(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年1月22日00時35分
瀬戸内海 怒和島水道
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船七興栄丸 |
総トン数 |
4,183.78トン |
全長 |
111.92メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,399キロワット |
3 事実の経過
第七興栄丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか9人が乗り組み、撤セメント5,143トンを載せ、船首6.23メートル船尾6.29メートルの喫水をもって、平成14年1月21日17時10分福岡県苅田港を発し、怒和島水道経由、広島県広島港に向かった。
ところで、A受審人は、出航前海図上に記入した広島港までのコースラインを確認したとき、怒和島水道通峡について、それまでの経験から、夜間通航船舶が少なく、転針も1回のみであり、また当直航海士も同水道通峡の経験が十分にあるので、同人に操船を委ねることにしたが、当直航海士を補佐する目的で昇橋することにして、同水道入峡の15分前にあたるところに船長起こしと記入し、通峡時の当直にあたるB受審人にもその旨口頭で指示した。指示を受けたB受審人は、A受審人が昇橋して操船指揮を執るものと思った。
こうして、A受審人は、離岸操船を行った後、17時24分機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対水速力で苅田港の水路を東行し、同時50分水路出口付近で、航海士と操舵手による4時間3直制に移行することにして船橋当直を一等航海士に委ね、降橋して休息した。
23時50分B受審人は、山口県片島の南西方3海里の地点で、三等航海士から船橋当直を引継ぎ、操舵手を操舵に配して東行し、翌22日00時10分A受審人を電話で起こし、5分後に同人が昇橋してきたのち、同時20分半オコゼ岩灯標から199度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、針路を同灯標に向く020度に定め、折からの潮流に乗じて12.0ノットの対地速力で進行し、同時25分怒和島水道入り口付近でA受審人に操船を引継ぎ、3海里レンジとした1号レーダーを監視して船長補佐にあたった。
A受審人は、操船指揮を執ることにしたものの、航海士を補佐するつもりで昇橋したことや寝起きで少しぼんやりしていたこともあって、予定の転針地点に達したらB受審人から報告があると思い、レーダーを見るなどして自ら船位を確認することなく、月明かりもなく右舷正横となったころ転針する予定にしていた板倉島も怒和島も見えず目視で船位の確認が十分にできない状況のもと、船橋中央部のレピーターコンパスの左側に立って操船指揮にあたり、00時28分正船首少し左方に見えるようになったオコゼ岩灯標の灯火に向くよう針路を018度に転じて続航した。
00時30分半A受審人は、B受審人から「近いところ3ケーブル」との報告を受けたが、その意味が良くわからないまま、体を移動して船首マストの陰に入っていたオコゼ岩灯標の灯火を見たところ遠くに感じ、転針地点までまだ距離があると考えて、報告の意味を問い直すことも、依然船位の確認も十分に行わないまま、同じ針路、速力で進行した。
B受審人は、板倉島が右舷正横方3ケーブルとなってほぼ転針地点に達したという意味で「近いところ3ケーブル」と報告したものの、A受審人がすぐに転舵を令しなかったが、転針目標からの並航距離を報告したので予定の転針が行われるものと思い、再度転針地点に達したとの報告をするなどして船長補佐を十分に行うことなく、1分間ほどレーダー監視を続けたのち、00時33分海図上で船位を確かめるため海図室に入った。
こうして、第七興栄丸は、予定の転針が行われず、オコゼ岩に向首したまま、同じ速力で続航し、00時35分少し前海図室から出てきたB受審人が船首方間近にオコゼ岩灯標の灯火を認め、A受審人にその旨報告すると共に左舵一杯を令したものの効なく、00時35分オコゼ岩灯標の西方5メートルの浅礁に、船首が007度を向いて、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力7の西風が吹き、潮侯は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船首部船底に破口を伴う大きな凹損と船底全般に擦過傷を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、瀬戸内海怒和島水道を北上する際、船位の確認が不十分で、予定の転針が行われず、オコゼ岩に向首したまま進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、船位の確認を十分に行わないまま操船指揮したことと、当直航海士が、転針地点に関して船長補佐を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、操船指揮を執って怒和島水道を北上する場合、月明かりがなく転針の目標としていた板倉島も怒和島も見えず目視で船位を十分に確認できない状況であったから、転針時機を失することのないよう、レーダーを見るなどして自ら船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針地点に達したら当直航海士から報告があると思い、自ら船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、予定の転針が行われず、オコゼ岩に向首したまま進行して乗揚を招き、船首部船底に破口を伴う大きな凹損と船底全般に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、船長を補佐して怒和島水道を北上中、転針地点に達したことを報告しても転針が行われなかった場合、再度転針地点に達したことを報告するなどして船長補佐を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針目標としていた物標からの並航距離を報告したことで予定の転針が行われるものと思い、再度転針地点に達したことを報告するなどして船長補佐を十分に行わなかった職務上の過失により、予定の転針が行われず、オコゼ岩に向首したまま進行して、乗揚を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。