(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月11日23時43分
備讃瀬戸 波節岩
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船芸洋丸 |
総トン数 |
498トン |
全長 |
70.63メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
芸洋丸は、砂利等の運搬に従事する船尾船橋型の鋼製砂利運搬船兼貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.40メートル船尾3.15メートルの喫水をもって、平成14年3月11日10時05分三重県三木浦漁港を発し、瀬戸内海を経由することとして大分県守江港に向かった。
発航後、芸洋丸は、紀伊半島沿岸に沿って航行したのち、A受審人が鳴門海峡の通峡操船に当たり、その後播磨灘を経て備讃瀬戸北航路(以下「北航路」という。)を西行するに至った。
23時20分ごろA受審人は、香川県牛島北東方沖合で昇橋し、所定の灯火が掲げられているのを確認して船橋当直を交替し単独で当直に就いた。同時25分半牛島灯標から308度(真方位、以下同じ。)320メートルの地点で、針路を244度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して11.5ノットの対地速力で北航路を進行した。
定針したとき、A受審人は、右前方近距離に等間隔でほぼ一列となって航行している3隻の同航船を視認し、これらの同航船が自船より速力が遅かったので、北航路南端付近に存在する波節岩に達するまでに追い越すことができるものと考え、23時31分少し前波節岩灯標から067度2.4海里の地点に達したとき、針路を同岩の北北東端に向首する247度に転じ、その後先航する3隻の同航船を順次右舷側に追い越して続航した。
ところが、A受審人は、追い越したばかりの同航船に気をとられ、波節岩との相対位置を十分に確認しなかったので、同岩の北北東端に著しく接近していたことに気付かないまま進行中、同時43分少し前間近に迫った同岩を認め、右舵を取ったものの効なく、23時43分波節岩灯標から020度20メートルの地点において、芸洋丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その船首部が同岩の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、付近海域には約1.7ノットの東流があった。
乗揚の結果、船首船底外板に凹損及び左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、満潮時に機関を使用して自力離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、備讃瀬戸北航路を西行する際、同航路南端付近に存在する波節岩との相対位置の確認が不十分で、これに向いたまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、備讃瀬戸北航路を西行する場合、波節岩の手前で数隻の同航船を追い越す状況であったから、同岩に寄り過ぎないよう、同岩との相対位置を十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、追い越したばかりの同航船に気をとられ、波節岩との相対位置を十分に確認しなかった職務上の過失により、同岩に向いたまま進行して乗り揚げを招き、船首船底外板に凹損及び左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。