(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月27日22時20分
愛媛県温泉郡中島西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ユニオン |
総トン数 |
419トン |
全長 |
57.72メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
ユニオンは、国内各港間の化学品輸送に従事する船尾船橋型ケミカルタンカーで、A受審人ほか3人が乗り組み、苛性ソーダ500キロリットルを積載し、船首3.20メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成13年1月27日16時50分山口県徳山下松港を発し、大阪府大阪港へ向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直及び出入港操船等を行うほか、積荷及び揚荷当直にも従事しており、前日12時00分広島県大竹港に入港して揚荷役を行い、カーゴポンプに不具合が生じたことからカーゴタンクのガスフリー作業を実施し、業者が行う同ポンプの修理作業に徹夜で立ち会ったのち、明けて07時00分睡眠をとる間もなく、同港を出港し、13時00分徳山下松港に入港して積荷役を行っており、連日の作業で睡眠不足の状態のうえ、数日来風邪気味の体調で、風邪薬を服用していた。
A受審人は、船橋当直を、同人が8時から0時、次席一等航海士が0時から4時、一等航海士が4時から8時までの4時間交代の単独三直制としていたが、徳山下松港を出航する際、同当直時間割では、出航操船後わずかな休息時間を経て入直することとなり、睡眠不足から船橋当直中居眠りに陥るおそれがあることを認識していたが、短時間の休息がとれるので大丈夫と思い、当直時間割を変更して、入直前に十分な休息をとるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、出航操船を終え、降橋して2時間ほど睡眠をとり、夕食後に風邪薬を服用したのち、天田島西方沖合で昇橋し、19時45分一等航海士と交代して船橋当直に就いた。
A受審人は、扉及び窓を閉めきって暖房を効かせた操舵室内で、操舵スタンドの後方に置いたいすに腰を掛けて当直に当たり、22時11分部屋ノ鼻灯台から240度(真方位、以下同じ。)3,500メートルの地点で、針路を062度に定め、機関を引き続き全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で、自動操舵により進行中、いつしか居眠りに陥った。
22時17分A受審人は、部屋ノ鼻灯台から236度1,200メートルの転針予定地点に達したものの、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、転針できずに中島の西岸に向首したまま続航中、22時20分部屋ノ鼻灯台から210度200メートルの地点において、ユニオンは原針路、原速力のまま中島の西岸に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、前部船底外板に亀裂及び凹損を生じたが、来援した2隻の引船によって引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、愛媛県中島西方の部屋ノ瀬戸を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同島西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大阪港に向け徳山下松港を発航する際、連日の作業で睡眠不足の状態のうえ、風邪気味の体調で風邪薬を服用し、船橋当直中に居眠りに陥るおそれがあることを認識していた場合、居眠り運航とならないよう、当直時間割を変更して、入直前に十分な休息をとるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、短時間の休息がとれるので大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、夜間、愛媛県中島西方の部屋ノ瀬戸を東行中、居眠りに陥り、転針予定地点に達したことに気付かず、中島の西岸に向首したまま進行して乗揚を招き、前部船底外板に凹損及び亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。