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平成14年横審第26号
件名

貨物船ふじはる機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年8月23日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗、原 清澄、黒岩 貢)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:ふじはる機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
B 職名:ふじはる一等機関士 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
ノズルリング及びタービンロータに曲損

原因
吸気及び排気両弁を組込む位置の確認不十分、主機予備シリンダヘッド組立後の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機予備シリンダヘッドを整備した際、吸気及び排気両弁を組み込む位置の確認が不十分であったばかりか、同シリンダヘッド組立後の点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月27日17時10分
 静岡県御前埼南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船ふじはる
総トン数 499トン
全長 75.53メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分520

3 事実の経過
 ふじはるは、平成7年9月に進水し、鉄鋼製品等の輸送に従事する鋼製貨物船で、主機としてダイハツディーゼル株式会社製造の6DKM−28型と称するディーゼル機関を装備し、クラッチを内蔵した逆転減速機を介してプロペラを駆動し、操舵室から遠隔操縦装置により主機及びクラッチの運転操作が行えるようになっており、発電装置として、定格容量160キロボルトアンペアの主機駆動発電機(以下「軸発電機」という。)並びに同容量150キロボルトアンペア及び40キロボルトアンペアの補機駆動発電機をそれぞれ装備していた。
 主機は、連続最大出力1,912キロワット同回転数毎分720の原機に負荷制限装置を付設していたが、いつしか同装置が取り外され、全速力前進の回転数を毎分630までとして運転されていた。そして、各シリンダには船尾側を1番として6番までの順番号が付され、1番シリンダ船尾側の架構上に三菱重工業株式会社製造のMET−26SR型排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を装備し、燃料油として、出入港時にはA重油が、航海中は専らC重油が使用されていた。
 主機のシリンダヘッドは、きのこ弁型の吸気及び排気両弁をそれぞれ2個備えた4弁式で、両弁がシリンダヘッドに装着された弁座及び弁案内を通して触火面側から挿入され、シリンダヘッド上面から弁ばね、バルブローテータ及びコッタなどを取り付けるようになっていた。
 吸気弁は、弁棒部基準外径20ミリメートル(以下「ミリ」という。)弁傘部外径95ミリの耐熱鋼製で、弁フェース面にステライトが溶着され、また、排気弁は、弁棒部基準外径20ミリ弁傘部外径90ミリのナイモニックと称する耐食耐熱超合金製で、両弁とも、弁棒上部にそれぞれ材質を示す記号が刻印されていた。
 ところで、吸気及び排気両弁は、弁座と入念に摺合わせが行われたのちにシリンダヘッドに組み込まれるもので、シリンダヘッドに両弁を組み込むに当たり、それぞれの位置を取り違えて吸気弁座に排気弁を、排気弁座に吸気弁を組み込むと、弁傘外径の違いから、排気弁座に組み込まれた吸気弁の弁傘部が燃焼室側に約1.5ミリ飛び出し、一方、吸気弁座に組み込まれた排気弁の弁傘部が約1.5ミリ引っ込み、運転中、排気行程終期にピストンが上死点位置に達したときには、排気弁座に組み込まれた吸気弁の弁傘部がピストン頂部と接触するおそれがあり、主機取扱説明書のシリンダヘッド整備に関する注意事項には、両弁に刻印された記号を調べるなど、吸気及び排気両弁を組み込む位置の確認を十分に行うよう記載されていた。
 ふじはるは、平成12年12月20日ごろ、主機1番シリンダの排気弁が吹き抜けたことから、シリンダヘッドの交換作業を行うこととし、A受審人が整備業者の手配を船主に依頼したところ、船主から、船内に保管してある予備シリンダヘッドを事前に整備しておくよう指示され、A及びB両受審人が同シリンダヘッドの整備に掛かった。
 B受審人は、A受審人から指示されて前示予備シリンダヘッドの吸気及び排気両弁をすべて新替えし、シリンダヘッド本体の上下を逆にして弁フェースと弁座の当たり面の摺合わせを行い、再び、同本体をひっくり返そうとしたとき、両弁を摺合わせが終わった状態のまま、シリンダヘッドの触火面側から挿入しただけであったため、上から段ボールをあてがい、ガムテープで固定して弁が抜け出さないように処置していたものの、同テープの粘着が十分でなかったことから、シリンダヘッドを動かした弾みで段ボールが外れ、弁を4本とも床に脱落させた。B受審人は、慌てて弁を拾い集め、摺合わせを行った弁フェースの当たり面を点検して傷がついていないことを確認しただけで、吸気及び排気両弁の形状が似通っていて、両弁を取り違えて組み込むおそれがあったにも拘らず、脱落した弁をすぐに拾い集めて元の位置に組み込んだつもりなので大丈夫と思い、弁の刻印を調べるなど、両弁を組み込む位置の確認を十分に行うことなく、両弁を取り違えて同シリンダヘッドに組み込み、排気弁座に吸気弁が、吸気弁座に排気弁がそれぞれ組み込まれたことに気付かないまま組立作業を終えた。
