(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月29日23時14分
東京都八丈島南東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五 三栄丸 |
総トン数 |
7.9トン |
登録長 |
13.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
3 事実の経過
第五 三栄丸(以下「三栄丸」という。)は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.20メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成13年8月25日21時00分東京都八丈島北部の神湊(かみなと)港を発し、翌26日06時ごろベヨネース列岩の北方1海里付近の漁場に到着したのち、明神礁付近の漁場との間を行き来しながら毎日日出から日没まで操業し、同月29日17時00分ベヨネース列岩から070度(真方位、以下同じ。)5.5海里の明神礁最浅地点を発進して帰途に就いた。
ところでA受審人は、夜間、パラシュート型アンカーを投入し、航海灯のほか各種作業灯を点灯して休んでいたものの、付近を航行する漁船が多く、時々起きて見張りをしていたため、継続的な休息を十分にとれず、徐々に疲労が蓄積することから、平素、操業開始から4ないし5日目になると帰途に就くようにしていた。
また、A受審人は、漁場への往復の航海当直は甲板員と適宜交代しながら行うことにしていたが、当時、甲板員は風邪による発熱があり、夕食後しばらくして同人を休ませたため、帰港地まで長時間の単独当直に就くことになった。
発進後、A受審人は、GPSプロッターにより八丈島の石積ヶ鼻沖合2海里の地点に向く針路を設定して自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、操舵室後方の棚に腰を掛け、右舷側の壁に体をもたれかけた体勢で当直を続け、時々GPSプロッターを見て左右のずれを自動操舵のつまみで修正したり、前方を帰港中の僚船と無線交信を行い、そのころ北緯24度東経146度付近に停滞した台風12号の影響による南東寄りの大きなうねりを受けながら北上した。
途中、A受審人は、うねりの影響の軽減と海流による東への圧流防止のため、針路を少し左に転じ、八丈島南部の洞輪沢港沖合1海里の地点に向け、その後石積ヶ鼻をつけ回して神湊港に向ける予定で航行したところ、22時ごろ八丈島南端まで13海里の地点に至り、眠気を感じるようになったが、僚船との無線交信で気が紛れていたので、特に気にすることもなく北上を続けた。
22時30分A受審人は、八丈島灯台から169度8.8海里の地点に達し、船首方に洞輪沢(ほらわざわ)港の明かりが見え始めると共に海流の影響もなくなったことから、針路を同港に向く345度に定め、12.0ノットの速力のまま自動操舵により進行した。
そのころA受審人は、僚船が八丈島の陰に入ったため同船との無線交信が途絶え、操業中に蓄積した疲労から強い眠気を催すようになったが、帰港地まで近いのでなんとか眠気を我慢できるものと思い、手動操舵に切り替えたうえ、外気に当たって眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航したところ、22時43分八丈島灯台から170度6.2海里の地点に至ったとき、GPSプロッターにより神湊港までの直線距離が10海里となったことを知り、これで安堵したこともあってまもなく居眠りに陥った。
こうして三栄丸は、23時09分八丈島灯台から200度1.2海里の洞輪沢港沖合1海里の予定転針地点に達したが、A受審人が居眠りしていてこれに気付かず、陸岸に向首したまま進行中、23時14分原針路、原速力のまま、八丈島灯台から251度0.6海里の八丈島南東岸の岩場に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、三栄丸は、船体を大破し、廃船となった。
(原因)
本件乗揚は、夜間、八丈島南方沖合を同島神湊港に向けて帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同島南東岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、風邪で発熱した甲板員を休ませ、単独の船橋当直に就いて八丈島南方沖合を同島神湊港に向けて帰航中、強い眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、操舵を手動操舵に切り替えたうえ、外気に当たって眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、帰港地が近いので入港まで眠気を我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って八丈島南東岸への乗揚を招き、三栄丸の船体を大破させ、廃船とせしめるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。