(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月29日02時25分
広島県 蒲刈港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八勇進丸 |
総トン数 |
491トン |
登録長 |
64.88メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
第八勇進丸(以下「勇進丸」という。)は、瀬戸内海側の四国沿岸諸港で砂を積み、大阪港で揚荷したあと広島県呉港及び九州方面への建設残土等の輸送に従事する、船尾船橋型の鋼製砂利採取運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、建設残土830立方メートルを載せ、船首3.60メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、平成13年11月28日12時30分大阪港を発し、呉港に向かった。
ところで、A受審人は、前航海が平素と異なり三重県尾鷲港に寄港し、同港及び大阪港での揚積作業のクレーン操作を自らが行うなど、寄港地での休息がとれずに疲労が蓄積していた。そして今航海の船橋当直を一等機関士、一等航海士及び自らの順番で3人による3直4時間制としたが、14時間の航海のうち呉港までの残り6時間の当直を自らが受けもつこととし、大阪港の出航操船のあと自室で休息したものの、寝付かれないまま過ごし、21時30分ごろ高見島北方沖合で昇橋して船橋当直に就いたとき、やや睡眠不足気味でもあった。
A受審人は、備後灘を西行したのち伯方、唐島及び柳ノ各瀬戸を経由して三津湾南方沖合に至り、その後漁船群を避けながら航行し、翌29日02時03分蒲刈港宮盛東防波堤灯台から033度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点で、周囲に漁船もいなくなったので、針路を249度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じ、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針後、A受審人は、船橋左舷後方に置かれた背もたれ肘掛け付きの椅子に座って見張りに当たったところ、疲労や睡眠不足から眠気を催したが、入港までもう少しなので何とか我慢できるものと思い、休息中の乗組員と当直を替わるなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
02時21分A受審人は、猫瀬戸東口から東方1.1海里の地点で、同瀬戸に向かう転針点に達したことに気付かず、下蒲刈島の北東岸に向首したまま進行し、同時24分半ふと目を覚まし、前方に海岸線を視認したので機関を全速力後進にかけたが及ばず、02時25分女猫島灯台から201度1,050メートルの地点において、勇進丸は、原針路のまま5ノットの速力で広島県蒲刈港内下蒲刈島北東岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、付近海域には約1ノットの西流があった。
乗揚の結果、船首部船底外板に擦過傷を生じ、保護亜鉛板2枚が脱落したが、潮位の上昇により自然離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、広島県蒲刈港北方沖合を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港内の下蒲刈島北東岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直にあたって広島県蒲刈港北方沖合を西行中、疲労や睡眠不足から眠気を感じた場合、休息中の乗組員と当直を替わるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入港までもう少しなので何とか我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、下蒲刈島北東岸に向首進行して乗揚を招き、船首船底外板に擦過傷を生じさせ、保護亜鉛板2枚を脱落させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。