(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月9日12時00分
徳島県徳島小松島港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート共同号 |
全長 |
6.93メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
29キロワット |
3 事実の経過
共同号は、船外機付の和船型FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、サーファー1人を含む知人2人を乗せ、同サーファーを搬送する目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成13年9月9日11時30分徳島県勝浦川河口から約1.5海里上流の係留地を発し、河口水域に向かった。
ところで、勝浦川は、徳島県中央部を東方に流れて紀伊水道に面した同県徳島小松島港に注ぎ、川幅が河口で約500メートル、河口から1,000メートルほど上流の津田木材団地付近で約250メートルであった。また、河口付近の水深は、右岸に上流からの砂が堆積して中央付近まで浅くなり、左岸のコンクリート製護岸の近くでは急に深くなっていた。このため、河口水域は、東方からうねりが打ち寄せると、中央付近から右岸寄りの水域に高起した磯波が発生しやすく、サーファーが集まる場所となっていた。
A受審人は、これまでに何回も勝浦川河口水域に赴いたことがあったので、同水域での磯波の発生状況を承知していた。
A受審人は、河口水域に差し掛かったころ、河口にうねりが打ち寄せていたので、あまり波が立っていない左岸沿いの川筋を下航し、11時40分徳島津田外防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)から275度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点で、機関を中立にして停留し、同乗中のサーファーを下船させた。
A受審人は、多数のサーファーが河口水域中央付近で波乗りに興じているのを停留したまましばらく見物したのち、帰航することとしたが、高起した磯波が同水域中央付近に発生しているのを認めたのに、横波さえ受けなければ大丈夫と思い、磯波の危険性に対する配慮を十分に行わず、同水域中央付近への進出を取り止めることなく、11時57分サーファーの多い水域近くを回って帰航するつもりで前示停留地点を発進した。
こうして、A受審人は、同乗者を船首部に座らせ、船外機を操作して低速力で河口水域中央付近に進出し、11時59分南灯台から264.5度700メートルの地点で、針路を275度に定め、3.2ノットの対地速力で、追い波を受けながら進行中、12時00分南灯台から266度800メートルの地点において、共同号は、船尾が高起した波に持ち上げられ、船首が波の谷に入り込み、前方に大傾斜して転覆した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。また、和歌山県潮岬南東方約400海里の海上には、中心気圧950ヘクトパスカルの台風15号が北上中で、勝浦川の河口水域中央付近には東方からのうねりにより波高約5メートルの磯波が発生していた。
転覆の結果、A受審人及び同乗者は海中に投げ出されたが、自力で左岸の護岸に泳ぎ着いた。また、船体は、船底を上にしたまま付近川岸に漂着し、機関に濡れ損を生じたが、のち換装された。
(原因)
本件転覆は、徳島県徳島小松島港の勝浦川河口水域において、帰航する際、磯波の危険性に対する配慮が不十分で、波高が高まった同水域中央付近への進出を取り止めることなく進行して船尾から高起した磯波を受け、前方に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、徳島県徳島小松島港の勝浦川河口水域において、帰航する場合、同水域中央付近に高起した磯波が発生しているのを認めたのであるから、同水域中央付近への進出を取り止めることができるよう、磯波の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、横波さえ受けなければ大丈夫と思い、磯波の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、河口水域中央付近に進出し、船尾から高起した磯波を受けて転覆を招き、機関に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。