(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年3月3日00時10分
京都府舞鶴港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船光進丸 |
総トン数 |
14.94トン |
登録長 |
16.63メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
回転数 |
毎分1,850 |
3 事実の経過
光進丸は、昭和55年3月に進水し、平成3年7月にA受審人が購入した小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、購入時に換装した昭和精機工業株式会社製の6LAH−ST型と称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダを船首側から順番号で呼称しており、操舵室に主機の回転計、潤滑油圧力計、冷却清水温度計及び警報装置等を組み込んだ操縦台を設け、同室から主機の回転数制御及び逆転減速機の嵌脱操作ができるようになっていたが、主機危急停止装置はなく、主機の発停は機関室で行われていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部にある容量64リットルの油溜めから直結の潤滑油ポンプにより吸引・加圧された潤滑油が、潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、同主管から、主軸受やクランクピン軸受を潤滑する系統及びピストン噴油ノズルからピストン内部を冷却する系統等に分岐し、各部を潤滑あるいは冷却したのち、油溜めに戻って循環するようになっており、主機運転時、4.5ないし5.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に設定された同主管部の潤滑油圧力が2.0キロ以下に低下すると、潤滑油圧力低下の警報装置が作動するようになっていた。また、同系統には、主機の換装時に、油溜めの潤滑油を排出したり、プライミングをすることができるよう、ウイングポンプが新設されていて、油溜めから同ポンプで吸引された潤滑油が、三方コックを経て、機外または潤滑油冷却器入口側に送油できるよう外径15ミリメートルの銅管(以下「プライミング管」という。)が配管されていた。
光進丸は、舞鶴港を基地として若狭湾で小型底引き網漁をほぼ周年行っており、平成10年6月の定期検査工事において主機の開放検査を行い、主軸受及びクランクピン軸受の全メタルを点検したのち、主機を月間350時間ほど運転して操業に従事していたところ、船体や機関の振動などでいつしかプライミング管の潤滑油冷却器入口側の取付ナット近くに下向きの亀裂が生じ、同亀裂が徐々に進展して潤滑油が機外に漏出する状況となっていた。
A受審人は、同13年2月中旬ごろから、主機潤滑油の補給量が次第に増加するようになったのを認めたが、僚船と競って漁場に向かうため主機の回転数を上げて運転していたので潤滑油の消費量が多くなっているものと思い、潤滑油系統の点検を行わなかったので、プライミング管に亀裂が生じ、同亀裂から潤滑油が機外に漏出していることに気付かなかった。
光進丸は、同年2月27日00時ごろ舞鶴港を発し、漁場で操業を行ったのち、翌28日23時15分操業を終えて帰港中、プライミング管に生じていた亀裂が進展して多量の潤滑油が機外に流出するようになり、3月1日02時30分主機の潤滑油圧力が低下して警報装置が作動した。
魚倉の様子を見に行っていたA受審人は、操舵室に戻ったところで警報ブザーが鳴っているのに気付くとともに、主機の潤滑油圧力が1.0キロ以下に低下しているのを認めたことから、急いで主機の回転数をアイドル回転まで下げ、逆転減速機を脱にして機関室に赴いたところ、主機が過熱気味で、潤滑油量が著しく減少しているのを認めたので、02時35分主機を停止した。
その後、A受審人は、潤滑油系統を点検してプライミング管の亀裂を発見し、亀裂箇所をウエスで縛って応急処置を施したのち、02時55分潤滑油を補給して主機を始動したところ、油圧が上昇して異音もなかったことから、低速で続航して03時00分舞鶴港の漁港ふ頭に光進丸を着岸させた。
ところで、A受審人は、夜が明けて修理業者にプライミング管の修理を依頼したものの、主機については、潤滑油圧力が上昇して異音もなかったことから大丈夫と思い、修理業者にクランク室内部の点検を依頼しなかったので、クランクピン軸受メタル及び主軸受メタルが著しく摩耗していることに気付かず、プライミング管の修理を終えたのち、光進丸を同漁港ふ頭より漁業組合前の岸壁まで回航した。
こうして、光進丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、操業の目的で、3月3日00時01分舞鶴港の漁業組合前の岸壁を発し、徐々に主機の回転数を上げ、全速力前進の回転数毎分1,700にかけて間もなく、著しく摩耗が進行していたクランクピン軸受メタル及び主軸受メタルが焼き付き、00時10分舞鶴港喜多防波堤灯台から真方位023度1,500メートルの地点において、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、機関室から異音が生じているのに気付き、同室に急行したところ異音が大きくなるとともに主機が激しく振動しているのを認めたので、主機の正常運転は不可能と判断し、主機を低回転で運転して岸壁に引き返した。
光進丸は、修理業者に依頼して主機を精査したところ、クランクピン軸受メタル、主軸受メタル、クランク軸及び5番シリンダの連接棒等が損傷していることが判明し、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。
(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油の補給量が増加するようになった際、潤滑油系統の点検が不十分で、主機の運転中、プライミング管に生じていた亀裂から多量の潤滑油が機外に流出し、潤滑油圧力が低下してクランクピン軸受メタル及び主軸受メタルの摩耗が著しく進行したことと、クランクピン軸受メタル及び主軸受メタルが摩耗して主機が過熱気味になったのち岸壁に着岸した際、クランク室内部の点検が不十分で、クランクピン軸受メタル及び主軸受メタルが著しく摩耗したまま、出港後に主機の回転数を増加したこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機潤滑油の補給量が増加するのを認めた場合、潤滑油が機外に流出しているおそれがあったから、潤滑油系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、僚船と競って漁場に向かうため主機の回転数を上げて運転していたので、潤滑油の消費量が多くなっているものと思い、潤滑油系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、プライミング管に生じていた亀裂から多量の潤滑油が機外に流出し、潤滑油圧力が低下してクランクピン軸受メタル及び主軸受メタルの摩耗が著しく進行する事態を招き、クランクピン軸受メタル、主軸受メタル、クランク軸及び5番シリンダの連接棒等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。