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平成13年横審第88号
件名

漁船第一祐漁丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年7月5日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗、原 清澄、小須田 敏)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第一祐漁丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
左舷補機の損傷、ピストン及びシリンダライナなどの損傷

原因
発電機用原動機潤滑油の性状管理不十分

主文

 本件機関損傷は、発電機用原動機潤滑油の性状管理が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年11月18日14時00分
 マリアナ諸島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一祐漁丸
総トン数 119トン
登録長 30.08メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
回転数 毎分400

3 事実の経過
 第一祐漁丸(以下「祐漁丸」という。)は、平成2年1月に進水した、まぐろ延縄漁業に従事する鋼製漁船で、主機として阪神内燃機工業株式会社製造の6LU24G型と呼称するディーゼル機関が機関室のほぼ中央部に据え付けられ、船内電源装置として、電圧225ボルト容量250キロボルトアンペアの三相交流発電機が主機を挟んで両舷に1基ずつ装備されていた。
 発電機用原動機(以下「補機」という。)は、いずれも三菱重工業株式会社が製造したS6B−MPTA型と呼称する定格出力220キロワット同回転数毎分1,800の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、各シリンダには、右舷補機は船尾方から、左舷補機は船首方からそれぞれ順番号が付されていた。
 また、補機は、クランク軸が連接棒と連結するクランクピン部の外径が90ミリメートル(以下「ミリ」という。)で、連接棒大端部と軸受キャップとが斜め割りセレーション合わせ方式になっていて、クランクピン軸受メタルには、鋼製の裏金にアルミニウム合金を溶着し、鉛錫合金のオーバーレイを施したうえ、さらに全面を錫めっきした薄肉多層完成メタルが使用され、ねじの呼びM16ピッチ1.5ミリねじ部長さ29ミリ、全長97.5ミリのニッケルクロムモリブデン鋼製の連接棒ボルト2本で、軸受キャップが締め付けられていた。
 補機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめに蓄えられた40リットルの潤滑油が、主機直結の潤滑油ポンプにより吸引加圧され、複式潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を通り、圧力調整弁で調圧されて入口主管に至り、同管から主軸受、クランクピン軸受を経てピストンピン軸受を潤滑する系統、カム軸、動弁装置などを潤滑する系統及び過給機を潤滑する系統にそれぞれ分岐し、各部の潤滑を行ったのち、いずれも油だめに戻るようになっていた。また、複式潤滑油こし器のほかに単式潤滑油こし器を付設し、複式潤滑油こし器入口で分岐した潤滑油の一部を濾過して油だめに戻すようになっていて、両こし器とも、紙製のフィルタエレメント(以下「エレメント」という。)が内蔵されていた。
 ところで、補機の潤滑油は、長期間使用するとカーボン粒子などの燃焼生成物や摩耗した金属粉などの異物が混入して汚損するとともに、高温にさらされることなどから性状の劣化が進行し、潤滑阻害を生じて各軸受メタルの摩耗を早めるおそれがあることから、整備基準として、使用時間が250時間を超えたとき、潤滑油及び両潤滑油こし器のエレメントをそれぞれ新替えするよう取扱説明書に記載されていた。
 A受審人は、平成4年4月に機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たり、補機の運転管理について、通常は1基を単独で使用し、半月ごとに運転機を切り替え、同時に両潤滑油こし器のエレメントを新替えし、また、2年ごとに全シリンダのピストン抜きを実施していた。一方、潤滑油の性状管理については、取扱説明書に記載された前示整備基準を知っていたが、これまで取扱説明書に記載されたとおりに潤滑油の性状管理を行わなくても補機の運転に支障がなかったことから大丈夫と思い、取扱説明書に記載された適切な間隔で潤滑油を新替えするなど、同油の性状管理を十分に行うことなく、潤滑油の使用時間が1,000ないし1,400時間に達したところで同油を新替えしていたので、同油が著しく汚損して性状が劣化し、クランクピン軸受の摩耗が進行するとともに潤滑阻害を生じ、連接棒ボルトに過大な応力が作用する状況となり、同ボルトの材料に劣化が生じていた。
