(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月20日05時15分
鹿児島県平島南岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船福吉号 |
総トン数 |
496トン |
全長 |
52.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
福吉号は、船首部に制限荷重約200トンのジブクレーンを装備した船尾船橋型の作業船兼貨物船で、A受審人ほか6人が乗り組み、空倉で、船首1.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成13年1月19日13時40分鹿児島県口之島を発し、同県平島へ向かった。
ところで、当時、福吉号は、鹿児島県十島村の各港において、消波ブロックやケーソンの据え付けなどの港湾整備作業に従事していたものであり、平島においては、南之浜(はえのはま)港の連絡船桟橋先端部の水深22メートルばかりの海底に仮設してあったケーソンの撤去作業を行う予定であった。
A受審人は、同日夕刻、南之浜港沖合に到着したが、前示作業の開始時刻が翌朝の予定であったので、一旦(いったん)、錨泊して待機することとしたが、折から、風が沖合へ向けて吹いていたことから、まさか陸岸方向へ振れ回ることはあるまいと思い、レーダーを使用して陸岸までの距離を測定するなどして錨地の選定を適切に行うことなく、17時40分陸岸から200メートルばかりの、平島御岳山頂の三角点から183度(真方位、以下同じ。)1,750メートルの地点で、重さ1.6トンの右舷錨を水深33メートルの海底に投下し、錨鎖を6節延出して、守錨当直を立てないまま錨泊を開始した。
こうして、A受審人は、自室で就寝中、東シナ海を日本海方面へ北上していた低気圧が、夜半にかけて急速に発達して強い南寄りの風が連吹するようになり、早暁、船体が陸岸へ振れ回り、錨鎖がいっぱいに緊張したとき、20日05時15分前示御岳山頂の三角点から179.5度1,575メートルの地点において、福吉号は、船首を219度に向けた態勢で、その船尾が、陸岸の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力7の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、左舷船尾に破口を伴う凹損並びに両舷のプロペラブレード及びラダープレートに曲損をそれぞれ生じたが、他の作業船によって離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、鹿児島県平島南之浜港沖合で投錨する際、錨地の選定が不適切で、夜半にかけて天候が悪化したとき、船体が陸岸へ振れ回り、錨鎖がいっぱいに緊張して浅礁に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県平島南之浜港沖合で投錨する場合、レーダーを使用して陸岸までの距離を測定するなど、錨地の選定を適切に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、風が沖合へ向けて吹いていたことから、まさか陸岸方向へ振れ回ることはあるまいと思い、錨地の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、東シナ海を日本海方面へ北上していた低気圧が、夜半にかけて急速に発達して強い南寄りの風が連吹するようになり、船体が陸岸へ振れ回って錨鎖がいっぱいに緊張して浅礁への乗揚を招き、左舷船尾に破口を伴う凹損並びに両舷のプロペラブレード及びラダープレートに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。