日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年門審第6号
件名

漁船大福丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成14年8月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、千手末年、河本和夫)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:大福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
沈没、のち廃船

原因
気象・海象に対する配慮不十分

主文

 本件転覆は、三角波の危険性に対する配慮が不十分で、操業を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月26日13時00分
 関門港西山区

2 船舶の要目
船種船名 漁船大福丸
総トン数 1.18トン
登録長 6.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 18

3 事実の経過
 大福丸は、底刺し網漁に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年12月26日12時10分山口県下関漁港南風泊地区を発し、北西の強風の下、関門港西山区荒田防波堤北西側に面する漁場へ向かった。
 ところで、荒田防波堤は、彦島の兜山岬と西山埠頭貯木場の中程にあり、関門海峡フェリー発着桟橋を取り囲むようにして南南西方へ約180メートル突出した防波堤で、その北西側に面する海域は、北西の強風が連吹する状況下においては、同防波堤に打ち当たって跳ね返る波や関門海峡の潮流などに起因して、不規則な三角波が発生する危険な海域であった。
 12時55分ごろA受審人は、前示漁場に到着したところ、当該海域には、既に不規則な三角波が発生していたので、操業を行うか否か、やや躊躇(ちゅうちょ)したものの、三角波の危険性に対する配慮が十分でなかったことから、なんとか操業できるものと思い、操業を中止することなく、同時57分下関荒田防波堤灯台から022度(真方位、以下同じ。)の地点で、機関を後進に掛け、船首から投網を開始した。
 こうして、A受審人は、西山埠頭の貯木場ドルフィンバース南端へ向けて極微速力で後進しながら投網中、12時59分少し過ぎ下関荒田防波堤灯台から356度200メートルの地点まで移動したとき、左舷後方から高起した三角波を受けて甲板上に大量の海水が浸入し、船体が大きく右傾して転覆の危険がある状況となったので、なんとか荒田防波堤付け根付近の陸岸まで逃れようとして、急いで機関を前進に掛けたが、30メートルばかり前方へ移動したとき、引き続いて浸入した海水によって復元力を喪失し、13時00分下関荒田防波堤灯台から003度200メートルの地点において、大福丸は、船首を045度に向けて右舷側へ転覆した。
 当時、天候は雪で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 転覆の結果、大福丸は、沈没したが引き上げられ、のち廃船処分とされた。

(原因)
 本件転覆は、関門港西山区の漁場において操業を行う際、三角波の危険性に対する配慮が不十分で、操業を中止しなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、関門港西山区荒田防波堤北西側の漁場において操業を行う際、不規則な三角波が発生しているのを認めた場合、速やかに操業を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、三角波の危険性に対する配慮が不十分で、操業を中止しなかった職務上の過失により、投網中に左舷後方から高起した三角波を受け、甲板上に浸入した大量の海水によって復元力を喪失して転覆を招き、自船を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION