(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月28日11時34分
沖縄県西表島船浦港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船サザンクロス5号 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
26.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,529キロワット |
3 事実の経過
サザンクロス5号は、沖縄県石垣港を基地として同県八重山列島諸港間の旅客輸送に従事する2基2軸の軽合金製旅客船で、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客2人を乗せ、船首0.70メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成13年9月28日11時25分西表島北岸の船浦港上原の船だまり(以下、単に「船浦港」という。)を発し、石垣港に向かった。
ところで、船浦港東方約1海里には鳩離島があり、干出さんご礁が陸岸から同島北方約400メートルまで拡延し、また、同島北方約3海里に干出さんご礁で囲まれた鳩間島があって、その南東方約1.5海里まで同礁が拡延していた。さらに、同島南南東方約2海里のところを西端とし、そこから南東方へ約2海里までダイクピーと呼ばれる干出さんご礁帯が、ダイクピー西端の西方約800メートルにも北西方へ約1,500メートルまで干出さんご礁が拡延しており、船浦港出入口付近の航路標識としては、鳩離島北方の干出さんご礁北端付近に船浦港北口第3号立標(以下、立標の名称については「船浦港」の冠称を省略する。)、ダイクピー西端付近には北口第1号立標がそれぞれ設けられていた。
船浦港を発航して石垣港に向かうには、北口第3号立標を船首目標として北東進し、同立標を右舷側に見たあと北口第1号立標の少し西方に向首する。そして、同立標航過後ダイクピーとその西方の干出さんご礁で挟まれた水路を北上し、同立標北方約1,100メートルのところで大角度に右転し、目視により浅礁を確認しながら、ダイクピーと鳩間島南東方の干出さんご礁で挟まれた可航幅約1,000メートルの鳩間水道を通航してダイクピーの北側海域を東行し、その後竹富島の北方を経て目的地に至るもので、A受審人は、これら航路の状況について十分に承知していた。
A受審人は、当日早朝から石垣島地方に大雨、波浪などの注意報が出されている中、小雨模様ではあったものの、視程が500メートルを超え、運航基準で定められた発航条件を満たしていたので前示のとおり発航し、間もなく機関を全速力前進より少し下げた30.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、甲板員を操舵室での見張りに就け、自らは同室右舷側で手動操舵に当たり、3海里レンジとしたレーダーと肉眼による見張りを行って北口第3号立標に向けて北東進した。
11時30分わずか前A受審人は、北口第3号立標を右舷側約180メートルに航過し、その後北口第1号立標を船首目標として続航し、同時31分少し前同立標を098度(真方位、以下同じ。)100メートルに見る地点に達したとき、針路を008度に定め、その後ダイクピー西端とその西方の干出さんご礁間の水路を経て鳩間水道に入った。
11時32分A受審人は、北口第1号立標から002度1,080メートルの地点に達したとき、機関を半速力前進の25.0ノットの速力に減じるとともに、目見当で針路を125度に転じた。そして、ダイクピーに近寄っても同外縁付近まで水深は深いから、同外縁付近で生じる砕波を見ながら航行すれば心配ないと考えて進行したところ、転針直後に雨足が急に強まって豪雨となり、視程は20メートル以下となって、レーダーでは調整しても同画面が真っ白となり周囲の物標を確認できなかったうえ、目標としていたダイクピー外縁付近の砕波を目視できない状況となったが、豪雨は一時的なもので、すぐに小降りとなって同波は見えてくるものと思い、速やかに行きあしを止めて視界の回復を待つことなく、ダイクピー外縁付近の浅礁に著しく接近していることに気付かないまま続航した。
11時34分わずか前A受審人は、船首至近にダイクピー外縁付近の砕波を視認し、急いで機関のクラッチを中立としたが効なく、11時34分北口第1号立標から081度1,300メートルの地点において、サザンクロス5号は、原針路、原速力のまま、ダイクピー外縁付近の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力6の南南東風が吹き、視程は20メートル以下で、潮候はほぼ低潮時であった。
乗揚の結果、船底全般にわたる凹損を生じたほか、両舷推進器翼、同軸及び舵板の曲損を生じたが、来援した僚船により引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、沖縄県西表島船浦港北東方沖合に拡延する干出さんご礁帯ダイクピーの北側海域において、同県石垣港に向け転針直後に豪雨で視界が著しく制限され、レーダーでは調整しても同画面が真っ白となり周囲の物標を確認できなかったうえ、目標としていたダイクピー外縁付近の砕波を目視できない状況となった際、速やかに行きあしを止めて視界の回復を待たず、同外縁付近の浅礁に著しく接近して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県西表島船浦港北東方沖合に拡延する干出さんご礁帯ダイクピーの北側海域において、同県石垣港に向け転針直後に豪雨で視界が著しく制限され、レーダーでは調整しても同画面が真っ白となり周囲の物標を確認できなかったうえ、目標としていたダイクピー外縁付近の砕波を目視できない状況となった場合、同外縁付近の浅礁に著しく接近することのないよう、速やかに行きあしを止めて視界の回復を待つべき注意義務があった。しかるに、同人は、豪雨は一時的なもので、すぐに小降りとなってダイクピー外縁付近の砕波は見えてくるものと思い、速やかに行きあしを止めて視界の回復を待たなかった職務上の過失により、ダイクピー外縁付近の浅礁に著しく接近していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、船底全般にわたる凹損、両舷推進器翼、同軸及び舵板の曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。