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平成13年門審第83号
件名

貨物船豊後丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成14年7月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、上野延之、橋本 學)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:豊後丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B 職名:豊後丸機関員

損害
機関室及び居住区の一部を焼損、航行不能

原因
補機(燃料油清浄機)の取扱不適切

主文

 本件火災は、燃料油清浄機の取扱いが不適切で、同機から流出した燃料油が主機排気集合管に降りかかって発火したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。


理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月19日06時20分
 日向灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船豊後丸
総トン数 506トン
登録長 56.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 豊後丸は、船尾船橋型の鋼製セメント運搬船で、船尾部に機関室を配置し、同室にハロン消化装置を備えていた。
 機関室は、下段中央に主機が据え付けられ、上段の中央右舷寄りに燃料油清浄機、燃料油セットリングタンク、同サービスタンクなどが設置されており、主機上部の上段床板にはエキスパンドメタルが用いられていた。
 主機は、燃料油として、スタンバイ中及び荷役中はA重油が、航海中はC重油が燃料油清浄機で処理されて使用され、燃料消費量が最大で1時間あたり約240リットル、通常航海中同約170リットルであった。
 主機の排気集合管は、同機上部の右舷側に付属し、防熱材が巻かれたうえで鋼製カバーが施されていたが、シリンダヘッドとの間に隙間があって、上段から多量の燃料油が同隙間に降りかかると発火するおそれがあった。
 燃料油清浄機は、三菱化工機株式会社製のSJ2000型と称する、処理能力が最大毎時2,400リットル、スラッジ排出が手動式のもので、異状流出警報及びスラッジタンク高位警報は付設されておらず、原液(C重油)入口管、軽液(清浄後のC重油)出口管及び重液(水)出口管にはサイトグラスが、スラッジ排出管には蓋付きの覗き窓が付設されていてそれぞれの流れ模様が視認でき、スラッジ排出管は覗き窓下部で重液出口管と合流したうえ下部の、据付け台を兼ねるスラッジタンク内に開放され、排出された水やスラッジが同タンクにためられるようになっていた。
 スラッジタンクは、容量320リットルで、上面に長さ150ミリメートル幅200ミリメートルの開口があり、同開口にスラッジ排出管が挿入されており、その隙間からタンク内のスラッジ量を目視確認できるようになっていて、豊後丸では、燃料油清浄機運転中スラッジ排出を2時間ごとに実施し、スラッジタンクに半分ほどたまると手動ポンプでくみ出してドラム缶に移し、入渠時に陸揚げ処分していた。
 燃料油清浄機のスラッジ排出は、まず、C重油供給弁を閉め、ホッパー一杯分の清水約2リットルを入れて回転体内部のC重油を清水と置換し、高圧作動水弁を開けると、弁シリンダが押し下げられてスラッジ排出間隙が生じ、回転体内部のスラッジ、清水及び置換されずに残ったC重油の合計約4.4リットルが排出され、同排出が終了すると高圧作動水弁を閉の位置に戻し、高圧作動水が抜けて作動水タンクの水頭圧で弁シリンダが押し上げられてスラッジ排出間隙が閉じるのを待ち、ホッパー一杯分の清水を封水として回転体内部に入れ、最後にC重油供給弁を開けて運転状態に復するという要領で行われる。
 ところで、スラッジ排出の際、弁シリンダが上下に移動することで回転体ゴムリングの水密不良が生じることがあり、低圧作動水が漏れて弁シリンダが開き、C重油が異状流出するおそれがあり、また、封水を入れないままC重油を供給するなどの誤操作でも異状流出が生じるので異状流出警報及びスラッジタンク高位警報が設置されていないものでは、スラッジ排出後定常運転となるまで異状流出がないことを確認することが特に重要であった。
 A受審人は、平成12年7月機関長として乗船し、機関当直を機関長、一等機関士及び機関員で4時間の輪番制とし、各人に対して2時間ごとに燃料油清浄機のスラッジ排出を実施するよう指示しており、同年8月18日大分県津久見港においてB指定海難関係人が乗船し、16時15分港内シフトの際、同人に対してスラッジ排出などの操作方法を停止中の燃料油清浄機の機側で説明したが、同人は約3年前にも豊後丸に機関員として乗船しており、他船でも各種の清浄機を取り扱っているので一度説明すれば十分と思い、実際に運転して操作させず、また、スラッジ排出後運転状況を確認するよう指示しなかった。
 豊後丸は、A受審人、B指定海難関係人ほか4人が乗り組み、セメント1,000トンを積み、船首3.75メートル船尾4.40メートルの喫水で、同日20時10分津久見港を発し、燃料油清浄機を始動したのち燃料油をC重油に切り替え、鹿児島県志布志港に向かった。
 同日23時45分A受審人は、機関当直に入り、翌19日03時45分機関当直引継ぎ前に燃料油清浄機のスラッジを排出してスラッジタンクが約半分空いていることを確認し、B指定海難関係人に機関当直を引き継いで自室で休息した。
 05時45分B指定海難関係人は、今回乗船後初めてのスラッジ排出を実施した際、封水を入れ忘れたままC重油を供給したので、C重油は重液出口から異状流出する状態であったが、運転状況を確認せずに06時15分機関室を離れ、厨房にて朝食の準備にかかった。
 こうして、豊後丸は、主機を全速力前進として日向灘を航行中、重液出口から流出し続けるC重油がスラッジタンクから溢れ、主機排気管に降りかかり、やがて気化した同油が発火して燃え広がり、同日06時20分鞍埼灯台から真方位046度3.4海里の地点において、火災警報装置が作動した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 豊後丸は、乗組員全員が消火器などで消火を試みるうち火勢が強くなったので機関室を密閉してハロンを放出し、09時55分鎮火した。
 火災の結果、豊後丸は、機関室及び居住区の一部を焼損して航行不能となり、津久見港に引き付けられて揚荷した後愛媛県越智郡の造船所にえい航され、異状流出警報及びスラッジタンク高位警報を新設のうえ修理された。

(原因)
 本件火災は、燃料油清浄機のスラッジ排出操作にあたり、封水を入れるのを忘れたまま燃料油を供給し、運転状況を確認せずに機関室を離れるなど、同機の取扱いが不適切で、同機から流出した燃料油がスラッジタンクから溢れ、主機排気集合管に降りかかって発火したことによって発生したものである。
 燃料油清浄機の取扱いが不適切であったのは、機関長が機関員に対して操作方法を十分に指導しなかったことと、機関員が封水を入れ忘れたまま燃料油を供給し、運転状況を確認せずに機関室を離れたこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人が、新乗船の機関員を単独で機関当直にあたらせて燃料油清浄機のスラッジ排出を行なわさせる場合、操作方法を口頭で説明するだけではなく実際に操作させて誤操作を防ぐとともに、運転状況を確認してから機関室を離れるよう指示するなど、十分に指導すべき注意義務があった。ところが、同人は、機関員は清浄機の取扱いを熟知しているものと思い、十分に指導しなかった職務上の過失により、機関室及び居住区の一部を焼損する火災を生じさせ、運航不能を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、燃料油清浄機のスラッジ排出を実施した際、封水を入れ忘れたまま燃料油を供給し、運転状況を確認せずに機関室を離れたことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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