(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年2月19日01時10分
鳴門海峡
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船栄勢丸 |
総トン数 |
171トン |
全長 |
43.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
3 事実の経過
栄勢丸は、主に木材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人、B指定海難関係人ほか1人が乗り組み、機関長が休暇下船のまま、空倉で、船首1.4メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成14年2月18日20時00分和歌山県御坊港を発し、香川県坂出港に向かった。
これより先、栄勢丸は、揚荷役を終えて同18日10時30分和歌山県田辺港を出港し、13時00分御坊港に仮泊して乗組員が休息をとったのち、前示のとおり発航したものであった。
A受審人は、鳴門海峡など狭水道での操船を自らが行う予定とし、船橋当直を単独の3時間3直制に定め、20時30分ごろ和歌山県日ノ御埼沖合で、一等航海士に船橋当直を委ねたが、乗組員は海上経験が豊富なので特に指示することもあるまいと思い、居眠り運航の防止措置がとれるよう、申し送り事項として、眠気を催した際の報告について十分に指示することなく、船橋後部の寝台で仮眠した。
B指定海難関係人は、23時30分兵庫県沼島南東方5海里付近で、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、いつものように大鳴門橋の手前約1.5海里に達したらA受審人を起こす予定で、同時45分沼島灯台から140度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点において、針路を288度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.1ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
定針後、B指定海難関係人は、操舵輪後方の肘掛付きのいすに座って当直を続けるうち、眠気を催すようになったが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、速やかにこのことをA受審人に報告しないで、そのまま当直を続けた。
翌19日00時40分B指定海難関係人は、大磯埼灯台から096度3.1海里の地点に至ったとき、いすに座ったまま自動操舵装置のつまみを回し、針路を鳴門海峡ほぼ中央に向く325度に転じ、その後折からの風潮流により右方に3度圧流されて続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして栄勢丸は、居眠り運航の防止措置がとられることなく、鳴門海峡の中瀬に向首する針路となったまま進行中、01時10分鳴門飛島灯台から037度1,060メートルの地点に、原針路原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、鳴門海峡はほぼ転流時で、その南側では反時計回りに流れる微弱なわい流があった。
A受審人は、乗揚の衝撃で起き、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船底全般に亀裂及び凹損を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、紀伊水道を鳴門海峡に向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同海峡の中瀬に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、眠気を催した際の報告について十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、眠気を催した際、このことを船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、紀伊水道において、乗組員に単独の船橋当直を委ねる場合、居眠り運航の防止措置がとれるよう、船橋当直者に対し、眠気を催した際の報告について十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、乗組員は海上経験が豊富なので特に指示することもあるまいと思い、眠気を催した際の報告について十分に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から眠気を催した際の報告が得られず、居眠り運航の防止措置がとられないまま同当直者が居眠りに陥り、鳴門海峡の中瀬に向首進行して乗揚を招き、船底全般に亀裂及び凹損を生じさせるに至った。
B指定海難関係人が、夜間、単独の船橋当直に就き、紀伊水道を鳴門海峡に向けて航行中、眠気を催した際、速やかにこのことを船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。