(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月15日12時30分
鹿児島県志布志湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船せいほう10 |
漁船せいほう12 |
総トン数 |
4.8トン |
4.8トン |
登録長 |
11.10メートル |
11.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
50 |
3 事実の経過
せいほう10(以下「10号」という。)及びせいほう12(以下「12号」という。)は、二そう機船船ひき網漁業に従事するFRP製漁船で、操業の指揮、魚群探索及び漁獲物の運搬をするFRP製漁船第二正鵬丸(総トン数4.8トン)(以下「正鵬丸」という。)と船団を組み、10号にA受審人、12号にB受審人及び正鵬丸にC受審人がそれぞれ船長として単独で乗り組み、操業の目的で、10号は船首0.4メートル船尾1.5メートル及び12号は船首0.4メートル船尾1.4メートルそれぞれの喫水をもって、平成12年3月15日07時00分鹿児島県肝属郡東串良町柏原船だまり(以下「船だまり」という。)を発し、同町及び同県曽於(そお)郡大崎町1.0海里沖合付近海域の鹿児島県知事より許可された機船船ひき網操業区域の漁場に向かい、同時30分漁場に至って操業を開始した。
ところで、K水産有限会社の二そう機船船ひき網漁業の漁網は、袖網75メートル及び袋網39メートルで構成されており、右袖網を10号及び左袖網を12号がそれぞれ曳いて操業を行い、操業後漁網を揚収する前に10号及び12号が接舷して袋網の袋尻ロープを解いて30分間漁網を曳航(えいこう)
して洗ったのち、曳綱(ひきずな)及び袖網後端までをネットローラに巻き込み、A及びB両受審人が袋網を各々手で引き揚げ、12号の後部甲板上に積むこととしていた。
11時45分C受審人は、操業を終え、A及びB両受審人に漁網洗いを任せるに当たって作業を十分に気を付けて行うよう注意し、船団を離れて船だまりに向かった。
12時05分A及びB両受審人は、志布志石油備蓄基地シーバース灯(以下「シーバース灯」という。)から351度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で、両船を接舷状態としてそれぞれのネットローラを使用して曳綱を巻き揚げ、針路を船だまりに向かう217度に定め、機関を微速力前進に掛け、2.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、漁網洗いをしながら進行した。
12時23分A及びB両受審人は、シーバース灯から333度2.0海里の地点に達したとき、南東風が強まって両船の船首が風下の北西方に落とされ、保針できなくなったので、漁網洗いを中止して漁網を揚収することとし、両船とも機関を中立としてそれぞれネットローラで漁網の巻揚げを始めたところ、両船の船体が2.1ノットの速力で313度方向に流され始めた。
12時29分少し過ぎA受審人は、強い南東風に船体が流され、巻揚げ中の漁網が船尾方に張ってネットローラに負荷がかかり、袖網の巻きしろをわずかに残して巻揚げができなくなり、漁網の浮子側の網が海面より上に張り、沈子側の網(以下「下網」という。)が海中にあり、機関を後進に掛けてこのまま巻き揚げると、下網をプロペラに絡ませる(からませる)おそれがあったが、少しだけなら機関を後進に掛けてもプロペラに漁網を絡ませることはないと思い、漁網の状態の確認を十分に行うことなく、機関を微速力後進に掛けて後進中、12時30分シーバース灯から331度2.2海里の地点において、10号は、そのプロペラに漁網の下網を絡ませて航行不能に陥った。
当時、天候は晴で風力6の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、波高は2メートルであった。
B受審人は、ネットローラで漁網の巻揚げができなくなってから機関を中立にして下網を手繰り寄せて甲板上に引揚げ中、本件発生を知り、12時34分少し過ぎ10号の右舷錨を投入し、会社と連絡をとって曳船の来援を待った。
14時03分A受審人は、曳船が来援したとき、曳綱を受け取る前に揚錨し、船体が再び圧流され、同時10分大崎町海岸付近の浅所に乗り揚げた。
その結果、船ひき網漁具が損傷したほか、10号は左舷船尾外板に亀裂を生じ、12号は船首部右舷外板に亀裂(きれつ)、機関室囲壁のハンドレールに曲損及び船尾ブルワークに亀裂を生じた。
(主張に対する判断)
本件は、志布志湾において、二そう機船船ひき網漁業に従事する10号が機関を後進に掛け、漁網をプロペラに絡ませて10号と12号が航行不能に陥り錨泊したが、曳船が接近した際、曳綱を取らないうちに揚錨して風下に圧流され、大崎町海岸付近の浅所に乗り揚げたもので、正鵬丸の船長が気象情報を入手していなかったことと、錨泊したとき12号の船長が10号から12号を切り離さなかったこととが原因となると主張するので、これらにつき検討する。
正鵬丸の船長が気象情報を入手していなかったことについては、C受審人に対する質問調書中、「志布志湾内で沿岸近くを操業するので、直ぐに帰港できる。また、天候の悪いときには早めに帰港したり、出漁を中止していた。当日の出港時は、晴で風もなかった。漁を行っている間もいい天候であり、今回のように天候が急変することは今までなかった。」旨の供述記載があり、また、鹿児島地方気象台の気象資料中記載の11時35分強風波浪注意報の発表により、原因とするのは相当でない。
また、錨泊したとき12号の船長が、10号から12号を切り離さなかったことについては、10号と12号が接舷して錨泊していたが圧流されておらず、曳船が来援して曳航されようとしたとき、10号が曳綱を取らないで揚錨したことから再度圧流して乗揚を発生させたもので、10号から12号を切り離さなかったことを原因とするのは相当でない。
(原因)
本件遭難は、志布志湾において、二そう機船船ひき網漁業に従事する10号が、操業を終えて漁網洗い中、風が強く吹くようになって漁網を揚収する際、漁網の状態の確認が不十分で、機関を後進に掛け、プロペラに漁網を絡ませて航行不能に陥ったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、志布志湾において、操業を終えて漁網洗い中、風が強く吹くようになって漁網を揚収する場合、機関を後進に掛けてプロペラに漁網を絡ませないよう、揚収中、漁網の状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、少しだけなら機関を後進に掛けてもプロペラに漁網を絡ませることはないと思い、漁網の状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、プロペラに漁網を絡ませて航行不能を招き、その後大崎町海岸付近の浅所に乗り揚げ、船ひき網漁具に損傷、10号の左舷船尾外板に亀裂及び12号の右舷船首外板に亀裂などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。