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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年横審第79号
件名

漁船第十祐幸丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年7月12日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第十祐幸丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
全シリンダの始動空気弁を焼損

原因
主機始動空気弁の漏洩点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機始動空気弁の漏洩点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月10日14時30分(現地標準時)
 ペルー共和国沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十祐幸丸
総トン数 312トン
全長 67.73メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分308

3 事実の経過
 第十祐幸丸(以下「祐幸丸」という。)は、昭和61年10月に進水した、いか一本釣漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社赤阪鐵工所製造のDM33FD型と称するディーゼル機関を装備し、操舵室から主機の遠隔操作ができるようになっていた。
 主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、各シリンダヘッドに始動空気弁(以下「始動弁」という。)が組み込まれ、圧縮空気によって始動されるようになっていて、A重油を燃料油に使用していた。
 主機の始動空気系統は、空気圧縮機から吐出された圧縮空気が始動空気だめに蓄えられ、同空気だめから始動空気自動遮断弁を経て始動空気主管に至り、各シリンダの始動空気入口管を通って始動弁に導かれ、一方、同主管から枝管でカム軸船尾側の始動空気管制弁に至り、制御空気として分岐し、各シリンダの始動弁頂部に導かれていた。
 始動弁は、弁棒下部の弁フェースが弁箱先端の弁座に密着し、弁棒上部には制御空気用ピストンが組み込まれ、前示制御空気が弁箱の上部蓋中央部から同ピストンに作用して弁棒を押し下げている間、弁フェースが弁座から離れて開弁されるようになっていて、弁箱が上部蓋とともに2組の植込みボルト及びナットでシリンダヘッドに取り付けられていた。そして、主機始動の際は、主機燃料ハンドルを始動位置にして始動空気自動遮断弁を開き、始動空気管制弁の作動により、着火順序に従って各シリンダの始動弁が開いてクランク軸が回転するので、同遮断弁を閉鎖して燃料運転に切り替えると、制御空気が遮断され、ばねの力で始動弁が閉まるようになっていた。
 ところで、始動弁は、弁フェースと弁座の当たり面にごみなどの異物を噛み込む(かみこむ)と、燃焼ガスが同面から漏洩(ろうえい)して始動空気入口管を経て始動空気主管に逆流し、弁棒が過熱して固着し、また、弁箱がシリンダヘッドに焼き付いて取り外せなくなるなど、同弁が焼損することがあり、主機運転中は、始動空気入口管を触手して燃焼ガスの漏洩による過熱の有無を確認するなど、始動弁の漏洩点検を十分に行う必要があった。
 祐幸丸は、例年12月に神奈川県三崎港を発し、翌1月下旬から6月にかけてアルゼンチン共和国沖合を、7月から9月にかけてペルー共和国沖合をそれぞれ漁場として操業を周年繰り返し、11月の休漁期に入渠して船体及び機関の整備を行っていた。また、操業中、パラシュート形シーアンカーを入れて主機を停止し、漁場の移動などで、1日に4ないし5回主機を1時間ばかり運転していたことから、年間の主機使用時間が約3,600時間であった。
 A受審人は、平成7年12月に一等機関士として乗り組み、同10年11月に機関長職を執るようになり、主機の運転及び保守管理に当たり、翌11年11月に臨時検査のため入渠して船体及び機関の整備を実施し、主機6番シリンダのピストン抜きを行ったが、始動弁については、問題がなかったので整備対象から外していた。
 祐幸丸は、前示検査を終えたのち、例年の操業形態と異なり、年末からペルー共和国沖合で操業することとし、11月22日に三崎港を発し、翌12月21日に同国カヤオ港に入港し、操業許可の手続きを終え、A受審人ほか邦人11人及びペルー人15人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同月23日20時45分(現地標準時、以下同じ。)カヤオ港を発し、翌々25日に漁場に至り、操業を開始した。
 A受審人は、夜間を除く時間帯を自ら単独で機関当直に当たり、2時間ごとに機関室を巡視していたが、始動弁について、それまで主機の始動操作に支障がなかったことから、同弁に漏洩などの異状はないものと思い、主機6番シリンダ始動弁が弁フェースと弁座の当たり面にごみを噛み込んで燃焼ガスが漏洩し始めていたが、燃焼ガスの漏洩を見落とすことのないよう、始動空気入口管を触手して燃焼ガスの漏洩による過熱の有無を確認するなど、同弁の漏洩点検を十分に行わなかったので、漏洩した燃焼ガスによって同入口管が過熱する状況になっていたことに気付かず、その後同始動弁からの燃焼ガスの漏洩が進行していたものの、依然同弁の漏洩点検を十分に行わずに主機の運転を続けていた。
 祐幸丸は、操業を続けるうち、始動空気主管内が前示始動弁から漏洩した燃焼ガスの逆流によって燃焼生成物などのごみの付着で汚れ、同主管を流れる始動空気とともにごみが他のシリンダの始動弁に侵入し、4及び5番各シリンダの始動弁がごみを噛み込んで燃焼ガスが漏洩し始め、両シリンダの始動空気入口管が過熱する状況になったが、A受審人が依然として始動弁の漏洩点検を十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、祐幸丸は、翌12年1月10日13時30分主機を始動し、漁場を移動中、燃焼ガスが著しく漏洩するようになった4、5及び6番各シリンダの始動弁が焼損し、同ガスが始動空気主管に多量に流れ込み、同主管が過熱していたところ、機関室を巡視していたA受審人がこのことに気付き、14時30分南緯6度00分西経81度30分の地点において、主機を停止した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、全シリンダの始動弁を点検し、焼損した前示各シリンダの始動弁を整備しようとしたものの、同弁弁箱とシリンダヘッドとが焼き付いて同弁を取り外すことができず、また、予備品としてシリンダヘッド1個、始動弁2個をそれぞれ備えていたものの、3シリンダに損傷が生じていたことから、修理に時間がかかることが予測され、洋上での主機の修理が困難と判断し、その旨を船長に報告した。
 祐幸丸は、操業を断念し、主機を応急的に運転できるように始動空気入口管の両端を厚さ5ミリメートルの鉄板で塞ぎ(ふさぎ)、燃焼ガスの始動空気主管への逆流を防止するなどの措置を施し、低速で運転して自力でカヤオ港に帰航したのち、主機を精査した結果、全シリンダの始動空気弁に焼損が生じていることが判明し、損傷部品の摺合わせ及び取替えなどの修理が行われた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理に当たる際、始動弁の漏洩点検が不十分で、同弁から燃焼ガスが漏洩したまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、始動弁が異物を噛み込んで燃焼ガスが漏洩すると、始動空気入口管が過熱し、さらには同弁が焼損することがあるから、燃焼ガスの漏洩を見落とすことのないよう、始動空気入口管を触手して燃焼ガスの漏洩による過熱の有無を確認するなど、始動弁の漏洩点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機の始動操作に支障がなかったことから、始動弁に漏洩などの異状はないものと思い、同弁の漏洩点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同弁から燃焼ガスが漏洩して始動空気入口管が過熱する状況になっていたことに気付かず、漏洩した燃焼ガスによって始動空気主管が過熱する事態を招き、同弁を焼損させるに至った。





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