(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月29日19時00分
山口県海士ケ瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートアンティー・アン |
総トン数 |
8.5トン |
全長 |
11.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
36キロワット |
3 事実の経過
アンティー・アン(以下「ア号」という。)は、センターボードを有するFRP製クルーザー型ヨットで、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、福井県敦賀港へ回航の目的で、センターボードのある船体中央1.8メートルの喫水をもって、平成14年4月27日08時00分岡山県牛窓港を発航して沿岸諸港に燃料補給のため寄港しながら敦賀港へ向かい、翌々29日10時30分福岡県新門司マリーナに燃料補給ために寄港して12時30分同マリーナを発し、次の寄港地山口県油谷港に向かった。
18時24分少し前A受審人は、角島灯台から208度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点で、針路を067度に定め、機関を全速力前進に掛け、メインセールを3分の2ほど展張し、5.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)で機帆走して自動操舵により進行した。
定針したとき、A受審人は、海士ケ瀬戸を通航することが初めてであったが、角島大橋は大きな橋であったからその下も水深が十分にあって通航できるものと思い、日没が迫っていたので明るいうちに油谷港に入港しようと慌てていたことから、保有していた財団法人日本水路協会発行のプレジャーボート・小型船用港湾案内(本州北西岸)(以下「港湾案内」という。)により角島大橋の桁下高さ18メートルを確認したのみで、海士ケ瀬戸の水深0.9メートルなどの浅瀬並びに同瀬戸の最狭部を南北に掘り下げた幅50メートルの水路を示す海士ケ瀬南灯浮標及び同瀬北灯浮標が同案内に記載されていたものの、同案内を精査するなど、水路調査を十分に行わなかった。
18時37分A受審人は、角島灯台から173度1.5海里の地点に達したとき、針路を角島大橋橋梁灯(L二灯)及び同橋梁灯(R二灯)間の中央に向かう052度に転じたところ、海士ケ瀬戸に存在する浅瀬へ向首進行することとなったが、依然港湾案内を精査するなど水路調査を十分に行うことなく、このことに気付かず、同一針路で続航し、同時59分半測深儀で水深4.0メートルを認め、2.0ノットの速力に落とし、更に水深が2.0メートルになったので、乗揚の危険を感じ、反転しようとして左舵一杯としたが及ばず、19時00分角島灯台から093度1.9海里の地点において、ア号は、船首が022度に向いたとき、原速力のまま海士ケ瀬戸に存在する浅瀬へ乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、日没は18時59分であった。
乗揚の結果、ア号は、センターボードの取付け部に亀裂を生じ、高潮時に付近を航行中の漁船に引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、山口県海士ケ瀬戸において、油谷港に向かって北上する際、水路調査不十分で、同瀬戸に存在する浅瀬へ向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、海士ケ瀬戸において、油谷港に向かって北上する場合、同瀬戸を北上するのは初めてであり、同瀬戸の事情をよく知らなかったのであるから、保有していた港湾案内を精査するなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、角島大橋は大きな橋であったからその下も水深が十分にあって通航できるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同瀬戸に存在する浅瀬へ向首進行して乗揚を招き、センターボード取付け部に亀裂を生じさせるに至った。