(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月24日04時10分
薩摩半島長崎鼻北東部
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十三豊徳丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
24.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
3 事実の経過
第二十三豊徳丸(以下「豊徳丸」という。)は、中型まき網漁業の灯船として操業に従事するFRP製漁船で、魚群探索を兼務し、A受審人ほか1人が乗り組み、平成13年4月12日17時00分網船ほか4隻と共に船団を組んで基地港である鹿児島県頴娃漁港(大川地区)を発し、大隅海峡及び大隅群島周辺海域において夜間に操業し、昼間は最寄りの港あるいは島陰に仮泊して休息をとる形態で操業を重ね、同月23日07時ごろ操業を終え、鹿児島県竹島北部沿岸沖で錨泊して休息をとったのち、17時ごろ抜錨して魚群探索を開始した。
A受審人は、大隅海峡南部海域から鹿児島県硫黄島南方海域にかけて魚群探索を行ったのち、翌24日02時30分ごろ佐多岬北西方海域に至って同探索を再開し、03時24分少し過ぎ立目埼灯台から255度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点で、針路を薩摩長崎鼻灯台の少し右方に向く350度に定め、機関を半速力前進に掛け、8.0ノットの対地速力で、操舵室右舷側の舵輪後方に置いたいすに腰掛けて自動操舵とし、魚群探索を行っていたところ、同時37分少し過ぎ網船の漁労長から当夜の操業を打ち切って児ケ水湾で仮泊する旨の指示を受けた。
ところで、A受審人は、自船ともう1隻の灯船とともに、網船の投網及び揚網時においては集魚や運搬船の裏漕ぎなどに当たり、漁獲物の運搬船への取込みが終われば、次の漁場を探すための魚群探索を行う役割を任されていたところ、大隅海峡南部海域で良好な魚影反応に遭遇せず、硫黄島南方に至ってわずかな魚影を探知し、2時間ばかり錨泊して集魚を試みたものの、集魚できずに佐多岬北西方海域に至ったもので、同集魚作業を除いて、投網及び揚網時のような活気や変化のある任務に就かないまま、単独の船橋当直を続けて集中力を要する魚群探索のみを行っていたので、精神的な疲労が蓄積する状況となっていた。
漁労長の指示を受けたとき、A受審人は、児ケ水湾の方に向かっていたので、そのままの針路及び速力とし、長崎鼻に近付いたところで赤水鼻を替わす針路に転じるつもりで続航していたところ、操業打ち切りの安堵感から眠気を催したが、前日の昼間に休息を十分とっていたので眠ることはないだろうと思い、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった。
こうして、A受審人は、単独当直のまま進行中、間もなく居眠りに陥り、03時57分半薩摩長崎鼻灯台から162度1.5海里の予定転針点付近に達したが、そのままの針路で続航し、04時10分薩摩長崎鼻灯台から036度580メートルの地点において、豊徳丸は、原針路、原速力のまま、長崎鼻北東部の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、乗揚の衝撃で目覚め、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、舵板、プロペラ軸及びプロペラ翼を曲損し、シュウピースが脱落したほか、舵取機及びソナーの送受波器に損傷を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、鹿児島湾口において、仮泊予定地点に向けて北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、長崎鼻北東部の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鹿児島湾口において、単独の船橋当直に就き、仮泊予定地点に向けて北上中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、前日の昼間に休息を十分とっていたので眠ることはないだろうと思い、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定の転針が行われずに進行して乗揚を招き、舵板、プロペラ軸及びプロペラ翼の曲損、並びにシュウピースの脱落、舵取機及びソナーの送受波器に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。