(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月16日16時35分
鳥取県鳥取港
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第八龍神丸 |
貨物船トーシン |
総トン数 |
18トン |
16,788トン |
全長 |
18.20メートル |
181.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
558キロワット |
6,841キロワット |
3 事実の経過
第八龍神丸(以下「龍神丸」という。)は、鳥取港を基地とする1基1軸固定ピッチプロペラの鋼製引船で、同港1号岸壁に接岸する貨物船トーシン(以下「ト号」という。)の接岸援助作業を行う目的で、A受審人ほか4人が乗り組み、B指定海難関係人と中国人通訳とを同乗させて、船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成13年5月16日14時45分同港1号岸壁を発し、同港沖合に向かった。
これより前、同日の午前中、A受審人は、代理店の事務所でのト号の入出港作業についての打ち合わせ会議に出席し、龍神丸、第三やまこう丸、ヤマケン丸の3隻の引船が接岸援助作業を行うこと、ト号の船主から船長補助者として手配されたB指定海難関係人と中国人通訳が沖合で同船に乗り込み、同指定海難関係人が船長の指示を代理店の手配したトランシーバーを使用して各引船の船長に連絡することなどを確認した。
また、ト号は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型鋼製貨物船で、中国人船長Uほか19人が乗り組み、川砂14,200トンを載せ、同月12日14時00分(現地時間)中華人民共和国馬尾港を発し、境港を経由したのち、鳥取港1号岸壁で揚げ荷をする目的で、船首8.90メートル船尾8.75メートルの喫水をもって、同月16日15時24分同港東方2海里の地点で、龍神丸からB指定海難関係人ほか1人を移乗し、同船に先導されて6.0ノットの速力で入航中、15時40分鳥取港第2防波堤灯台から359度(真方位、以下同じ。)120メートルの地点で、船首が247度を向いてその船首部が座州した。
U船長は、15時45分翼角を0度としたのち、同時46分機関を微速力後進にかけて引船に左舷船首部を押すように指示し、同時50分全速力後進をかけたものの離州しないので、16時ごろ引船に船尾側にまわり曵索をとるよう命じ、同時10分翼角を0度とし、乗組員に曵索を正船尾から1本、船尾左右舷からそれぞれ1本出すよう指示した。
B指定海難関係人は、引船に対する前示の指示をトランシーバーで連絡中、トランシーバーが不調となっていたが、アンサーバックさせていなかったのでこれに気付かず、船長に進言して乗組員を要所に配し引船との連絡にあたらせるなどの措置をとることができないまま、引船との連絡が十分に行われない状況のもと、船長補佐業務を続けた。
一方、A受審人は、座州したト号の船首方で停止してその指示を待っていたところ、15時50分ごろト号の左舷船首部を第三やまこう丸が押し始めたのを見て、同船の右舷側に移動して並んで押しているとき、トランシーバーのテストを行ってト号との連絡ができなくなっていることを知った。
16時00分A受審人は、ト号が船尾方にまわるよう合図していると乗組員から聞いてその船尾方に移動したところ、ヤマケン丸がト号の右舷船尾から出された曳索をとって引き始めていることや、第三やまこう丸が正船尾から出された曳索をとっているのを見て、左舷船尾から下ろされた直径70ミリメートルの合成繊維の曵索を受け取り、ストッパーにロックピンを差し込んで少し上向きに固定された曳航用フックに曵索のロープアイをかけたのち、40メートルほど延出された曵索で、ト号の船尾を斜め後方に向かって引き始めた。
U船長は、船尾配置員から3隻の引船がそれぞれ後方に向かって引き始めたとの報告を受け、16時25分機関を全速力後進にかけ、同時31分離州して船首方位を247度に保ったまま後進ゆきあしが増したが、船尾配置員に引船の状態を報告させるなどして作業状況の監視を十分に行わなかったので、その後行きあしが増して龍神丸が横引きされていることに気付くことなく、またトランシーバーの不調で同船から横引きされているとの連絡も受けることができないまま、16時34分6.0ノットの後進行きあしとなったとき、翼角0度としてタグレッコを命じた。
そして、B指定海難関係人は、タグレッコの指示をトランシーバーで連絡して左舷後方を見たところ、龍神丸の曵索が張ったまま解纜(かいらん)されていないのを認め、再度トランシーバーで指示を伝えようとしたとき、その電源ランプが消え通話不能となっているのに気付いた。
これより少し前、A受審人は、曵索の張りによって船体が左右に振れ回るのを操舵で修正しながら引き続けていたところ、16時31分ト号が離州し、後進行きあしがついて横引きされるおそれが生じたが、曳索の方向やト号の動きを船尾配置員に報告させるなどして、作業状況の監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま引き続けているうち、船体が左方に傾き舵が効かなくなり横引きされていることを知ったものの、トランシーバーの不調で自船の状況をト号に連絡することができない状況下、船尾配置員に曵索の解纜を命じたが、ロックピンは外れてフックは上下方向に自由に動くようになったものの、曵索が緊張したままで解纜することができず、後進をかけて曵索を緩ませようと試みたものの、曵索が緊張したまま船体が右舷方に振られて船尾がト号の船橋下の外板に密着した態勢となったとき、左舷側の傾きが増しブルワークを越えて海水が流入し、16時35分鳥取港第2防波堤灯台から049度310メートルの地点で、龍神丸は、船首を157度に向け、曵索が左舷船尾73度の方向となって、左舷側に大きく傾いて復元力を喪失し転覆した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮侯は上げ潮の初期であった。
第三やまこう丸船長は、龍神丸が横引きされているのに気付き、自らの判断で機関回転数を落として曵索を緩め解纜したのち、龍神丸の救出にあたった。
転覆の結果、龍神丸の機関その他設備に濡れ損を生じたが、その後修理された。
(原因)
本件転覆は、鳥取県鳥取港において、船首部を座州したト号が、龍神丸ほか2隻の引船を船尾に配し機関を併用して離州する際、引船との連絡及び作業状況の監視が不十分で、離州したのち龍神丸が横引き状態になったまま後進し続けたことによって発生したが、龍神丸が、曵索の方向やト号の動きなどの離州援助作業状況の監視不十分で、横引きされたことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、鳥取港において、座州したト号の船尾から出された曳索を後方に引いて離州援助作業を行う場合、ト号が離州して後進行きあしが増すと横引きされる可能性があったから、自船の船尾配置員に曳索の方向やト号の動きを報告させるなどして、作業状況の監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、曳索の張りによる船体の振れ回りを操舵によって立て直すことに気を取られ、自船の船尾配置員に曳索の方向やト号の動きを報告させるなどして、作業状況の監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ト号が後進して曵索の方向が左舷方に移動していることに気付かず、ト号に横引きされて転覆を招き、機関などに濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、ト号の船長補助者として引船との連絡にあたる際、引船にアンサーバックさせるなどして、連絡を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。