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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年広審第56号
件名

プレジャーボート大時乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年8月2日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:大時船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船尾外板の一部破損、プロペラ脱落し、航行不能

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月22日16時45分
 広島県呉港呉区

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート大時
総トン数 10トン
登録長 14.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 501キロワット

3 事実の経過
 大時は、FRP製プレジャーボートで、主に船舶所有者の社員がレジャーや取引先の接待用に運航していたところ、A受審人が1人で乗り組み、同人が経営する遊戯場の従業員とその家族など9人を乗せ、遊覧のため、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成14年4月22日14時30分広島市江波沖町の係留場所を発し、広島湾に向かった。
 ところで大時は、広島湾を頻繁に航行することから、2年ほど前に購入した海図第142号(広島湾)が操縦席後方の台上に置かれ、必要なときには何時でも同海図を見ることができ、また、操縦席前に磁気コンパスやレーダーのほか、同湾内の海岸を表示することができるGPSプロッタが装備されていた。
 出航後A受審人は、付近の陸岸や、レーダー及びGPSプロッタによって船位を確認しながら航行し、14時50分宮島北岸の厳島港沖合に停船して休憩したあと、15時10分同港を発進して大野瀬戸を西行し、阿多田島北方を経て西能美島、東能美島の各島西岸に沿って南下したのち早瀬瀬戸を北上し、16時20分広島県呉港呉区に到着した。
 呉港内に入ったあとA受審人は、ときどき機関を停止して行きあしを止め、折から停泊中の潜水艦などの艦船を見物しながらゆっくりと港奥に向かい、その後帰航するため昭和ふ頭沖300メートルのところで左旋回し、16時43分大麗女島南東1,300メートルのところで、折から出航する旅客フェリーの通過を待ち、その後同フェリー船尾方を小麗女島南方に向け約8ノットの速力で航行していたところ、小麗女島東方を漁船らしい小船が航行しているのを見て近道をすることを思い立ち、大麗女島と呉市若葉町の陸岸との間の幅約250メートルの水路を通って江田島東岸の切串沖に直航することとした。
 A受審人は、それまで幾度も小麗女島西方を航行したが、大麗女島東側の前示水路を通航するのは初めてで、同島から北東方に干出浜や干出岩などから成る、鵜ノ糞と称する浅礁が若葉町の陸岸近くまで拡延していて、同水路の通航が危険であることを知らなかった。そして、備え付けの海図第142号には大麗女島東方に危険界線で囲まれた浅礁が記載され、また、GPSプロッタに表示された広島湾の海岸図を拡大すれば同浅礁の存在を知ることができたが、前方の同水路を一見し、波浪や岩などを認めなかったので危険な浅瀬はないものと思い、海図第142号を見るとか、GPSプロッタの海岸図を拡大するなどして同水路に危険な浅瀬などがあるかどうか水路調査を十分に行わず、16時43分半小麗女島灯台から115度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点で、針路を323度に定めて同水路のほぼ中央に向首し、機関を回転数毎分2,100の全速力前進にかけ、28.0ノットの速力で進行した。
 A受審人は、操縦席に座って前方を注視し、隣に立っていた知人と話をしながら続航中、16時45分大時は、小麗女島灯台から054度670メートルの地点において、原針路、原速力のまま、浅礁に乗り揚げ、これを擦過した。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の末期にあたり、呉港の潮高は2.3メートルであった。
 乗揚の結果、船尾外板の一部が破損し、プロペラ軸及び舵が曲損するとともにプロペラが脱落して航行不能となり、A受審人の知人が所有する漁船により広島港にえい航され、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、広島県呉港呉区の若葉町沖合を北上する際、水路調査が不十分で、大麗女島北東方の浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、広島県呉港呉区から広島港に帰航する際、若葉町沖合の大麗女島東側水路を北上しようとする場合、同水路を通航するのは初めてであったから、危険な浅瀬などがあるかどうか備え付けの海図により水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、大麗女島と若葉町陸岸との間の水路を一見し、波浪や岩などを認めなかったので危険な浅瀬はないものと思い、備え付けの海図により水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同島北東方に拡延する浅礁の存在に気付かず、同浅礁に向け進行して乗揚を招き、プロペラ軸及び舵を曲損させてプロペラを脱落させるとともに、船尾外板の一部を破損させるに至った。





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