(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月4日05時50分
北海道苫小牧港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八昭栄丸 |
総トン数 |
4.3トン |
全長 |
13.63メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
161キロワット |
3 事実の経過
第十八昭栄丸(以下「昭栄丸」という。)は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、ほっき貝まんが漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成13年12月4日02時30分北海道苫小牧港漁港区(以下「漁港区」という。)を発し、漁港区西方沖合の漁場に向かった。
ところで、漁港区西方5海里付近に位置する苫小牧市錦岡地先の海岸から約400メートル沖合には、苫小牧灯台から248度(真方位、以下同じ。)5,250メートルのところを西端とする、長さ100メートルの5基の護岸堤が東西方向に100メートルの間隔をもって設置されていた。
A受審人は、03時10分ごろ最西端の護岸堤西南西方2海里付近の漁場に至って4回の投揚網を繰り返し、ほっき貝150キログラムを漁獲したところで操業を終えた。
05時30分A受審人は、苫小牧灯台から246度4.8海里の地点を発進し、漁港区に向け帰航の途に就き、3海里レンジとしたレーダーで確認した護岸堤を目標とし、針路を同堤に向首する064度に定め、機関を半速力前進より少し減じて6.3ノットの対地速力で、自動操舵により進行を開始した。
ところが、A受審人は、定針して帰航するとき、最西端の護岸堤に400メートルに近づいた地点で定置網漁場がある同堤沖側海域を避けて左転し、護岸堤と海岸との間を航過するつもりでいたが、同堤に接近するまでまだ時間があるから大丈夫と思い、船位を確認するための船橋当直を適切に維持することなく、間もなく操舵室を離れ前部甲板に赴いて漁獲した貝の選別作業を始めた。
05時46分半少し過ぎA受審人は、苫小牧灯台から248度3.1海里の地点に達し、最西端の護岸堤に400メートルに近づいたが、依然として選別作業を続けていて、転針しないまま西側から2番目の護岸堤に向首進行していたところ、同時50分わずか前、選別作業を終え操舵室に戻った直後、05時50分苫小牧灯台から248度2.7海里の地点において、突然衝撃を受け、昭栄丸は、原針路、原速力で、護岸堤南側消波ブロックに乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、日出時刻は06時46分であった。
乗揚の結果、昭栄丸は、船底中央部に凹損、魚倉下部及びキールに亀裂を生じたが、僚船により引き下ろされたのち修理され、前部甲板にいた甲板員が10日間の通院治療を要する頭皮裂創等を負った。
(原因)
本件乗揚は、夜間、北海道苫小牧港西方沖合の漁場から漁港区に向け帰航中、船橋当直の維持が不適切で、苫小牧市錦岡地先沖合に設置された護岸堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、船橋当直に就き、苫小牧港西方沖合の漁場から漁港区に向け自動操舵により帰航する場合、錦岡地先沖合に設置された護岸堤に向首していたから、同堤と海岸との間に向けて転針するよう、船位を確認するための船橋当直を適切に維持すべき注意義務があった。ところが、同人は、護岸堤に接近するまでまだ時間があるから大丈夫と思い、操舵室を離れ前部甲板に赴いて漁獲した貝の選別作業を続け、船橋当直を適切に維持しなかった職務上の過失により、護岸堤に向首したまま進行して同堤南側消波ブロックに乗り揚げ、昭栄丸の船底中央部に凹損、魚倉下部及びキールに亀裂を生じさせたほか、甲板員が頭皮裂創等を負うに至った。