(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月25日17時50分
新潟県直江津港港内
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三導丸 |
付属伝馬船第三導丸 |
総トン数 |
498トン |
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全長 |
66.93メートル |
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登録長 |
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6.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
17キロワット |
3 事実の経過
第三導丸(以下「導丸」という。)は、船尾船橋型鋼製砂利採取運搬船で、A、B両受審人ほか2人が乗り組み、石材900立方メートルを積載し、船首3.4メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成13年6月25日08時00分新潟県柏崎港を発し、同県直江津港に向かった。
また、付属伝馬船第三導丸(以下「伝馬船」という。)は、航行区域を限定沿海区域とするFRP製交通船兼作業船で、導丸に搭載され、人や物の搬送、係留索取り放し作業、その他雑作業に利用されていた。
当時、直江津港では、西防波堤の沖側で沖防波堤築造工事が実施されており、導丸は、同基礎工事の捨石投入作業に従事していた。
A受審人は、09時50分直江津港に入港して待機したのち、12時10分直江津港西防波堤灯台から032度(真方位、以下同じ。)1,060メートルの地点において、船首を130度に向け、通常と同じように伝馬船に綱取り作業を行わせ、船首尾両舷から工事用係留ブイに300メートルの係留索をとり、各係留索を200メートル延出して繋止し、捨石投入作業を開始した。
導丸は、午後から次第に南西の風が強くなる状況下で捨石投入作業を続け、16時30分船首1.25メートル船尾3.15メートルの喫水となったとき全量を投入して作業を終え、A受審人指揮のもと解纜(らん)準備作業にかかったが、このとき風力は5に達していた。
解纜作業は、係留ブイの長さ5メートルのブイロープと本船係留索を繋止しているシャックルを外す作業で、導丸が緩めた係留索を伝馬船が船尾左舷のビットに1巻きし、この部分を滑らせながら係留索に沿ってシャックル部分まで進行してシャックルを取り込み、これを外すものであった。この作業中、急激に係留索が緊張すると伝馬船が横引きされるおそれがあり、作業指揮者は、このことに十分注意する必要があった。
A受審人は、係留索取り放し作業に従事させるため、いつものようにB受審人を船長として他1人と伝馬船に乗り組ませ、機関長を本船係留ウィンチの操作に当たらせ、自らは船橋で操船と解纜の総指揮を執り、17時20分風下側左舷船首尾の係留索を取り外した。
17時40分A受審人は、風上側右舷船尾の係留索の取り放しにかかるため、右舷船首の係留索を徐々に延ばさせて船首を風下に落とし、260メートルほど延ばしたとき船尾がほぼ270度を向き、船尾係留ブイの方を向いたので機関を1分間程半速力後進にかけて後退し、係留ブイに近づきながら同係留索を緩ませにかかった。
17時49分B受審人は、係留索が緩んだので伝馬船を操船して係留ブイから約20メートル、シャックルから15メートルほどの部分に接近し、係留索を左舷船尾のビットに1巻きして機関を全速力前進にかけ、係留索に沿ってほぼ270度方向の係留ブイの方に進行した。
A受審人は、伝馬船が前進するころ、導丸の船尾が風下側に圧流され、右舷船尾係留索が張ってきたが、B受審人は綱取り放し作業に慣れていて問題ないと思い、係留索の緊張状況を十分に確認していなかったので、この状況に気付かず、機関を使用して圧流を防ぐとか、導丸のウィンチで係留索を延ばすとかの措置をとらなかった。
導丸は圧流を続け、17時50分わずか前伝馬船は、船尾を右舷方に横引きされるとともに波頂に乗ったため過度の下向きの張力を受け、17時50分直江津港西防波堤灯台から022度1,000メートルの地点において、急激に左転しながら左舷側に転覆した。
当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、付近には波高約1メートルの波があった。
転覆の結果、伝馬船は機関等の濡損、プロペラ軸の曲損、舵板の脱落などの損傷を生じ、のち廃船とされ、B受審人他1人が海中に投げ出されたが、直ぐ救助された。
(原因)
本件転覆は、新潟県直江津港において、導丸が、ブイ係留中、強風下で係留索取り放し作業を付属伝馬船に行わせる際、係留索の緊張状況の確認が不十分で、伝馬船を横引きしたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、直江津港において、ブイ係留中、強風下で係留索取り放し作業を付属伝馬船に行わせる場合、伝馬船がとった係留索に過度の張力を与えないよう、係留索の緊張状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、伝馬船船長は同作業に慣れているので問題ないと思い、係留索の緊張状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、伝馬船を横引きして転覆を招き、濡損等を生じさせるに至った。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。