(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月7日20時30分
長崎県壱岐島北方
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一日之出丸 |
総トン数 |
18トン |
登録長 |
17.52メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
回転数 |
毎分1,850 |
3 事実の経過
第一日之出丸(以下「日之出丸」という。)は、平成2年5月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LAH−ST型機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置及び警報装置を備えていた。
主機は、清水2次冷却式で、清水冷却器を兼ねた容量約47リットルの冷却清水タンクには水位センサー及び水温スイッチが装備され、冷却清水が約19リットル減少したとき、及び温度が摂氏約95度に上昇したとき、それぞれ警報を発するようになっていた。
主機の冷却清水ポンプは、クランク軸により歯車を介して駆動される渦巻きポンプで、玉軸受で支持された同ポンプ軸には、軸封装置としてメカニカルシール及びオイルシールが組み込まれ、両者の間の下部ケーシングに設けられたドレン孔からの漏れの有無を点検することにより、各シールが正常に機能しているか否かが点検できるようになっており、メカニカルシールについては取扱説明書で、1年または3,000時間ごとに点検のうえ異状があれば交換するように記載されていた。
A受審人は、日之出丸新造時から船長として乗り組んで機関部の責任者も兼ね、操業に従事するため主機を月間約300時間運転し、約500時間ごとに潤滑油を取り替え、平成10年6月主機のピストン抜き整備をしたものの、冷却清水ポンプを整備することなく、同ポンプドレン孔の点検もしないまま、主機の運転を続けた。
冷却清水ポンプは、いつしかメカニカルシールの当り面に偏摩耗を生じて少量の冷却清水が漏れ始めたが、ドレン孔がさびなどで閉塞しており、同時にオイルシールのゴムも硬化していたので、ドレン孔から抜けずに同部にたまった冷却清水がオイルシールを超えて同ポンプの玉軸受部に浸入する状況となった。
A受審人は、出港時冷却清水タンク及び潤滑油油だまりの量を点検していたが、冷却清水の漏れが少量であったことからこれに気付かず、冷却清水ポンプ玉軸受の潤滑が阻害される状況のまま、主機の運転を続けた。
こうして、日之出丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、平成13年4月7日16時00分長崎県勝本港を発し、壱岐島北方の漁場に至って主機を回転数毎分1,710として操業中、冷却清水ポンプの玉軸受が損壊して冷却清水の漏洩量が急増し、20時30分若宮灯台から真方位356度14海里の地点において、冷却清水タンクの水位低下警報が作動した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、操業を中断し、主機冷却が不十分なままで、かつ漏れた冷却清水が潤滑油に混入したまま、減速運転で勝本港に帰港した。
その結果、主機は、冷却清水ポンプの玉軸受のほか、ピストン、シリンダライナなどに損傷を生じ、同港にて修理された。
(原因)
本件機関損傷は、主機を開放整備した際、長期間整備されていなかった主機直結冷却清水ポンプの整備が不十分で、冷却清水が同ポンプ玉軸受側に漏れるまま運転され、同玉軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、主機を開放整備した場合、主機直結冷却清水ポンプが長期間整備されておらず、同ポンプのメカニカルシールやオイルシールは定期的に取替えを要するものであったから、同ポンプを整備すべき注意義務があった。しかるに同受審人は、同ポンプを整備しなかった職務上の過失により、冷却清水ポンプの玉軸受のほか、ピストン、シリンダライナなどに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。