 A受審人は、B受審人とともに前示摺合わせを行った後、予備シリンダヘッドの組立を同人に任せ、自らは、シリンダヘッド交換作業に必要な工具や消耗品などの準備を行っていたが、予備シリンダヘッドの組立が完了した時点で、摺合わせの終わった弁と弁座の対は、組み合わせが変わらないように注意して組み立てるので、吸気及び排気両弁を取り違えてシリンダヘッドに組み込むことはあるまいと思い、弁の刻印を調べるなど、同シリンダヘッド組立後の点検を十分に行うことなく、同シリンダヘッドが両弁を取り違えて組み込まれていたことに気付かないまま、シリンダヘッド交換作業に備えた。
 ふじはるは、同年12月26日千葉港葛南区に入港し、08時30分から船主が手配した整備業者とともに、A及びB両受審人が主機1番シリンダのシリンダヘッド交換作業を開始し、A受審人が、整備業者に前示予備シリンダヘッドを主機1番シリンダに取り付けるよう指示し、同シリンダヘッドをチェーンブロックで吊り上げ、シリンダブロックに載せる直前に最終点検を行ったものの、弁棒上部の刻印を調べたり、シリンダヘッド触火面側の吸気及び排気両弁弁傘部の高さに違いが生じていたが、その状況を点検せず、依然として両弁が取り違えられて同シリンダヘッドに組み込まれていたことに気付かないまま主機が復旧され、15時00分主機の試運転を終え、17時20分同港を発し、19時20分木更津港港外に至り、仮泊したのち、翌27日00時20分同港に入港した。
 こうして、ふじはるは、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、スラブ1,588トンを載せ、船首3.5メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、12月27日06時30分木更津港を発し、大阪港に向かい、主機を毎分回転数630にかけ、11.0ノットの対地速力で航行中、主機1番シリンダの排気弁座に間違って組み込まれた吸気弁が高温の排気ガスに曝されて(さらされて)膨張し、弁傘部がピストンと接触して割損し、破片が過給機に飛び込み、17時10分御前埼灯台から真方位203度3.0海里の地点において、主機が異音を発するとともに、回転数が低下した。
 当時、天候は晴で風力4の西風が吹いていた。
 A受審人は、食堂で休息中、主機の異状に気付いて機関室に赴き、折から機関当直中のB受審人が、異状に気付いて発電機を軸発電機から補機駆動発電機に切り替えていたことから、引き続き、同人に指示して主機を停止させた。
 ふじはるは、主機1番シリンダの燃料供給を遮断して減筒運転を試み、静岡県御前崎港に向かったものの、風浪が強まり、航行が困難になったことから、同港沖合で仮泊し、翌28日、引船により同港に引き付けられたのち、主機を精査した結果、排気弁座に組み込まれていた吸気弁が折損し、その破片を挟撃したピストンに破口が、連接棒に曲損が、シリンダヘッド及びシリンダライナなどに打傷が、さらに、吸気弁の破片が飛び込んだ過給機のノズルリング及びタービンロータに曲損や欠損などの損傷がそれぞれ生じていることが判明し、のち損傷部品の取替えが行われた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機予備シリンダヘッドを整備した際、吸気及び排気両弁を組み込む位置の確認が不十分であったばかりか、同シリンダヘッド組立後の点検が不十分で、吸気及び排気両弁を取り違えて組み込まれたシリンダヘッドが主機に取り付けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機予備シリンダヘッドを整備した場合、吸気及び排気両弁の形状が似通っていて、両弁を取り違えて組み込むおそれがあったから、両弁が正しく組み込まれたかどうか確認できるよう、弁の刻印を調べるなど、同シリンダヘッド組立後の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、摺合わせの終わった弁と弁座の対は、組み合わせが変わらないように注意して組み立てるので、吸気及び排気両弁を取り違えてシリンダヘッドに組み込むことはあるまいと思い、主機予備シリンダヘッド組立後の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同シリンダヘッドが両弁を取り違えて組み込まれていたことに気付かず、排気弁座に組み込まれた吸気弁がピストン頂部と接触する事態を招き、同弁を折損させ、その破片を挟撃したピストンに破口を、連接棒に曲損を、シリンダヘッド及びシリンダライナなどに打傷を、さらに、吸気弁の破片が飛び込んだ過給機のノズルリング及びタービンロータに曲損や欠損などの損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、主機予備シリンダヘッドを整備した場合、吸気及び排気両弁の形状が似通っていて、両弁を取り違えて組み込むおそれがあったから、両弁を取り違えて組み込むことのないよう、弁の刻印を調べるなど、吸気及び排気両弁を組み込む位置の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機予備シリンダヘッドの吸気及び排気両弁の摺合わせを終え、同シリンダヘッドを動かしたときに両弁を脱落させたが、すぐに拾い集めて元の位置に組み込んだつもりなので大丈夫と思い、両弁を組み込む位置の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同シリンダヘッドに両弁を取り違えて組み込んだことに気付かず、排気弁座に組み込まれた吸気弁がピストン頂部と接触する事態を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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