(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年3月6日05時10分
平戸瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船高山丸 |
総トン数 |
583トン |
全長 |
69.66メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
高山丸は、専ら砂利や石材の運搬に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.1メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成13年3月5日10時05分山口県屋代島久賀港の弁天埠頭(ふとう)を発し、関門海峡及び長崎県平戸島西方沖を経由する予定で同県相浦港に向かった。
ところで、A受審人は、同月2日相浦港で高山丸に乗船し、翌3日同港を出港して平戸瀬戸を北上し、屋代島に砂利を運搬したのち、再び同港に戻る航海に従事していたもので、それまで同瀬戸を通航した経験がなかったことから、同港出港に当たり、備付けの海図で同瀬戸の地形や灯台の位置及び灯質などを調査し、また、同瀬戸通航時には一等航海士とともに操船に当たってその状況を確認していた。
平戸瀬戸は、長崎県北松浦郡田平町の九州西岸と同県平戸市の平戸島東岸とで形成されるS字状の狭い水道で、同瀬戸の中央部田平町側に南風埼が、北口中央部に広瀬と称する小島が、南口の平戸島寄りに小田助瀬及び大田助瀬と称する岩礁がそれぞれ存在し、各場所には灯台あるいは灯標が設置されていた。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士との単独6時間交替とし、同月6日00時00分福岡県大島西方沖合約5海里で当直に就いて玄界灘を西行中、北西寄りの風浪を右舷から受けて船体が横揺れするので、予定を変えて平戸瀬戸を通航することとし、広瀬西方から同瀬戸を南下して南風埼灯台西方沖合に至り、その後南東方に転針し、小田助瀬及び大田助瀬の東方を航行後右転して平戸大橋中央部下を通過する針路線を海図に記載したうえ、03時29分佐賀県馬渡島番所ノ辻山頂(238メートル)から315度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点で、針路を同瀬戸北口に向く212度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.3ノットの対地速力で進行した。
04時58分A受審人は、広瀬導流堤灯台から302度220メートルの地点に達したとき、針路を179度に転じるとともに、機関を半速力前進に落として9.0ノットとし、折からの潮流に抗して6.0ノットの対地速力で、手動操舵に切り換えて平戸瀬戸に入った。
A受審人は、舵輪左舷側に設置したレーダーを0.75海里レンジとしていたものの、専ら目視により船位の確認を行い、05時00分少し過ぎ平戸瀬戸牛ケ首灯台から286度270メートルの地点に差し掛かったとき、操業中の漁船群と遭遇し、左右に転舵して避航するうち、同灯台や南風埼灯台の灯火などの識別ができなくなって気が動転し、船位がわからなくなったが、3日前に平戸瀬戸を北上した経験があるので周囲の明かりを見て行けば何とか通航できるものと思い、更に減速したうえ、作動中のレーダーを活用するなど、船位の確認を十分に行うことなく、原針路に戻して南下を続けた。
A受審人は、左右両岸の街明かりや前方の平戸大橋の照明などを見て進行するうち、どこを通っていいかわからなくなってますます気が動転し、05時05分半から左転及び右転したのち、同時07分南風埼灯台から182度430メートルの地点で、針路をとりあえず平戸大橋橋梁灯(C1灯)及び大田助瀬灯標の両灯火を一線に見る161度として続航し、やがて大田助瀬に著しく接近する状況となったものの、依然として船位の確認が不十分で、このことに気付かず、同時10分少し前ようやく乗揚の危険を感じて右舵をとったが、及ばず、05時10分大田助瀬灯標から303度40メートルの地点において、高山丸は、171度に向首し、原速力のまま、大田助瀬北西端の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、平戸瀬戸には約3ノットの北流があった。
乗揚の結果、前部船底外板に破口をともなう凹損及び推進器翼に曲損を生じたが、来援した引船によって離礁し、長崎県佐世保港に引き付けられ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県相浦港に向けて平戸瀬戸を南下する際、船位の確認が不十分で、大田助瀬に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県相浦港に向け平戸瀬戸を減速して南下中、漁船群を避航するうち、周囲の灯台の灯火等の識別ができなくなって船位がわからなくなった場合、更に減速したうえ、作動中のレーダーを活用するなど、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、3日前に同瀬戸を北上した経験があるので周囲の明かりを見て行けば何とか通航できるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、大田助瀬に著しく接近して同瀬北西端の浅礁への乗揚を招き、前部船底外板に破口をともなう凹損及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。