関整備の経験がある息子のB指定海難関係人に任せ、自らは船橋で主機の始動及び停止操作をするのみで機関室内を点検することもなかった。
翌11年11月10日B指定海難関係人は、操業に備えて主機の潤滑油及びこし器エレメントを取り替えることとし、こし器のドレンプラグを外し、ケース内の潤滑油を抜き出してエレメントを取り替えたが、ドレンプラグを十分に締め付けなかった。
B指定海難関係人は、翌々12日漁業許可証が発給されたので、A受審人とともに金比羅丸に乗り込み、対馬北西岸沖合の漁場でのはえなわ式あなごかご漁に2回従事し、約20時間主機を運転したが、運転中こし器の漏洩点検をしなかったので、締付けが不十分であったドレンプラグから潤滑油が漏洩するとともに、運転中の振動で更に緩み始めたことに気付かなかった。
こうして、金比羅丸は、A受審人、B指定海難関係人ほか1人が乗り組み、同月19日10時00分長崎県竹敷港を発し、対馬北西岸沖合の漁場で操業したのち、A受審人が船橋当直に就き、翌20日09時00分同漁場を発し、主機を回転数毎分約1,200で運転して同港に向け帰途航行中、こし器のドレンプラグが抜け落ちて潤滑油が噴出し、潤滑油圧力低下警報装置が作動したが、ブザーが吹鳴しなかったのでA受審人はこれに気付かず、そのまま主機の運転が続けられ、クランク軸、シリンダライナなどの潤滑が阻害されて焼き付き、10時00分対馬棹尾埼灯台から真方位274度3.0海里の地点において、主機が異音を発して停止した。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、海上にはやや波があった。
甲板で作業中のB指定海難関係人は、異音に気付いて機関室に赴き、ドレンプラグが抜け落ちて潤滑油が散乱しているのを認め、主機ターニングを試みたが回らなかったので、A受審人が僚船に救助を依頼した。
損傷の結果、金比羅丸は、僚船にえい航されて帰港し、主機を精査したところクランク軸、シリンダライナのほか過給機ロータなどにも損傷が認められ、のち損傷部品が取り替えられて修理された。
(原因)
本件機関損傷は、主機を運転するにあたり、警報装置の取扱いが不適切であったことと、潤滑油こし器のエレメントを取り替えた際、漏洩点検が不十分であったこととにより、主機運転中、締付け不十分のドレンプラグが抜け落ちて潤滑油が噴出し、潤滑油圧力低下警報装置が作動したときブザーが吹鳴せずにそのまま主機の運転が続けられ、クランク軸、シリンダライナなどの潤滑が阻害されたことにより発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機を運転する場合、警報装置のブザースイッチを入れるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、誤作動することがあったことから、これを嫌い、ブザースイッチを入れなかった職務上の過失により、潤滑油圧力が低下したことに気付かないまま運転を続け、クランク軸、シリンダライナ、過給機などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、機関管理を一任され、潤滑油こし器エレメントを取り替えた際、主機運転中に漏洩点検をしなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。