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平成14年横審第25号
件名

漁船永野丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年7月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗、原 清澄、小須田 敏)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:永野丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:永野丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
シリンダライナが破損、クランク室両舷側に破口等し、主機換装

原因
主機ピストン抜出し整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機ピストン抜出し整備が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月10日10時30分
 千葉県犬吠埼南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船永野丸
総トン数 16.95トン
全長 18.86メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 360キロワット
回転数 毎分1,800

3 事実の経過
 永野丸は、昭和51年4月に進水した、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として昭和精機工業株式会社製造の6LA−ST型と称するディーゼル機関を装備し、操舵室から遠隔操縦装置により主機の運転操作が行えるようになっていた。
 主機は、平成元年9月に換装され、連続最大出力478キロワット同回転数毎分1,900の原機に負荷制限装置を付設していたが、いつしか同装置が取り外されて航海全速力前進の回転数を毎分1,900までとして運転されていた。そして、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、A重油が燃料油に使用されていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめに蓄えられた約60リットルの潤滑油が主機直結の潤滑油ポンプにより吸引加圧され、複式潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を通り、圧力調整弁で調圧されて入口主管に入り、同主管から各シリンダの軸受、歯車、動弁装置、カム軸、ピストン冷却用噴油ノズル及び過給機などにそれぞれ供給され、いずれも油だめに戻るようになっていた。
 ところで、主機は、トランクピストン機関で、クランク室内の潤滑油の飛沫(ひまつ)がシリンダライナ内面に付着し、ピストンとシリンダライナとの摺動(しゅうどう)面に潤滑油膜を形成して焼付きを防止するようになっていたが、ピストンリングが経年変化で摩耗すると、同油が適切にかき落とされずに燃焼室内で燃焼し、潤滑油の消費量が増加するようになるばかりか、同リングによる気密不良から燃焼ガスがクランク室に吹き抜け、同摺動面の潤滑油膜が破壊されて潤滑が阻害されるおそれがあることから、定期的にピストン抜出し整備を行って摩耗の進行したピストンリングを新替えする必要があった。
 永野丸は、千葉県外川漁港を基地とし、年間を通して専ら犬吠埼南東方沖合の海域を漁場として操業を繰り返し、1年間の主機の運転時間が4,000ないし5,000時間であった。そして、平成5年、前示主機の換装を請け負ったヤンマー東日本株式会社の補償工事で、全シリンダのピストン、シリンダライナ及びピストンリングなどが仕様変更された改良品に取り替えられた。
 A受審人は、新造時から船長として乗り組み、操船のほか機関の運転及び保守管理に当たり、主機潤滑油を3箇月ごとに新替えし、同油量が減少すれば適宜補給するようにしていたところ、平成6年ごろからそれまで自ら行っていた機関の保守作業を同人の息子B受審人に行わせるようにし、同9年2月主機全シリンダのピストン抜出し整備をヤンマー東日本株式会社に依頼して行い、ピストンリングを全数新替えさせ、クランクピン軸受など各軸受及び連接棒ボルトについては異状がなかったので再使用して復旧させた。
 永野丸は、前示ピストン抜出し整備を最後に、以後、同整備が行われず、ピストンリングが経年変化で摩耗し、主機潤滑油の消費量が次第に増加するようになった。
 B受審人は、平成12年5月ごろから主機潤滑油の補給量が増加してきたことから、ピストンリングの摩耗を疑い、A受審人にピストン抜出し整備を行うよう進言した。
 A受審人は、前示進言を受け、主機が潤滑油消費量の増加からピストンリングの新替え時期に来たことを認めたが、B受審人に潤滑油の補給や新替えを定期的に行わせていたから、急いでピストンリングを新替えしなくても大丈夫と思い、速やかに整備業者に依頼するなどして、ピストン抜出し整備を十分に行うことなく、摩耗した同リングを新替えしないまま主機の運転を続けていた。
 こうして、永野丸は、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、平成12年11月10日01時00分外川漁港を発し、05時00分漁場に至り、08時30分操業を終えて帰途に就き、主機を毎分回転数1,800にかけ、10.0ノットの対地速力で航行中、主機6番シリンダにおいて、ピストンリングの摩耗が著しく進行して燃焼ガスが多量にクランク室に吹き抜けるようになり、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油膜が破壊され、潤滑が阻害された同摺動面が焼き付き、連接棒ボルトが過大な衝撃荷重を受けて破断し、連接棒大端部がクランク軸から外れて振れ回り、10時30分外川港東防波堤灯台から真方位135度6.0海里の地点において、主機が大音を発するとともに、回転数が急激に低下した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 甲板上で入航準備作業を行っていたA受審人及び船員室で船橋当直に備えて待機していたB受審人は、機関室からの異音に気付き、同室に赴き、主機がオイルミストに包まれながら低速で運転されていたことから、直ちに主機を停止して点検したところ、前示シリンダのピストンとシリンダライナが破損し、クランク室両舷側に破口が生じて左舷側の破口部から連接棒大端部が飛び出し、破損した部品の破片が周囲に散乱していたのを認め、運転不能と判断し、救助を要請した。
 永野丸は、来援した僚船により外川漁港に引き付けられたのち、主機を精査した結果、前示損傷のほか、クランク軸にもかき傷などの損傷が生じて再使用ができないことが判明し、主機が換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機潤滑油の消費量が増加した際、主機ピストン抜出し整備が不十分で、経年変化で摩耗が進行していたピストンリングが継続して使用されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機潤滑油の消費量が増加した場合、ピストンリングが摩耗しているおそれがあったから、燃焼ガスがクランク室に吹き抜けてピストンとシリンダライナとの摺動面が潤滑阻害となって焼き付くことのないよう、速やかに整備業者に依頼するなどして、ピストン抜出し整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油の補給や新替えを定期的に行わせていたから、急いでピストンリングを新替えしなくても大丈夫と思い、ピストン抜出し整備を十分に行わなかった職務上の過失により、摩耗した同リングを新替えしないまま運転を続け、同リングの摩耗が著しく進行して燃焼ガスが多量にクランク室に吹き抜ける事態を招き、ピストン及びシリンダライナに焼付きを生じさせ、連接棒、クランク軸、クランク室などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。 





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