(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月15日09時00分
愛媛県中浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八十五天王丸 |
総トン数 |
320トン |
全長 |
58.29メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第八十五天王丸(以下「天王丸」という。)は、まき網漁業の漁獲物運搬に従事する鋼製漁船で、船長Sほか9人が乗り組み、周年三陸沖や東海沖などで操業を繰り返し、例年4月の休漁期に入渠して船体や機関の整備を行っていた。
ところで天王丸は、休漁期の定期整備にあたっては同船所有会社が経営し愛媛県中浦漁港区域内に所在するO漁業株式会社Oドック(以下「Oドック」という。)に入渠していた。そして、入渠中の工事においては、同船所有会社が経営するO漁業株式会社宇和島鉄工所(以下「宇和島鉄工所」という。)の工場長であるA指定海難関係人を施設及び工事全体の責任者としてOドック及び宇和島鉄工所の作業員によって行われたが、工事の繁忙に応じて長崎市の有限会社T工業所及び有限会社L工業(以下、両社については「有限会社」を省略する。)から作業員の派遣を受けていた。
こうして天王丸は、平成13年4月4日愛媛県中浦漁港に帰航して水揚げを済ませ、翌5日定期検査工事のためにOドックに上架して船体及び機関の修理と整備作業を開始し、11日以降T工業所からC指定海難関係人ほか4人及びL工業からB指定海難関係人ほか2人も同作業に従事し、B指定海難関係人が現場責任者として両社からの作業員の指揮にあたった。
A指定海難関係人は、今回の入渠工事で操舵機室天井下30センチメートル(以下「センチ」という。)の同室左舷側壁外板に生じた縦30センチ横40センチ深さ4センチの凹損(以下「外板凹損」という。)の修理を依頼され、同修理には凹損箇所に火気を使用することから天井に吹き付けられた断熱材による火災発生の危険があったが、B指定海難関係人が長年Oドックに派遣されて同ドックの消火設備を熟知していたので火気使用の作業を行う際には当然同設備を配備するものと思い、同日部下やB指定海難関係人と工事の打ち合わせを行ったとき、B指定海難関係人に対して、修理開始にあたって作業現場に監視員を配置することや消火器を配備するなどの助言をしなかった。
越えて14日夕刻B指定海難関係人は、C指定海難関係人に外板凹損の修理を行わせることとして二人で操舵機室に赴いて作業現場の下見をし、このとき天井に可燃性の断熱材が吹き付けられているのを認め、これまでの経験から火災発生の危険を懸念したが、C指定海難関係人と仕事をするのが初めてで同人の知識や経験について知らないまま、断熱材を広範囲に除去するなどの具体的な作業方法、監視員の配置及び消火器の配備など防火の措置を十分に指示することなく、同修理をC指定海難関係人だけに任せることを伝えた。
C指定海難関係人は、翌15日08時00分何の防火措置もとらずに単独で外板凹損の修理作業を開始し、凹損箇所をガスバーナーで加熱し始め、その2ないし3分後バーナーの火炎が加熱部真上直近天井の断熱材に接触し、同材が着火して黒煙を生じるのを認め、装着していた皮手袋で断熱材の着火部を叩き落として消火したのち船外でクレーン操作にあたっていたB指定海難関係人に急報したが、同人から着火した断熱材を切り取るように命じられ、ほかに特別な指示を受けないまま操舵機室に戻った。
08時50分C指定海難関係人は、断熱材を船首尾方向50センチ船幅方向80センチの範囲に切り取っただけで、バーナーの火炎が拡散しても危険が及ばないほど広範囲に除去しないまま、消火器を配備しておくなど防火の措置を十分に行わずに加熱作業を再開したところ、バーナーの火炎が再び同材に接触し、09時00分愛媛県南宇和郡御荘町中浦655番地在のOドック内上架場所において同材が着火した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹いていた。
高温で赤熱化した凹損部を叩き直していたC指定海難関係人は、大量の黒煙で断熱材が再度着火したことに気付いたが、既に火炎と黒煙が操舵機室内部に充満しており消火器も配備していなかったので手の施しようがなくB指定海難関係人に火災の発生を告げた。
急を聞いたB指定海難関係人は、検査のために甲板上に並べてあった持ち運び式泡消火器で消火活動を行ったが果たせず、Oドックの工務部長に連絡して対処を依頼した。
その結果、天王丸は、来援した消防車による放水で鎮火したが操舵機室及び船尾倉庫などを焼損し、のち修理された。
(原因)
本件火災は、外板凹損部の修理工事において、ガスバーナーによる鉄板の加熱作業を開始するにあたり、可燃性の断熱材を十分に除去することなく、監視員の配置や消火器を配備するなど防火の措置が不十分で、同作業中、ガスバーナーの火炎が断熱材に接触して同材が着火したことによって発生したものである。
工事全体の責任者が、工事の打ち合わせの際、現場の責任者に対し、作業開始前に監視員の配置や消火器を配備するなど防火の措置を行うよう助言しなかったことは、本件発生の原因となる。
現場の作業責任者が、作業を開始する際、作業員に対して可燃性の断熱材を十分に除去するなどの具体的な作業方法及び監視員の配置や消火器の配備など防火の措置をとることを指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
作業員が、作業を開始する際、可燃性の断熱材を十分に除去することなく、消火器を配備するなど防火の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が、工事全体の責任者として、工事についての打ち合わせの際、現場の責任者に対して、火気を使用する作業の危険性を説明し、作業開始にあたって監視員の配置や消火器を配備するなど防火の措置を助言しなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、A指定海難関係人に対しては、Oドックに十分な消火設備を整えていたこと、現場の責任者が防火の措置の必要性及び消火設備について熟知していたことなどに徴し、勧告しない。
B指定海難関係人が、現場の責任者として、作業を開始するに際し、作業員に対して可燃性の断熱材を十分に除去するなどの具体的な作業方法及び監視員の配置や消火器を配備するなど防火の措置を指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、B指定海難関係人に対しては、本件の重大さを認めて反省し、今後安全作業の確保に万全を期する旨を表明していることに徴し、勧告するまでもない。
C指定海難関係人が、作業員として作業を開始するに際し、可燃性の断熱材を十分に除去することなく、消火器を配備するなどの防火の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、C指定海難関係人に対しては、本件の重大さを認めて反省し、今後安全作業について十分配慮する旨を表明していることに徴し、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。