(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月14日14時30分
塩釜港内
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第七瑞寶 |
全長 |
7.60メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
33キロワット |
回転数 |
毎分3,000 |
3 事実の経過
第七瑞寶(以下「瑞寶」という。)は、船内外機を備えたFRP製の和船型プレジャーボートで、全通の甲板を有し、同甲板下には船首側から順に、錨庫、空所、燃料タンクとバッテリーの格納庫及び機関室が配置されていた。
機関室は、長さ2.0メートル幅1.7メートル高さ0.4メートルで、同室前寄りの上部に長さ1.1メートル幅0.8メートル高さ0.3メートルの機関室囲いが設置され、同囲いの上に機関操縦ハンドル、舵輪等を備えた操縦スタンドが取り付けられ、同スタンドの上方にオーニングが張られていた。
主機は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した4JM−TZ型と称するディーゼル機関で、主機の排気管は、長さ1,055ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径88.2ミリ肉厚6ミリのゴム製のもので、過給機から高低差150ミリの下り勾配で船尾外板左舷寄りの排気口に導かれており、排気口の下縁が水線上20ミリに位置していた。
A受審人は、平成12年5月瑞寶を中古で宮城県塩釜市所在のボート販売業者から購入し、同年11月と翌13年4月の2回運航したところ、主機の回転が上がらず、排気色も黒くて船速が出ない状況であったことから、同販売業者に修理を依頼して燃料弁の整備を行い、7月20日に運航を再開したものの、一向に状況が改善されず、再度同販売業者に持ち込み、不調の原因が過給機によるものではないかと申し出るとともに、瑞寶を売却したい旨を告げて買い手の斡旋を依頼した。
7月下旬A受審人は、思い直してボート販売業者に瑞寶を引き取る旨を告げたところ、すでに過給機を取り外して陸揚げ整備中で主機の運転ができないとの説明を受け、取りあえず瑞寶を引き取ることとして、同月末船外機を使用して塩釜市牛生町の係留地に回航した。
ところで、主機の排気管は、過給機を取り外したのち、過給機側接続部が開口したまま垂れ下がっている状態となり、排気口が船体動揺や波などで海中に没すると、海水が開口部から機関室に浸入するおそれがあったものの、回航中船体動揺などの影響が少なかったので、海水の浸入がなかった。
その後も瑞寶は、係留地点が波のほとんどない狭い水路のため排気口からの浸水がない状況でいたところ、翌8月中ごろになってA受審人は、かねて孫と約束していた魚釣りを瑞寶で行くことを思い立ち、過給機が取り外されたままであったが、運航しても大事に至ることはあるまいと思い、過給機の修理が完了するまで運航を見合わせることなく、船外機を使用して出かけることとした。
こうして、瑞寶は、A受審人が1人で乗り組み、孫1人を乗せ、2人とも救命胴衣を着用し、はぜ釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、8月14日09時50分係留地を発し、10時00分塩釜港貞山堀航路第3灯浮標の北東160メートルの地点に至り、投錨して釣りを始めたところ、付近を高速で航行する船舶の航走波を受けて船体が動揺し、水線下となった排気口から海水が排気管の開口部を経由して機関室に浸入し始めた。
12時30分A受審人は、はぜを40匹ばかり釣ったところで釣り場を約10メートル南方に移動し、投錨して北西に向首しながら孫とともに左舷で釣りを続けている間、なおも海水の浸入が続き船尾部が沈下し始めていたものの、これに気付かなかった。
14時20分A受審人は、帰途に就くため船首に赴いて揚錨し、同時25分左舷船尾に戻ったとき、海水が左舷船尾寄りの放水口及び機関室囲いの設置箇所から甲板上に流れ出ているのを認め、初めて浸水に気付いて急ぎ船外機を始動したものの、急激に船尾が沈下して左舷側に大傾斜したので危険を感じ、孫を抱きかかえて海に飛び込んで間もなく、瑞寶は、14時30分地蔵島灯台から真方位243度2,680メートルの地点において、左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
転覆の結果、A受審人と孫は間もなく付近の釣り船に救助され、瑞寶は船尾側3分の2が水没して主機等が濡損し、のち引き上げられて上架された。
(原因)
本件転覆は、主機の過給機が修理のため取り外され、船尾水線付近に排気口を有する排気管が過給機との接続部で開口し、排気口から浸水のおそれのある状況下、過給機の修理が完了するまで運航を見合わせる措置がとられず、船外機を使用して釣り場に出かけ、錨泊しながら魚釣り中、他船の航走波を受けて船体が動揺し、海水が排気口から機関室に浸入して船体が大傾斜したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の過給機が修理のため取り外され、船尾水線付近に排気口を有する排気管が過給機との接続部で開口しているのを知っている場合、船体が波などの影響を受けると、海水が排気口から機関室に浸入するおそれがあったから、過給機の修理が完了するまで運航を見合わせるべき注意義務があった。ところが、同人は、運航しても大事に至ることはあるまいと思い、過給機の修理が完了するまで運航を見合わせなかった職務上の過失により、船外機を使用して釣り場に出かけ、錨泊しながら魚釣り中、海水が排気口から機関室に浸入し、大傾斜して転覆を招き、主機等を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。