 祐漁丸は、平成9年9月30日北緯7度21分東経178度59分の地点で操業中、右舷補機が、潤滑油の性状の著しい劣化からクランクピン軸受及び主軸受の潤滑が阻害され、焼損する状況となったことから、左舷補機を運転して船内電源を確保し、引き続き操業を続けていたところ、同補機の運転が中断できないことから、潤滑油の新替えを行わず、運転時間が長くなるとともに、同油の性状の劣化が進み、潤滑が著しく阻害されてクランクピン軸受メタルの摩耗及び連接棒ボルトに生じていた材料の劣化がいずれも進行する状況となっていた。
 A受審人は、同年11月10日01時20分北緯12度15分東経176度24分の地点で操業を終え、外国人船員の下船と燃料油補給のため、同月18日05時55分アメリカ合衆国領グアム島アプラ港に寄港したものの、右舷補機の修理を行わなかった。
 こうして、祐漁丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、マグロ105トンを満載し、水揚げの目的で、08時00分アプラ港を発し、静岡県清水港に向け、主機を回転数毎分345にかけ、9.0ノットの対地速力で航行中、左舷補機6番シリンダのクランクピン軸受メタルの摩耗が著しく進行し、同軸受隙間が増大して連接棒ボルトに過大な衝撃荷重が繰り返し作用するようになり、同補機の運転音に変化が生じ始めた。
 A受審人は、自室で休息中、船橋当直に当たっていた甲板員から前示運転音の変化の報告を受け、機関室に急行して左舷補機の運転音に異状を認め、操舵室に赴き、船長に同機を停止する旨の報告をして再び機関室に戻ったが及ばず、祐漁丸は、14時00分北緯14度10分東経143度05分の地点において、左舷補機6番シリンダの連接棒ボルト2本が材料の劣化が進行していたところに、前示衝撃荷重が加わって破断し、連接棒大端部がクランク軸から外れて振れ回り、クランク室を突き破って大音を発するとともに同補機が自停した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、電源が喪失したことから、一旦主機を減速したものの、左舷補機の運転が不能であることを認め、主機の運転の継続が不可能と判断して機側で停止した。そして、右舷補機の始動を試みたものの、前示損傷が修理されていなかったことから、始動できないまま、電源復帰が果たせず、その旨を船長に報告した。
 祐漁丸は、救助を要請してアプラ港に引き付けられ、右舷及び左舷両補機を精査した結果、左舷補機の損傷が甚大であったことから、右舷補機の修理を行い、のち清水港に帰航し、左舷補機のクランク軸及びシリンダブロック並びに6番シリンダの連接棒、ピストン及びシリンダライナなどの損傷部品の取替えが行われた。

(原因)
 本件機関損傷は、補機の運転管理に当たる際、補機潤滑油の性状管理が不十分で、潤滑が阻害されたクランクピン軸受の摩耗が進行し、軸受隙間が増大するまま運転が続けられ、連接棒ボルトに過大な衝撃荷重が繰り返し作用したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、補機の運転管理に当たる場合、潤滑油の性状が劣化すると、潤滑が阻害されるから、軸受が異状に摩耗することのないよう、取扱説明書に記載された適切な間隔で潤滑油を新替えするなど、同油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで取扱説明書に記載されたとおりに潤滑油の性状管理を行わなくても補機の運転に支障がなかったことから大丈夫と思い、同油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、潤滑油の性状が劣化したまま補機の運転を続け、潤滑が阻害されたクランクピン軸受の摩耗が進行し、軸受隙間が増大して連接棒ボルトに過大な衝撃荷重が繰り返し作用し、材料の劣化が進行していた6番シリンダの連接棒ボルトが破断する事態を招き、連接棒大端部が振れ回ってクランク室を突き破り、クランク軸及びシリンダブロック並びに同シリンダの連接棒、ピストン及びシリンダライナなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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